第64話 名門校の令嬢たち――少年に集まり始めた視線
第64話 名門校の令嬢たち――少年に集まり始めた視線
聖蘭学園。
月曜日の朝。
黒瀬怜司が教室へ入ると、いつものように明るい挨拶が飛んできた。
「おはよう、怜司」
一条蒼真が、穏やかに微笑んだ。
「おはよう」
怜司も、笑顔で答えた。
その隣では、神崎隼人が大きく伸びをしていた。
「おっはよー!」
「おはよう、隼人」
怜司が挨拶すると、隼人はにやりと笑った。
「今日も顔が変わってねえか?」
怜司は、思わず苦笑した。
「……毎日言うの、それ?」
「だって本当に変わってんだもん!」
蒼真が、少し笑った。
「確かに、最近の変化は目立つね」
怜司は、少し照れくさくなった。
体重は、七十五キロ台へ入っていた。
顔の輪郭はさらに整い、身体も引き締まっている。
だが、本人はまだ慣れていなかった。
鏡を見るたびに、少し驚いてしまう。
◇ ◇ ◇
午前の授業。
数学の時間。
教師が、黒板に少し難しい問題を書いた。
「では、この問題を解ける人は?」
教室が、静かになった。
しばらくして、一人の女子生徒が手を挙げた。
「はい」
西園寺麗華だった。
教師が頷いた。
「西園寺さん、お願いします」
麗華は、落ち着いた様子で立ち上がった。
そして、黒板へ向かう。
数式を丁寧に書き進めていく。
無駄のない解法。
そして、分かりやすい説明。
怜司は、思わず感心した。
「……すごい」
隣の蒼真が、小さく笑った。
「麗華は、数学が得意なんだ」
怜司は頷いた。
「……本当にすごいね」
麗華は、解答を終えて席へ戻った。
教師が、満足そうに頷いた。
「素晴らしい解答です」
その後。
教師は、別の解法について尋ねた。
「他の方法で解ける人はいますか?」
怜司は、問題を見つめた。
先ほどの解法とは違う方法が、頭に浮かんでいた。
少し迷ったあと、手を挙げた。
「……はい」
教師が、少し驚いた。
「黒瀬君。お願いします」
怜司は、黒板へ向かった。
そして、ゆっくりと数式を書き始めた。
先ほどとは違う考え方。
だが、答えは同じになる。
教師は、興味深そうに頷いた。
「……なるほど」
怜司は、最後まで解答を書いた。
そして、振り返った。
「……こんな方法でも、いいでしょうか?」
教師は、笑顔になった。
「もちろんです。非常にいい着眼点ですね」
教室から、小さな拍手が起こった。
怜司は、少し照れくさくなった。
席へ戻ると、蒼真が笑った。
「いい解き方だったね」
「ありがとう」
そのとき。
麗華が、怜司へ声をかけた。
「黒瀬さん」
「……はい?」
麗華は、柔らかく微笑んだ。
「先ほどの解法、とても興味深かったです」
怜司は、少し驚いた。
「……ありがとうございます」
麗華は、続けた。
「もしよろしければ、今度一緒に問題を解きませんか?」
怜司は、笑顔になった。
「……ぜひ!」
麗華も、嬉しそうに微笑んだ。
「楽しみにしています」
◇ ◇ ◇
昼休み。
怜司は、図書館で藤宮詩織と話していた。
詩織は、医療や生命科学に興味があるらしく、専門的な本をよく読んでいるという。
「……この本、すごく難しそうですね」
怜司が言うと、詩織は少し笑った。
「最初は、私もそう思いました」
そして、本を開いた。
「でも、少しずつ読んでいくと面白いんです」
怜司は、興味深そうに覗き込んだ。
人体の構造。
細胞の働き。
そして、身体の回復について。
怜司は、思わず真剣になった。
《完全適応》によって、自分の身体が変化している。
その仕組みを、少しでも理解したかった。
「……人間の身体って、本当に複雑なんですね」
