第65話 美少年への変貌――聖蘭学園に現れた新たな注目株
第65話 美少年への変貌――聖蘭学園に現れた新たな注目株
それから、さらに数日が経過した。
黒瀬怜司の身体は、驚くほどの速度で変化を続けていた。
朝。
洗面所で体重計に乗った怜司は、表示された数字を見つめた。
「……七十三・九キロ」
ついに、七十四キロを下回った。
以前の九十六キロ超から考えれば、二十二キロ以上の減量。
だが、鏡の中の身体は、単に痩せただけではなかった。
肩幅は自然に整い、胸板も引き締まっている。
腹部には、うっすらと筋肉の輪郭が浮かんでいた。
腕や脚も、無駄な脂肪が減り、しなやかな筋肉がついている。
そして、顔。
丸かった頬は、すっかりすっきりしていた。
顎のラインは、以前よりシャープになっている。
鼻筋も通り、目元の印象も大きく変わった。
怜司は、鏡の中の自分を見つめた。
「……これ、本当に俺なのか?」
思わず、そんな言葉が漏れた。
そこには、以前の自分とはまるで違う少年が映っていた。
整った顔立ち。
健康的な肌。
そして、自然に伸びた背筋。
以前なら、目立たないように背中を丸めていた。
だが、今は違う。
自分の姿を、隠そうとは思わなくなっていた。
その瞬間。
【神級権能《完全適応》】
【肉体最適化率:58%】
【外見的最適化が大幅に進行】
【身体能力・神経系・骨格バランスの調整を継続中】
怜司は、目を見開いた。
「……五十八%」
まだ、六割にも届いていない。
それなのに、ここまで変わっている。
怜司は、静かに息を吐いた。
「……本当に、すごいな」
◇ ◇ ◇
リビング。
「おはよう」
怜司が入ると、陽菜が顔を上げた。
そして。
「…………」
ぴたりと動きを止めた。
「……陽菜?」
怜司が首を傾げる。
陽菜は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、兄の顔をじっと見つめた。
「……お兄ちゃん?」
「……うん?」
次の瞬間。
「……めっちゃイケメンになってる!!」
陽菜が、大声を上げた。
怜司は、思わず顔を赤くした。
「……ちょっと、陽菜!」
美咲も、キッチンから顔を出した。
そして、驚いたように目を見開いた。
「……本当ね」
正臣も、新聞を置いた。
「……怜司?」
怜司は、少し困ったように笑った。
「……そんなに変わった?」
陽菜は、勢いよく頷いた。
「変わったよ!」
そして、嬉しそうに続けた。
「絶対、学校でモテるよ!」
怜司は、思わず苦笑した。
「……それはないって」
美咲は、柔らかく微笑んだ。
「でも、本当に格好よくなったわね」
そして、少しだけ心配そうな表情になった。
「ただ、体重の変化が早すぎるのは気になるわ」
怜司は頷いた。
「うん。俺も、ちょっと気になってる」
美咲は、安心したように頷いた。
「じゃあ、予定通り健康診断を受けましょう」
「分かった」
正臣も、穏やかに言った。
「健康が第一だからな」
怜司は、笑顔で頷いた。
「……うん」
◇ ◇ ◇
聖蘭学園。
朝の教室。
怜司が入室すると、いつものように蒼真が顔を上げた。
「おはよう、怜司」
「おはよう」
その瞬間。
蒼真が、少しだけ目を見開いた。
「……え?」
怜司は、首を傾げた。
「……どうした?」
蒼真は、怜司の顔をじっと見つめた。
そして、思わず笑った。
「……本当に、すごいね」
「……何が?」
「怜司の変化だよ」
蒼真は、穏やかに続けた。
「ここまで印象が変わるとは思わなかった」
そこへ、隼人がやってきた。
「おっはよー!」
そして、怜司を見た瞬間。
「…………」
ぴたりと動きを止めた。
「……おい」
怜司は、苦笑した。
「……隼人?」
隼人は、ゆっくりと怜司を指差した。
「……誰だ、お前」
怜司は、思わず吹き出した。
「……俺だよ!」
「いや、分かってるけど!」
隼人は、目を丸くした。
「お前、めちゃくちゃイケメンになってんじゃねえか!」
教室の何人かが、思わず振り返った。
怜司は、顔を赤くした。
「……声、大きいって!」
蒼真が、楽しそうに笑った。
「隼人、落ち着いて」
「いや、無理だろ!」
隼人は、豪快に笑った。
「これ、絶対女子にモテるぞ!」
怜司は、思わずため息をついた。
