第69話 家族が見つめた新しい姿――少年が取り戻した自信
土曜日の朝。
黒瀬怜司は、洗面所の鏡を見つめていた。
そこには、以前とはまるで違う少年が映っていた。
引き締まった輪郭。
整った目元。
すっと通った鼻筋。
そして、自然に伸びた背筋。
怜司は、少しだけ笑った。
「……本当に、変わったな」
体重計に乗る。
表示された数字は、七十二・一キロ。
以前の九十六キロ超から、二十四キロ以上減っていた。
だが、単に痩せただけではない。
身体全体のバランスが整い、筋肉も自然についている。
以前なら、少し歩くだけで息が上がることもあった。
だが、今は違う。
身体は軽く、動きも滑らかだった。
その瞬間。
【神級権能《完全適応》】
【肉体最適化率:67%】
【身体構造の最適化が進行中】
【外見的変化が安定段階へ移行】
怜司は、目を見開いた。
「……六十七%」
まだ、完全ではない。
それでも、ここまで変わった。
怜司は、鏡の中の自分を見つめた。
そして、静かに呟いた。
「……ありがとう」
それは、誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
ただ、今の自分を少しだけ好きになれていることが嬉しかった。
◇ ◇ ◇
「お兄ちゃーん!」
リビングから、陽菜の声が聞こえた。
「早く来て!」
怜司がリビングへ入ると、陽菜が嬉しそうに手を振った。
「おはよう!」
「おはよう、陽菜」
怜司が笑うと、陽菜は一瞬動きを止めた。
そして、目を輝かせた。
「……お兄ちゃん!」
「ん?」
「やっぱり、めっちゃ格好いい!」
怜司は、思わず苦笑した。
「……またそれ?」
「だって、本当だもん!」
陽菜は、嬉しそうに笑った。
「学校でも絶対モテてるでしょ!」
怜司は、顔を赤くした。
「……そんなことないって」
美咲も、キッチンから顔を出した。
「ふふっ。陽菜ったら」
そして、怜司を見て微笑んだ。
「でも、本当に雰囲気が変わったわね」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……そうかな」
美咲は、頷いた。
「ええ。顔立ちだけじゃなくて、表情も明るくなった」
その言葉に、怜司は少し驚いた。
「……表情?」
「そうよ」
美咲は、柔らかく微笑んだ。
「前は、いつもどこか不安そうだったもの」
怜司は、少し黙った。
確かに、そうだった。
以前は、学校へ行くことが怖かった。
誰かに笑われることが怖かった。
そして、自分の存在をできるだけ小さくしたかった。
だが、今は違う。
蒼真がいる。
隼人がいる。
澪がいる。
そして、家族がいる。
自分を受け入れてくれる人たちがいる。
怜司は、静かに微笑んだ。
「……そうかもしれない」
美咲も、嬉しそうに頷いた。
◇ ◇ ◇
午前中。
怜司は、家族とともにショッピングモールへ出かけていた。
目的は、新しい服を買うことだった。
以前買った服も、すでに少し大きくなっている。
特に、パンツのウエストが合わなくなっていた。
「……また買い直しか」
怜司が苦笑すると、美咲が笑った。
「成長期なんだから、仕方ないわよ」
陽菜は、嬉しそうに腕を組んできた。
「今日は私が選ぶ!」
怜司は、少し驚いた。
「……陽菜が?」
「そう!」
陽菜は、得意げに笑った。
「お兄ちゃんをもっと格好よくする!」
怜司は、思わず笑った。
「……よろしくお願いします」
陽菜は、満足そうに頷いた。
「任せて!」
◇ ◇ ◇
最初に入ったのは、落ち着いた雰囲気の洋服店だった。
陽菜は、次々と服を選んでいく。
「これ!」
白いシャツ。
「あと、これ!」
濃紺のジャケット。
「それから、これ!」
細身のパンツ。
怜司は、思わず苦笑した。
「……結構、本格的だね」
陽菜は、胸を張った。
「当たり前!」
美咲も、楽しそうに笑った。
「じゃあ、試着してみましょうか」
怜司は、服を持って試着室へ入った。
数分後。
カーテンを開ける。
「……どうかな」
その瞬間。
陽菜が、ぴたりと動きを止めた。
「…………」
美咲も、目を見開いた。
「……あら」
怜司は、少し不安になった。
「……変?」
陽菜は、勢いよく首を横に振った。
「全然!」
そして、大きな声で言った。
「……めっちゃイケメン!!」
怜司は、思わず顔を赤くした。
「……陽菜!」
美咲も、嬉しそうに微笑んだ。
「本当に似合ってるわ」
その言葉に、怜司は少し安心した。
「……ありがとう」
鏡を見る。
そこには、以前とはまるで違う自分が映っていた。
服のサイズが合っているだけで、こんなにも印象が変わるのか。
怜司は、少し驚いた。
◇ ◇ ◇
昼食。
家族は、ショッピングモールのレストランへ入った。
正臣は、メニューを眺めながら言った。
「怜司」
「ん?」
「最近、学校はどうだ?」
怜司は、自然と笑顔になった。
「……すごく楽しいよ」
正臣は、少し驚いたように顔を上げた。
そして、穏やかに微笑んだ。
「そうか」
怜司は、続けた。
「友達もできたし、授業も面白い」
そして、少し笑った。
「毎日、学校へ行くのが楽しみなんだ」
正臣は、しばらく黙っていた。
その表情には、安堵が浮かんでいた。
「……それは、よかった」
美咲も、嬉しそうに頷いた。
「本当にね」
陽菜は、元気よく言った。
「お兄ちゃん、友達いっぱいできたんだよね!」
怜司は、笑顔で頷いた。
「うん」
そして、少しだけ真剣な表情になった。
「……父さん、母さん」
二人が顔を上げる。
「……ありがとう」
正臣は、少し驚いた。
「……どうした、急に」
怜司は、ゆっくりと言葉を続けた。
「俺が転校したいって言ったとき、応援してくれて」
そして、少しだけ笑った。
「本当に、よかったと思ってる」
美咲の目元が、少し潤んだ。
正臣は、静かに頷いた。
「……そうか」
そして、穏やかに微笑んだ。
「それなら、父さんたちも嬉しいよ」
怜司は、胸が温かくなった。
◇ ◇ ◇
夕方。
帰宅した怜司は、自室で買ってもらった服を整理していた。
以前の大きな服。
そして、今日買った新しい服。
並べてみると、その違いは明らかだった。
怜司は、古い服を一枚手に取った。
以前、よく着ていた大きめのパーカー。
身体を隠すために選んだ服だった。
怜司は、しばらくそれを見つめた。
そして、静かに微笑んだ。
「……今まで、ありがとう」
パーカーを丁寧に畳み、収納ケースへしまった。
過去を否定する必要はない。
あの頃の自分も、必死に生きていた。
だからこそ、今がある。
怜司は、新しい服をハンガーへ掛けた。
そして、鏡の中の自分を見つめた。
そこには、以前とは違う少年がいた。
だが、目の奥にある優しさは変わっていなかった。
怜司は、静かに笑った。
「……これからも、頑張ろう」
その言葉には、以前のような不安はなかった。
ただ、未来への期待があった。




