↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/132

第6話 再び異世界へ――力を求める理由

 翌朝、黒瀬家の食卓には、いつもとは少し違う空気が流れていた。


 父の正臣は、朝食を終えてもすぐには立ち上がらなかった。


 テーブルの上には、昨夜印刷した数枚の紙が置かれている。


 鷹宮翔真から送られてきたメッセージ。


 これまで怜司が受けてきたいじめの記録。


 そして、学校に相談した日時と、そのときの対応をまとめたメモ。


「怜司」


「……うん」


「今日は学校を休もう」


 正臣の言葉に、怜司は顔を上げた。


「……え?」


「母さんと相談した。まずはお前と陽菜の安全を優先したい」


 隣で美咲が頷く。


「学校には欠席の連絡を入れておくわ。陽菜の学校にも、しばらく迎えに行くことを伝えるつもり」


「でも、父さん、仕事は……」


「午前中だけ休みを取った」


 正臣は落ち着いた声で答えた。


「学校にも連絡する。今度は担任だけじゃなく、教頭や校長にも正式に話をするつもりだ」


 怜司は視線を落とした。


 自分のために、父が仕事を休んでいる。


 母も、陽菜の送り迎えを考えてくれている。


 申し訳なさが胸に広がった。


「……ごめん」


 思わず呟く。


 すると、正臣は少し困ったように笑った。


「また謝ってるな」


「……だって」


「怜司」


 父の声は、穏やかだった。


「悪いことをした人間が責任を取るべきなんだ。お前が謝る必要はない」


 怜司は何も言えなかった。


 その隣で、陽菜が勢いよく頷く。


「そうだよ! お兄ちゃんは悪くないもん!」


「……陽菜」


「私、ちゃんとお母さんと帰るからね!」


 怜司は妹の笑顔を見つめた。


 そして、小さく頷いた。


「……ありがとう」


 父も母も、陽菜も。


 自分を信じてくれている。


 だからこそ、守りたい。


 怜司は改めて、そう思った。


     ◇ ◇ ◇


 午前九時過ぎ。


 正臣は学校へ電話をかけた。


 怜司はリビングの隅で、その様子を見守っていた。


「黒瀬怜司の父です。昨日の件について、校長先生か教頭先生とお話ししたいのですが」


 電話の向こうから、何か説明があったらしい。


 正臣の眉がわずかに動く。


「担任の先生には、すでに何度も相談しています」


 声は荒げていない。


 だが、言葉にははっきりとした強さがあった。


「今回は、息子本人だけでなく、中学生の娘にまで危険を感じさせる内容が送られてきています」


 少しの沈黙。


「……はい。メッセージも保存しています」


 正臣は手元のメモに何かを書き込んだ。


「本日中に、学校としてどのような対応をされるのか、お返事をいただきたいと思っています」


 電話を切った後、正臣は深く息を吐いた。


「……どうだった?」


 怜司が尋ねる。


「教頭に確認して折り返すそうだ」


「……また、うやむやにされるかな」


 正臣は少し考えた。


「その可能性はある」


 曖昧に慰めることはしなかった。


「だから、こちらも記録を残す。誰と、いつ、何を話したか。返事がなければ、そのことも含めて次の相談先へ伝える」


