第68話 伯爵令嬢との再会――見違えた少年に揺れる乙女心
異世界都市ルミエール。
昼下がりの街には、穏やかな日差しが降り注いでいた。
石畳の道を、黒瀬怜司が歩いている。
今日は、久しぶりに異世界を訪れていた。
聖蘭学園への転校。
新しい友達。
そして、急速に変化する身体。
日本での生活が充実していたこともあり、以前より訪れる間隔が空いていた。
「……久しぶりだな」
怜司は、懐かしい街並みを見渡した。
市場からは、商人たちの声が聞こえる。
焼きたてのパンの香り。
果物を売る店。
そして、行き交う冒険者たち。
この街も、怜司にとって大切な場所になっていた。
◇ ◇ ◇
最初に向かったのは、ベルン商会だった。
「レイジ君!」
トーマス・ベルンが、嬉しそうに迎えてくれた。
「久しぶりだね!」
「こんにちは、トーマスさん」
怜司が頭を下げると、トーマスは少し驚いたように目を見開いた。
「……おや?」
「……どうしました?」
トーマスは、怜司の顔をじっと見つめた。
そして、思わず笑った。
「……随分、変わったね!」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……そうですか?」
「もちろん!」
トーマスは、楽しそうに続けた。
「以前より、ずっと引き締まって見えるよ」
怜司は、少し笑った。
「最近、身体を動かすことが増えたので」
トーマスは、満足そうに頷いた。
「健康そうで何よりだ」
そして、商談へ移った。
日本から持ち込んだ菓子類。
異世界での販売状況。
そして、今後の取引について。
トーマスは、帳簿を開きながら説明した。
「最近は、貴族だけでなく、裕福な商人からの注文も増えている」
怜司は、興味深そうに頷いた。
「……そうなんですね」
「ああ。ただし、無理に量を増やす必要はない」
トーマスは、穏やかに笑った。
「品質を守ることが、一番大切だからね」
怜司も、笑顔で頷いた。
「……はい」
◇ ◇ ◇
商談を終えたあと。
怜司は、ルミナス伯爵家へ向かった。
目的は、エリシアとの再会だった。
以前、孤児院《星の家》へ一緒に菓子を届けたとき、また訪れる約束をしていた。
今日は、その約束を果たすつもりだった。
伯爵家の門へ近づくと、衛兵が怜司に気づいた。
「……レイジ殿?」
怜司は、笑顔で頭を下げた。
「こんにちは」
衛兵は、少し驚いたように目を見開いた。
「……随分、雰囲気が変わられましたな」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……そうですか?」
衛兵は、笑顔で頷いた。
「はい。お元気そうで何よりです」
そして、門を開いた。
「どうぞ、お入りください」
怜司は、礼を言って敷地へ入った。
◇ ◇ ◇
屋敷の応接室。
怜司は、案内された椅子に座っていた。
しばらくすると、扉が開いた。
「レイジ様!」
聞き覚えのある声。
振り返ると、エリシア・ルミナスが立っていた。
金色の髪。
澄んだ青い瞳。
そして、柔らかな笑顔。
怜司は、自然と笑顔になった。
「久しぶり、エリシア」
その瞬間。
エリシアが、ぴたりと動きを止めた。
「…………」
怜司は、首を傾げた。
「……エリシア?」
エリシアは、怜司の顔をじっと見つめていた。
そして、少しだけ目を見開いた。
「……レイジ様?」
「……うん?」
エリシアは、ゆっくりと近づいてきた。
その頬が、少しずつ赤くなっていく。
「……あの」
「……どうしたの?」
「……随分、お変わりになりましたね」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……そうかな」
エリシアは、真剣に頷いた。
「はい」
そして、少しだけ視線を逸らした。
「……とても、素敵になられました」
怜司は、思わず顔を赤くした。
「……ありがとう」
エリシアも、恥ずかしそうに微笑んだ。
しばらく、二人の間に静かな空気が流れた。
◇ ◇ ◇
その後。
二人は、屋敷の庭園を歩いていた。
色とりどりの花が咲き、噴水が静かに水音を立てている。
