第67話学園最速への挑戦――陸上部のエースと規格外の転校生
聖蘭学園のグラウンド。
放課後の空には、薄い雲が広がっていた。
陸上部の生徒たちは、それぞれの種目に分かれて練習している。
その一角で、橘美月が元気よく手を振っていた。
「黒瀬くーん!」
怜司は、隼人と蒼真とともにグラウンドへ向かった。
「こんにちは、橘さん」
「こんにちは!」
美月は、嬉しそうに笑った。
「今日は来てくれてありがとう!」
怜司は、少し笑った。
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
美月は、胸を張った。
「今日は、走り方を教えてあげる!」
隼人が、にやりと笑った。
「おっ、頼もしいな!」
「当たり前でしょ!」
美月は、楽しそうに笑った。
蒼真も、穏やかに微笑んだ。
「美月は、陸上部のエースだからね」
怜司は、少し驚いた。
「……そんなにすごいの?」
美月は、少し照れくさそうに笑った。
「まあ、全国大会には出たことあるけど……」
隼人が、すぐに口を挟んだ。
「出たことあるどころじゃねえだろ!」
そして、怜司へ説明した。
「美月は、短距離の全国大会で入賞してるんだぞ!」
怜司は、目を見開いた。
「……すごい!」
美月は、少し頬を赤くした。
「……ありがとう」
だが、すぐに元気な笑顔へ戻った。
「でも、まだまだ上には強い人がいるからね!」
その言葉に、怜司は感心した。
全国大会で入賞するほどの実力がある。
それでも、現状に満足していない。
聖蘭学園には、そういう人たちが多かった。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、まずは軽く走ってみよう!」
美月が、トラックを指差した。
怜司は頷いた。
「うん」
隼人も、嬉しそうに笑った。
「俺も走る!」
蒼真は、少し苦笑した。
「僕は見学にしておこうかな」
「えー!」
美月が、楽しそうに笑った。
「蒼真も走ろうよ!」
蒼真は、肩をすくめた。
「じゃあ、軽くね」
四人は、トラックをゆっくりと走り始めた。
怜司は、周囲の動きを観察していた。
美月の走りは、驚くほど滑らかだった。
足の運び。
腕の振り。
そして、身体の軸。
無駄な動きが少ない。
怜司は、思わず感心した。
「……すごいな」
美月が、横を向いた。
「ん?」
「走り方が、すごく綺麗だね」
美月は、嬉しそうに笑った。
「ありがとう!」
そして、少しだけ真剣な表情になった。
「短距離って、ただ速く足を動かせばいいわけじゃないんだよ」
怜司は頷いた。
「……うん」
「地面を押す方向とか、身体の角度とか、いろいろ大事なの」
美月は、身振りを交えて説明した。
怜司は、真剣に聞いていた。
《万象習得》が、彼女の動きを分析していく。
だが、怜司はすぐに真似しようとはしなかった。
まずは、理解すること。
そして、実際に身体を動かして確かめること。
それが、上達への近道だと分かっていた。
◇ ◇ ◇
ウォーミングアップを終えると、美月はスタートラインへ向かった。
「じゃあ、短い距離を走ってみようか!」
怜司は、少し緊張した。
「……分かった」
美月は、笑顔で続けた。
「最初は、タイムを気にしなくていいからね」
怜司は頷いた。
「うん」
隼人が、にやりと笑った。
「俺も一緒に走るぞ!」
蒼真は、少し笑った。
「じゃあ、僕が合図を出すよ」
三人は、スタートラインに並んだ。
美月。
隼人。
そして、怜司。
蒼真が、片手を上げた。
「位置について」
三人が構える。
「よーい……」
怜司は、地面を見つめた。
身体の力を抜く。
そして。
「スタート!」
三人が、一斉に走り出した。
美月の加速は、驚くほど鋭かった。
隼人も、力強く地面を蹴る。
怜司は、少し遅れて走り始めた。
だが。
「……っ!」
身体が、驚くほど軽い。
足が自然に前へ出る。
地面を蹴る感覚が、以前とはまるで違った。
怜司は、無意識に速度を上げかけた。
その瞬間。
――まずい。
自分の身体能力を思い出した。
本気で走れば、普通の人間では考えられない速度になってしまう。
怜司は、慌てて力を抑えた。
それでも。
「……えっ!?」
美月が、驚いたように目を見開いた。
怜司が、すぐ隣まで迫っていたからだ。
そして、三人はゴールした。
◇ ◇ ◇
「……ちょっと待って!」
美月が、怜司を見た。
「黒瀬君!」
「……はい?」
「今の走り、すごかったよ!」
怜司は、少し困ったように笑った。
「……そうかな」
「そうだよ!」
美月は、興奮したように続けた。
「最初の加速は少し遅かったのに、途中から一気に伸びてきた!」
隼人も、目を丸くしていた。
「お前、マジで速いな!」
蒼真も、驚いたように笑った。
「確かに、すごい加速だったね」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……ありがとう」
美月は、真剣な表情になった。
「ねえ、黒瀬君」
「……うん?」
「陸上、やってみない?」
怜司は、目を見開いた。
「……え?」
美月は、嬉しそうに続けた。
「絶対、才能あると思う!」
怜司は、少し考えた。
陸上競技。
これまで、本格的に取り組んだことはない。
だが、美月の走りを見て、興味が湧いたのも事実だった。
「……少し、考えてみてもいい?」
美月は、笑顔で頷いた。
「もちろん!」
そして、元気よく続けた。
「でも、また一緒に走ってね!」
怜司は、自然と笑顔になった。
「……うん!」
◇ ◇ ◇
練習後。
四人は、グラウンドのベンチで休憩していた。
美月は、スポーツドリンクを飲みながら言った。
「……黒瀬君って、本当に不思議だね」
怜司は、少し驚いた。
「……そう?」
「うん」
美月は、笑った。
「すごく速いのに、全然偉そうにしないし」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……そんなことないよ」
美月は、首を横に振った。
「いや、そういうところがいいと思う!」
その言葉に、怜司は少し驚いた。
隼人が、にやりと笑った。
「おっ、美月。怜司のこと気に入ったか?」
美月は、少し頬を赤くした。
「……そ、そういう意味じゃないって!」
蒼真が、楽しそうに笑った。
「隼人、からかいすぎ」
「ははは!」
隼人は、豪快に笑った。
怜司も、思わず笑った。
◇ ◇ ◇
夕方。
怜司は、校門の近くで澪と合流した。
「レイジさん」
「澪さん」
澪は、嬉しそうに微笑んだ。
「今日は、陸上部の練習に参加されたそうですね」
怜司は、少し驚いた。
「……もう知ってるんですか?」
澪は、少し笑った。
「美月さんから聞きました」
そして、柔らかく微笑んだ。
「とても速かったそうですね」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……まだまだですよ」
澪は、静かに首を横に振った。
「でも、レイジさんが楽しそうで、私も嬉しいです」
怜司は、胸が温かくなった。
「……ありがとうございます」
澪は、少しだけ頬を赤くした。
「……はい」
二人は、並んで校門を出た。
夕方の風が、優しく吹いていた。
怜司は、静かに思った。
聖蘭学園には、本当にすごい人たちがいる。
そして、その人たちと一緒に過ごせることが嬉しい。
自分の力を誇示するのではなく、互いに学び合う。
そんな毎日が、怜司にとって何より大切だった。




