第57話 聖蘭学園の実力者たち――初めて知る本物の名門校
第57話 聖蘭学園の実力者たち――初めて知る本物の名門校
土曜日の午前。
黒瀬怜司は、父の正臣とともに私立聖蘭学園を訪れていた。
今日は、転入希望者向けの学校見学会が開催される日だった。
正門の前に立った瞬間、怜司は思わず息を呑んだ。
「……すごい」
広々とした敷地。
美しく整えられた並木道。
そして、落ち着いた雰囲気の校舎。
まるで大学のキャンパスのようだった。
正臣も、感心したように頷いた。
「立派な学校だな」
怜司は、少し緊張しながら門をくぐった。
◇ ◇ ◇
受付を済ませると、一人の男子生徒が声をかけてきた。
「こんにちは。見学会に参加される方ですか?」
怜司が振り返る。
そこには、整った顔立ちの少年が立っていた。
濃紺の髪。
穏やかな笑顔。
そして、自然な立ち姿。
制服もよく似合っていた。
「はい。黒瀬怜司です」
少年は、嬉しそうに微笑んだ。
「黒瀬君だね。僕は一条蒼真。聖蘭学園の一年生だよ」
怜司は、少し驚いた。
「……一条君?」
「蒼真でいいよ」
蒼真は、気さくに笑った。
「今日は案内係をしてるんだ。よろしくね」
怜司も、自然と笑顔になった。
「よろしく、蒼真」
蒼真は、満足そうに頷いた。
「よし。じゃあ、早速案内しようか」
◇ ◇ ◇
最初に案内されたのは、図書館だった。
怜司は、思わず目を見開いた。
「……広い」
天井の高い空間。
整然と並ぶ書架。
そして、静かに勉強する生徒たち。
蒼真は、少し笑った。
「ここ、結構人気なんだよ」
「そうなの?」
「ああ。試験前なんか、席が埋まることもある」
怜司は、興味深そうに周囲を見た。
そのとき。
一人の女子生徒が、分厚い本を抱えて歩いてきた。
長い黒髪を後ろでまとめ、落ち着いた雰囲気の少女だった。
「蒼真君」
「おっ、詩織」
蒼真が笑った。
「ちょうどいいところに」
そして、怜司へ向き直った。
「紹介するよ。藤宮詩織。うちの学年でもトップクラスの秀才だ」
詩織は、少し困ったように微笑んだ。
「蒼真君、そんなに大げさに言わなくても……」
怜司は、頭を下げた。
「初めまして。黒瀬怜司です」
詩織も、丁寧に頭を下げた。
「初めまして。藤宮詩織です」
そして、柔らかく微笑んだ。
「転入を考えていらっしゃるのですか?」
「はい」
「そうなのですね」
詩織は、嬉しそうに頷いた。
「もし分からないことがあれば、遠慮なく聞いてくださいね」
怜司は、少し驚いた。
名門校の生徒と聞いて、もっと近寄りがたい人たちを想像していた。
だが、目の前の二人は、とても親しみやすかった。
「……ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
次に案内されたのは、体育館だった。
中では、バスケットボールの練習が行われていた。
その中で、一際目立つ男子生徒がいた。
背が高く、引き締まった体格。
素早い動き。
そして、豪快な笑顔。
「おーい、蒼真!」
男子生徒が、こちらへ手を振った。
「おっ、隼人!」
蒼真も手を振り返した。
男子生徒は、ボールを仲間へ渡してから駆け寄ってきた。
「何してんだ?」
「見学会の案内だよ」
蒼真は、怜司を紹介した。
「こちら、黒瀬怜司君。転入を考えてるんだ」
男子生徒は、嬉しそうに笑った。
「おっ! よろしく!」
そして、右手を差し出した。
「神崎隼人だ!」
怜司も、握手を返した。
「黒瀬怜司です。よろしく」
隼人は、怜司をじっと見た。
「……お前、何かスポーツやってる?」
怜司は、少し驚いた。
「……え?」
「いや、何となく動けそうな感じがしてさ」
怜司は、少し笑った。
「最近、運動を始めたくらいかな」
隼人は、目を輝かせた。
「マジか! じゃあ、今度一緒に何かやろうぜ!」
怜司は、思わず笑った。
「……うん。ぜひ」
蒼真が、少し呆れたように笑った。
「隼人、まだ転入が決まったわけじゃないから」
「おっと、そうだった!」
隼人は、豪快に笑った。
「じゃあ、受かったら絶対な!」
怜司も、笑顔になった。
「……分かった」
◇ ◇ ◇
見学会の終盤。
怜司は、蒼真とともに中庭を歩いていた。
「……どう? 聖蘭学園」
蒼真が尋ねた。
怜司は、少し考えた。
「……すごくいい学校だと思う」
蒼真は、嬉しそうに笑った。
「そう言ってもらえると嬉しいな」
怜司は、続けた。
「設備もすごいけど……」
「うん?」
「みんな、すごく親切だね」
蒼真は、少し驚いた。
そして、柔らかく微笑んだ。
「……ありがとう」
怜司は、少し照れくさくなった。
「いや、本当にそう思ったんだ」
蒼真は、頷いた。
「聖蘭には、いろんな才能を持った人がいる」
そして、少し真剣な表情になった。
「でも、誰かを見下すために才能があるわけじゃないからね」
怜司は、その言葉に目を見開いた。
蒼真は、穏やかに続けた。
「自分より優秀な人がいたら、学べばいい。困っている人がいたら、助ければいい」
そして、笑った。
「僕は、そういう学校が好きなんだ」
怜司は、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……俺も、そういう学校がいい」
蒼真は、嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、ぜひ来てよ」
怜司は、笑顔で答えた。
「……うん。頑張る」
◇ ◇ ◇
帰り道。
正臣が、怜司へ尋ねた。
「どうだった?」
怜司は、少し考えた。
そして、笑顔になった。
「……行きたい」
正臣は、静かに頷いた。
「そうか」
「うん。あの学校で、勉強してみたい」
その言葉には、迷いがなかった。
正臣は、穏やかに微笑んだ。
「なら、挑戦しよう」
怜司は、力強く頷いた。
「……うん!」