「……もう、やめてくれよ」
だが、嫌な気持ちはしなかった。
二人の言葉には、からかいだけでなく、素直な驚きと喜びがあったからだ。
◇ ◇ ◇
午前の授業が終わったあと。
怜司は、図書館へ向かっていた。
廊下を歩いていると、何人かの女子生徒がこちらを見ていた。
「……あの人、誰?」
「一年生の黒瀬君じゃない?」
「えっ、あの転校生?」
小さな声が聞こえてくる。
怜司は、少し戸惑った。
以前は、太っていることを理由に視線を向けられていた。
だが、今は違う。
それでも、注目されることには慣れていなかった。
「……何か、落ち着かないな」
怜司は、小さく呟いた。
そのとき。
「黒瀬さん」
落ち着いた声が聞こえた。
振り返ると、西園寺麗華が立っていた。
「麗華さん」
怜司が挨拶すると、麗華は柔らかく微笑んだ。
「こんにちは」
そして、少しだけ怜司の顔を見つめた。
「……随分、雰囲気が変わられましたね」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……そうですか?」
「はい」
麗華は、穏やかに頷いた。
「以前より、ずっと凛々しくなられたと思います」
怜司は、思わず顔を赤くした。
「……ありがとうございます」
麗華は、少し笑った。
「でも、外見だけではありません」
「……え?」
「授業での姿勢や、周囲への接し方も、とても素敵だと思います」
怜司は、少し驚いた。
麗華は、続けた。
「私は、努力を続ける方を尊敬しています」
そして、柔らかく微笑んだ。
「黒瀬さんは、そういう方なのだと思います」
怜司の胸が、温かくなった。
「……ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
昼休み。
怜司は、蒼真、隼人、澪とともに食堂へ向かっていた。
澪は、怜司の隣を歩いている。
その表情は、少しだけ嬉しそうだった。
「レイジさん」
「はい?」
「今日は、いつも以上に注目されていますね」
怜司は、少し困ったように笑った。
「……そうみたいです」
澪は、柔らかく微笑んだ。
「でも、私は嬉しいです」
怜司は、少し驚いた。
「……え?」
「レイジさんの素敵なところを、皆さんが知ってくださるのですから」
怜司は、少し照れくさくなった。
「……ありがとうございます」
澪は、少しだけ頬を赤くした。
「……ただ」
「……はい?」
「少しだけ、寂しくもあります」
怜司は、首を傾げた。
「……どうしてですか?」
澪は、少し迷った。
そして、恥ずかしそうに微笑んだ。
「……レイジさんが、遠くへ行ってしまいそうで」
怜司は、しばらく澪を見つめた。
そして、柔らかく笑った。
「……そんなことないですよ」
澪が顔を上げる。
怜司は、続けた。
「俺は、俺のままですから」
澪は、目を見開いた。
そして、嬉しそうに微笑んだ。
「……はい」
その様子を、蒼真と隼人は少し離れた場所から見ていた。
隼人が、小声で言った。
「……なあ、蒼真」
「うん?」
「これ、俺たち邪魔じゃね?」
蒼真は、少し笑った。
「……そうかもしれないね」
二人は、顔を見合わせた。
そして、思わず笑った。
◇ ◇ ◇
放課後。
怜司は、校舎の窓から夕焼けを眺めていた。
自分の姿は、大きく変わった。
だが、それ以上に変わったものがある。
それは、自分自身の気持ちだった。
以前は、人の視線が怖かった。
誰かに笑われることが怖かった。
自分の存在を、できるだけ小さくしたかった。
だが、今は違う。
蒼真がいる。
隼人がいる。
澪がいる。
そして、家族がいる。
自分を受け入れてくれる人たちがいる。
だから、もう必要以上に隠れる必要はない。
怜司は、静かに微笑んだ。
「……これからも、頑張ろう」
そのとき。
【神級権能《完全適応》】
【肉体最適化率:60%】
【外見的最適化が新たな段階へ移行】
【さらなる肉体進化が可能です】
怜司は、目を見開いた。
「……六十%」
まだ、終わりではない。
むしろ、ここから先も変化が続く。
怜司は、静かに息を吐いた。
そして、夕焼けを見つめた。
新しい学校。
新しい仲間。
そして、新しい自分。
黒瀬怜司の人生は、さらに大きく動き始めていた。