詩織は、嬉しそうに頷いた。
「そうなんです」
そして、少しだけ目を輝かせた。
「でも、だからこそ面白いんですよ」
怜司は、自然と笑顔になった。
「……分かる気がします」
詩織は、少し驚いた。
そして、柔らかく微笑んだ。
「黒瀬君とは、いろいろお話しできそうですね」
怜司も頷いた。
「……俺も、そう思います」
◇ ◇ ◇
放課後。
怜司は、隼人に誘われてグラウンドへ向かっていた。
「今日は軽く走ろうぜ!」
隼人が、嬉しそうに笑った。
「いいよ」
怜司も頷いた。
グラウンドでは、陸上部の生徒たちが練習していた。
その中で、一際目立つ女子生徒がいた。
明るい茶色の髪を、ポニーテールにまとめている。
引き締まった体格。
そして、元気な笑顔。
彼女は、軽快な足取りで走っていた。
「……速い」
怜司が呟くと、隼人が頷いた。
「ああ。あいつ、橘美月っていうんだ」
そして、少し笑った。
「陸上部のエースだよ」
そのとき。
美月が、こちらに気づいた。
「あっ、隼人!」
元気よく手を振る。
隼人も手を振り返した。
「よっ、美月!」
美月は、こちらへ駆け寄ってきた。
「何してるの?」
「ちょっと走ろうと思ってな」
隼人は、怜司を紹介した。
「こいつ、黒瀬怜司。最近転校してきたんだ」
美月は、目を輝かせた。
「へえ! よろしく!」
そして、右手を差し出した。
「橘美月!」
怜司も、笑顔で握手を返した。
「黒瀬怜司です。よろしく」
美月は、怜司をじっと見た。
「……あれ?」
「……どうした?」
美月は、少し首を傾げた。
「なんか、すごく姿勢いいね」
怜司は、少し驚いた。
「……そうかな」
「うん!」
美月は、嬉しそうに笑った。
「運動してる人の立ち方って感じ!」
隼人が、にやりと笑った。
「だろ?」
そして、怜司の肩を叩いた。
「こいつ、結構センスあるんだよ」
美月は、目を輝かせた。
「本当!?」
怜司は、少し慌てた。
「いや、まだ全然……」
美月は、楽しそうに笑った。
「じゃあ、今度一緒に走ろうよ!」
怜司は、少し笑った。
「……うん。ぜひ」
◇ ◇ ◇
夕方。
怜司は、校舎の前で澪と合流した。
「レイジさん」
「澪さん」
澪は、嬉しそうに微笑んだ。
「今日は、いかがでしたか?」
怜司は、少し考えた。
「……すごく楽しかったです」
そして、笑った。
「麗華さんや詩織さんとも話せましたし、橘さんとも知り合えました」
澪は、嬉しそうに頷いた。
「それはよかったです」
だが、少しだけ複雑そうな表情も浮かべた。
怜司は、首を傾げた。
「……澪さん?」
澪は、すぐに微笑んだ。
「いえ。何でもありません」
そして、少しだけ頬を赤くした。
「……ただ」
「……はい?」
「レイジさんが、どんどん人気者になってしまいそうで」
怜司は、思わず固まった。
「……えっ?」
澪は、少し慌てた。
「あっ、いえ! 悪い意味ではありません!」
そして、恥ずかしそうに微笑んだ。
「……少しだけ、寂しい気持ちもあるのかもしれません」
怜司は、しばらく澪を見つめた。
そして、柔らかく笑った。
「……澪さん」
「はい?」
「俺が聖蘭に来たいと思った理由の一つは、澪さんなんですよ」
澪は、目を見開いた。
「……え?」
怜司は、少し照れくさくなった。
「澪さんが、学校のことを教えてくれたから」
そして、続けた。
「だから、これからも一緒に過ごせたら嬉しいです」
澪の頬が、赤く染まった。
「……レイジさん」
そして、嬉しそうに微笑んだ。
「……はい」
夕暮れの校門前。
二人は、少し照れくさそうに笑い合った。