エリシアは、怜司の隣を歩きながら言った。
「……お元気そうで、本当によかったです」
怜司は、笑顔で頷いた。
「うん。エリシアも元気そうでよかった」
エリシアは、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます」
そして、少しだけ表情を曇らせた。
「……ただ」
「……うん?」
「最近、お会いできる機会が少なかったので……」
怜司は、少し申し訳なくなった。
「……ごめん。いろいろ忙しくて」
エリシアは、慌てて首を横に振った。
「いえ! 責めているわけではありません!」
そして、少しだけ頬を赤くした。
「……ただ、少し寂しかっただけです」
怜司は、静かにエリシアを見つめた。
そして、柔らかく笑った。
「……俺も、会いたかったよ」
エリシアは、目を見開いた。
「……え?」
怜司は、少し照れくさくなった。
「エリシアと話すの、楽しいから」
エリシアの頬が、一気に赤く染まった。
「……レイジ様」
そして、嬉しそうに微笑んだ。
「……私もです」
◇ ◇ ◇
午後。
二人は、孤児院《星の家》を訪れていた。
「レイジお兄ちゃん!」
子供たちが、元気よく駆け寄ってきた。
怜司は、笑顔でしゃがんだ。
「みんな、久しぶり!」
子供たちは、嬉しそうに怜司へ抱きついた。
「お菓子持ってきた!?」
怜司は、思わず笑った。
「もちろん!」
そして、袋を取り出した。
中には、個包装されたクッキーやキャンディーが入っている。
子供たちは、大喜びだった。
「やったあ!」
エリシアも、嬉しそうに微笑んでいた。
そのとき。
一人の女の子が、怜司の顔をじっと見つめた。
「……レイジお兄ちゃん?」
「ん?」
「なんか、かっこよくなった!」
怜司は、思わず固まった。
「……えっ?」
すると、他の子供たちも集まってきた。
「ほんとだ!」
「前より細い!」
「王子様みたい!」
怜司は、顔を赤くした。
「……ちょっと、みんな!」
エリシアは、口元を押さえて笑っていた。
そのとき。
一人の男の子が、エリシアを見た。
「エリシアお姉ちゃん!」
「はい?」
「レイジお兄ちゃん、もっと好きになった?」
エリシアが、ぴたりと固まった。
「……えっ!?」
子供たちは、楽しそうに笑った。
「ねえねえ!」
「好きなんでしょ!」
エリシアの頬が、真っ赤になった。
「そ、それは……!」
怜司も、思わず顔を赤くした。
「……みんな、からかわないであげて」
だが、子供たちは止まらなかった。
「レイジお兄ちゃんも好き?」
怜司は、完全に固まった。
エリシアが、そっと怜司を見た。
その青い瞳には、少しだけ期待が浮かんでいた。
怜司は、少し迷った。
そして、正直に答えた。
「……エリシアは、大切な人だよ」
エリシアは、目を見開いた。
「……レイジ様」
怜司は、少し照れくさくなった。
「いつも、みんなのことを考えてるし……すごく優しいから」
エリシアは、しばらく怜司を見つめていた。
そして、柔らかく微笑んだ。
「……ありがとうございます」
その声は、少しだけ震えていた。
◇ ◇ ◇
夕方。
孤児院を出た二人は、並んで歩いていた。
街には、柔らかな夕日が差し込んでいる。
エリシアは、少しだけ勇気を出したように言った。
「……レイジ様」
「うん?」
「また、近いうちにお会いできますか?」
怜司は、笑顔で頷いた。
「もちろん」
エリシアの表情が、明るくなった。
「……嬉しいです」
怜司は、少し考えた。
そして、言った。
「次は、エリシアの好きな場所に行こうか」
エリシアは、目を見開いた。
「……よろしいのですか?」
「うん」
怜司は、柔らかく笑った。
「いつも案内してもらってるし、今度はエリシアの行きたいところへ行こう」
エリシアは、嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとうございます」
そして、少しだけ頬を赤くした。
「……楽しみにしています」
怜司も、笑顔で頷いた。
「俺も」
夕暮れのルミエール。
二人は、穏やかな時間を過ごしていた。
その距離は、以前より少しだけ近づいていた。