「……うん」


 怜司は頷いた。


 昨日までなら、学校に電話しただけで何かが変わると期待していたかもしれない。


 けれど、もう分かっている。


 大人だからといって、必ず正しい行動をするわけではない。


 肩書きがあるからといって、必ず助けてくれるわけでもない。


 だからこそ、事実を残す必要がある。


「父さん」


「ん?」


「俺も、できることをするよ」


 正臣は怜司を見つめた。


「……無理はするなよ」


「うん。分かってる」


 怜司は微笑んだ。


 その笑顔を見て、正臣は少しだけ安心したようだった。


     ◇ ◇ ◇


 昼前。


 自室へ戻った怜司は、ベッドに腰を下ろした。


 学校を休んでいる以上、外を出歩くわけにはいかない。


 だが、怜司にはもう一つ、確かめたいことがあった。


「……界渡り」


 小さく呟く。


 すると、視界に半透明の文字が浮かんだ。


【固有権能《界渡り》】


【転移先:異世界】


【転移可能】


 怜司は息を呑んだ。


 昨日と同じ表示。


 やはり、あれは夢ではなかった。


「……本当に、行けるんだな」


 怜司は部屋の扉を確認した。


 母は一階で家事をしている。


 父は学校からの折り返しを待ちながら、書類を整理しているはずだ。


 今なら、少しの間だけなら気づかれないかもしれない。


 だが、怜司はすぐに考え直した。


 異世界では、何が起こるか分からない。


 前回はスライム一匹で死にかけた。


 もし戻れなくなれば、家族を余計に心配させてしまう。


「……まずは、短時間だけ」


 怜司はスマートフォンで時刻を確認した。


 午前十一時十二分。


 そして、机の上にメモを残した。


『少し休んでいます。怜司』


 これで十分とは思わなかった。


 それでも、何も考えずに飛び込むよりはましだ。


 怜司は深く息を吸った。


「……行こう」


 次の瞬間。


 目の前に、淡い光の輪が現れた。


 その向こうには、見覚えのある森が広がっている。


 巨大な木々。


 青白く光る花。


 そして、二つの月が浮かぶ空。


 怜司は慎重に足を踏み出した。


     ◇ ◇ ◇


「……戻ってきた」


 足元に柔らかな草の感触が広がる。


 鼻をくすぐる、湿った土の匂い。


 遠くから聞こえる、見知らぬ鳥の鳴き声。


 間違いない。


 異世界だ。


 怜司は周囲を見回した。


 前回スライムと戦った場所から、それほど離れていないようだった。


 足元には、折れた木の枝が残っている。


 だが、スライムの身体は跡形もなく消えていた。


「……さて」


 怜司は自分の手を見つめた。


 レベル8。


 以前とは比較にならない身体能力。


 それでも、この世界で自分がどれほど強いのかは分からない。


「……無茶はしない」


 自分に言い聞かせる。


 強くなるために来た。


 だが、死ぬために来たわけではない。


 怜司は近くに落ちていた木の枝を拾った。


 前回よりも太く、長さは一メートル半ほど。


 手に持つと、驚くほど軽かった。


「……これなら」


 試しに振ってみる。


 ヒュンッ!


