第58話 名門校の転入試験――神級権能が示す学びの可能性
第58話 名門校の転入試験――神級権能が示す学びの可能性
私立聖蘭学園。
転入試験当日。
黒瀬怜司は、試験会場の前に立っていた。
胸の奥が、少しだけ高鳴っている。
「……よし」
怜司は、深呼吸した。
これまで、何度も勉強してきた。
数学。
英語。
国語。
理科。
そして、面接の準備。
《万象習得》によって理解力は高まっている。
だが、何もしなくても知識が身につくわけではない。
怜司は、毎日少しずつ勉強を続けてきた。
だからこそ、今日は自分の力を試したかった。
◇ ◇ ◇
試験会場には、数人の受験生が集まっていた。
怜司は、指定された席へ座った。
机の上には、筆記用具と受験票。
そして、試験開始の合図が響いた。
「それでは、始めてください」
怜司は、問題用紙を開いた。
最初は数学。
難しい問題が並んでいる。
だが、怜司は落ち着いていた。
問題文を読む。
条件を整理する。
そして、解法を考える。
「……なるほど」
小さく呟きそうになり、慌てて口を閉じた。
以前なら、途中で諦めていたような問題もあった。
だが、今は違う。
分からないところがあれば、別の角度から考える。
その積み重ねで、少しずつ答えが見えてくる。
怜司は、丁寧に解答を書き進めた。
◇ ◇ ◇
続いて、英語。
長文読解。
文法。
そして、英作文。
怜司は、落ち着いて問題に取り組んだ。
異世界での会話とは違い、日本の英語は文法や表現をきちんと理解する必要がある。
だが、《万象習得》の影響もあり、学習した内容が以前より整理されていた。
怜司は、最後まで丁寧に解答した。
その後、国語と理科の試験も終えた。
すべてが完璧だったわけではない。
難しい問題もあった。
だが、今の自分にできることは、やり切った。
怜司は、ほっと息を吐いた。
◇ ◇ ◇
午後。
面接試験。
怜司は、案内された部屋へ入った。
「失礼します」
室内には、三人の面接官が座っていた。
怜司は、丁寧に頭を下げた。
「黒瀬怜司です。本日はよろしくお願いいたします」
面接官の一人が、穏やかに微笑んだ。
「よろしくお願いします。どうぞ、お座りください」
怜司は、椅子へ腰を下ろした。
最初の質問は、転入を希望する理由だった。
「なぜ、聖蘭学園を選んだのですか?」
怜司は、少し考えた。
そして、正直に答えた。
「……もっと、いろんなことを学びたいと思ったからです」
面接官が頷く。
「具体的には?」
「勉強だけじゃなくて、経済や商売、それから人との関わり方も学びたいです」
怜司は、ゆっくりと言葉を続けた。
「学校見学で、いろんな分野に詳しい生徒さんと話しました」
そして、少し笑った。
「みんなすごく優秀なのに、気さくで親切でした」
面接官たちは、静かに聞いていた。
「俺も、そういう人たちと一緒に成長したいと思いました」
その言葉に、面接官の一人が微笑んだ。
「……なるほど」
◇ ◇ ◇
次の質問は、将来の目標だった。
「黒瀬君は、将来どんなことをしたいですか?」
怜司は、少し考えた。
異世界のことを話すわけにはいかない。
だが、自分の本当の気持ちを伝えることはできる。
「……まだ、はっきりとは決まっていません」
怜司は、正直に答えた。
「でも、自分の力で生活できるようになりたいです」
面接官が頷く。
「自立したい、ということですね」
「はい」
怜司は、続けた。
「それから、家族を安心させられるようになりたいです」
少しだけ、声に力が入った。
「今まで、たくさん心配をかけてきたので」
面接官たちは、静かに怜司を見つめていた。
そして、一人が穏やかに言った。
「……素敵な目標ですね」
怜司は、少し照れくさくなった。
「ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
試験を終えたあと。
怜司は、校舎の外へ出た。
夕方の風が、頬を撫でる。
「……終わった」
怜司は、ほっと息を吐いた。
そのとき。
「レイジさん!」
聞き覚えのある声がした。
振り返ると、澪が歩いてきていた。
「澪さん!」
怜司は、思わず笑顔になった。
澪は、嬉しそうに微笑んだ。
「試験、お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
「いかがでしたか?」
怜司は、少し考えた。
「……難しかったです」
澪は、少し心配そうな顔をした。
「そうなのですね……」
怜司は、すぐに笑った。
「でも、今の自分にできることは、全部やりました」
その言葉に、澪の表情が明るくなった。
「……それなら、きっと大丈夫です」
怜司は、少し照れくさくなった。
「ありがとうございます」
澪は、少しだけ頬を赤くした。
「……合格されたら、ぜひ一緒に学園生活を楽しみましょうね」
怜司は、笑顔で頷いた。
「……はい!」
◇ ◇ ◇
その夜。
黒瀬家。
怜司は、家族へ試験の報告をしていた。
「……全部終わったよ」
正臣が頷いた。
「お疲れさま」
美咲も微笑んだ。
「頑張ったわね」
陽菜は、嬉しそうに笑った。
「お兄ちゃん、絶対受かるよ!」
怜司は、少し笑った。
「……ありがとう」
結果がどうなるかは、まだ分からない。
だが、挑戦したことに後悔はなかった。
以前の自分なら、名門校の試験を受けようとすら思わなかっただろう。
それが今は、ここまで来た。
怜司は、静かに微笑んだ。
新しい未来へ向けて。
自分の足で、一歩ずつ進んでいる。