 空気を切る音がした。


「……うわ」


 自分でも驚くほど速かった。


 だが、勢いをつけすぎて身体が前へ流れた。


 慌てて足を踏ん張る。


「……危なっ」


 怜司は苦笑した。


 力はある。


 だが、扱い方が分からない。


 これでは、強い魔物に出会ったとき、かえって危険かもしれない。


「……練習が必要だな」


 怜司はもう一度、枝を構えた。


 今度はゆっくり。


 身体の動きを確かめながら、振る。


 一回。


 二回。


 三回。


 少しずつ、余計な力が抜けていく。


 足の位置。


 腰の回転。


 腕の振り方。


 今まで意識したこともなかった動作が、少しずつ理解できるようになっていった。


【神級権能《万象習得》が発動】


【基礎武器操作の習熟が進行しています】


「……おお」


 怜司は思わず声を上げた。


 やはり、この能力は戦闘にも使えるらしい。


 ただ振り回すだけではなく、考えながら練習するほど上達していく。


 それが、はっきりと分かった。


「……面白いな」


 怜司は小さく笑った。


 学校では、何をやっても馬鹿にされてきた。


 運動ができなければ笑われる。


 勉強で失敗すればからかわれる。


 挑戦すること自体が、いつの間にか怖くなっていた。


 だが、ここでは違う。


 失敗しても、誰も笑わない。


 できなかったことが、少しずつできるようになる。


 それだけで、こんなにも楽しい。


「……もっと、強くなりたい」


 怜司は自然と呟いた。


 復讐のためだけではない。


 自分自身が変わるために。


 そして、大切な人たちを守るために。


     ◇ ◇ ◇


 しばらく練習を続けた後、怜司は森の奥から聞こえてきた物音に気づいた。


 ガサッ。


「……ん?」


 木々の向こうで、何かが動いている。


 怜司は枝を握り直した。


 前回のスライムかもしれない。


 あるいは、もっと危険な魔物かもしれない。


 慎重に距離を取る。


 すると、茂みの間から一匹の生き物が姿を現した。


「……犬?」


 最初はそう思った。


 だが、すぐに違うと気づいた。


 灰色の毛並み。


 鋭い牙。


 細長い四肢。


 そして、額から突き出した短い角。


「……狼、か?」


 その生き物は、怜司を見つめていた。


 黄色い瞳。


 低く唸る喉。


 明らかに、こちらを警戒している。


 怜司はゆっくりと後ずさった。


「……まずいな」


 スライムとは違う。


 速い。


 牙がある。


 しかも、身体の大きさは大型犬ほどもある。


 今の自分でも、まともに噛みつかれれば危険かもしれない。


 怜司は逃げ道を探した。


 だが、その瞬間。


 狼のような魔物が、地面を蹴った。


「……っ!」


 速い。


 スライムとは比べものにならない速度だった。


 怜司は反射的に横へ跳んだ。


 牙が、制服の袖をかすめる。


 布が裂けた。


「うわっ!」


 着地した瞬間、足が滑る。


 だが、以前とは違う。


 身体が自然とバランスを取り戻した。


「……危なかった」


 怜司は枝を構え直した。


 魔物が振り返る。


 低い唸り声。


 その目には、明確な敵意があった。


 怜司は深く息を吸った。


 逃げたい。


 怖い。


 だが、背中を向ければ追いつかれるかもしれない。


「……やるしかないのか」


 魔物が再び飛びかかってきた。


 怜司は今度こそ、相手の動きを見極めようとした。


 前脚。


 肩。


 重心。


 そして、跳びかかる直前のわずかな沈み込み。


「……見える!」


 怜司は身体を半歩ずらした。


 魔物の牙が空を切る。


 その横腹へ、木の枝を振り抜いた。


 バキッ!


 乾いた音が響いた。


「……っ!」


 枝が折れた。


 だが、魔物の身体も大きく吹き飛んだ。


 地面を転がり、木の根元にぶつかる。


 怜司は呆然とした。


「……嘘だろ」


 自分の力。


 その威力を、初めてはっきりと実感した。


 魔物は苦しそうに身を起こした。


 まだ生きている。


 しかし、先ほどまでの勢いはなかった。


 怜司は折れた枝を握りしめた。


 相手は、まだこちらを睨んでいる。


 逃げるか。


 戦うか。


 一瞬、迷った。


 だが、魔物が再び牙を剥いた瞬間、怜司は覚悟を決めた。


「……ごめん」


 怜司は一歩踏み出した。


「でも、俺も死にたくないんだ」


 魔物が飛びかかる。


 怜司は身体を沈め、その動きをかわした。


 そして、折れた枝の太い部分を両手で握り、魔物の頭部へ振り下ろした。


 鈍い衝撃。


 魔物の身体が地面に崩れ落ちる。


 数秒後。


 その姿が淡い光に包まれ、ゆっくりと消えていった。


【魔物《ホーンウルフ》を討伐しました】


【基礎経験値:20】


【神級権能《無限成長》による補正】


【経験値獲得倍率:100倍】


【獲得経験値:2,000】


【レベルアップ!】


【レベル8 → レベル16】


「……十六?」


 怜司は目を見開いた。


 また、一気にレベルが上がった。


 そして、次の瞬間。


「……うっ!」


 全身に、熱が走った。


 前回よりも強い感覚。


 筋肉が引き締まる。


 呼吸が深くなる。


 身体の奥から、さらに大きな力が湧き上がってくる。


 怜司は膝をついた。


「……はぁ……はぁ……」


 しばらくして、熱が収まった。


 怜司はゆっくりと立ち上がる。


 制服の腰回りに、少し余裕ができていた。


「……また、変わった」


 頬に触れる。


 首元。


 腹部。


 昨日よりも、確実に身体が引き締まっている。


 まだ太っていることに変わりはない。


 それでも、変化はもう自分だけが気づく程度ではなくなりつつあった。


【肉体最適化率:16%】


【神級権能《完全適応》による身体機能の更新を確認】


 怜司は小さく息を吐いた。


「……すごいな」


 だが、そのとき。


 遠くから、何かが聞こえた。


「……助けて!」


 怜司の身体が強張った。


 人の声。


 間違いない。


 誰かが叫んでいる。


「……え?」


 再び、声が響いた。


「誰か! お願い、助けて!」


 若い女性の声だった。


 怜司は森の奥を見つめた。


 この世界には、人間がいる。


 当然のことかもしれない。


 けれど、実際に声を聞いたのは初めてだった。


 そして、その声は明らかに切迫していた。


 怜司は一瞬、迷った。


 危険かもしれない。


 自分には、まだこの世界のことが何も分からない。


 だが。


 あの黒猫を見つけたときのことが、頭に浮かんだ。


 傷つき、動けなくなっていた小さな命。


 見捨てることができなかった。


 それと同じだった。


「……くそっ」


 怜司は折れた枝を握り直した。


 そして、声のする方へ走り出した。


 木々の間を駆け抜ける。


 以前なら考えられない速度で、身体が動いた。


 枝を避け、倒木を飛び越え、斜面を駆け下りる。


 やがて、木々の向こうに開けた場所が見えた。


 そこには――


「……なっ!?」


 怜司は思わず足を止めた。


 倒れた荷馬車。


 散乱した木箱。


 そして、剣を手にした数人の男たち。


 その中心に、一人の少女がいた。


 淡い金色の髪。


 怯えた表情。


 泥に汚れた衣服。


 少女は男たちに囲まれ、後ずさっていた。


「や、やめてください……!」


 男の一人が、下卑た笑みを浮かべる。


「大人しくしろよ。痛い目に遭いたくなけりゃな」


 怜司の胸の奥で、何かがざわめいた。


 その光景が、あまりにも見覚えのあるものだったからだ。


 逃げ場を塞がれ。


 脅され。


 助けを求めても、誰も来ない。


 昨日までの自分と、同じだった。


「……おい」


 怜司は、静かに声をかけた。


 男たちが振り返る。


「あ?」


「なんだ、お前?」


 怜司は折れた枝を握りしめた。


 心臓が速く打っている。


 怖くないわけではない。


 だが、足は止まらなかった。


「……その子から離れろ」


 男たちが、一瞬ぽかんとした顔をした。


 そして、次の瞬間。


「……ははっ!」


 笑い声が響いた。


「なんだ、このデブガキ!」


「木の棒一本で、俺たちに喧嘩売るつもりか?」


 怜司は、男たちを見つめた。


 その言葉を、何度聞いただろう。


 デブ。


 役立たず。


 弱虫。


 学校で何度も浴びせられてきた言葉。


 だが、今は。


「……そうか」


 怜司は小さく呟いた。


 そして、ゆっくりと一歩踏み出す。


「……お前らも、同じなんだな」


 その目には、もう怯えだけが浮かんでいるわけではなかった。


 怒り。


 そして、目の前の少女を助けようとする強い意志。


 黒瀬怜司は、折れた枝を構えた。


 異世界で初めて出会った人間たち。


 その出会いは、彼にとって新たな運命の始まりとなろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。