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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第46話 伯爵令嬢のお願い――甘い菓子が結ぶ新たな縁

第46話 伯爵令嬢のお願い――甘い菓子が結ぶ新たな縁


 ルミナス伯爵邸。


 午後の柔らかな日差しが、庭園の花々を照らしていた。


 黒瀬怜司は、エリシアからの招待を受け、伯爵邸を訪れていた。


「レイジ様!」


 応接室へ入ると、エリシアが嬉しそうに立ち上がった。


「こんにちは、エリシア」


「お待ちしておりました!」


 その笑顔に、怜司も自然と頬を緩めた。


 テーブルには、紅茶と焼き菓子が用意されている。


 だが、今日のエリシアは、どこか落ち着かない様子だった。


「……何かあったんですか?」


 怜司が尋ねると、エリシアは少しだけ頬を赤くした。


「実は……お願いがあるのです」


「お願い?」


「はい」


 エリシアは、膝の上で両手を重ねた。


「以前いただいた、レイジ様の故郷のお菓子なのですが……」


 怜司は、思わず笑った。


「チョコレートですか?」


「はい!」


 エリシアは、目を輝かせた。


「とてもおいしくて……あれから、何度も思い出してしまうのです」


 怜司は、少し照れくさくなった。


「そんなに気に入ってもらえたんですね」


「はい」


 エリシアは、少し恥ずかしそうに続けた。


「それで……もし可能でしたら、星の家の子供たちにも食べさせてあげられないでしょうか?」


 怜司は、目を見開いた。


「……子供たちに?」


「はい」


 エリシアは、真剣な表情になった。


「先日の事件で、子供たちはずいぶん不安な思いをしました。食事が届かない日もありましたし……」


 そして、柔らかく微笑んだ。


「だから、今度は楽しい思い出を作ってあげたいのです」


 怜司は、しばらく黙っていた。


 そして、ゆっくりと頷いた。


「……もちろんです」


 エリシアの顔が明るくなる。


「本当ですか!?」


「はい。俺も、子供たちに喜んでもらいたいですから」


 その言葉に、エリシアは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます、レイジ様!」


     ◇ ◇ ◇


 数日後。


 孤児院《星の家》。


 食堂には、子供たちが集まっていた。


 テーブルの上には、色とりどりのお菓子が並んでいる。


 チョコレート。


 クッキー。


 キャンディー。


 そして、小さな焼き菓子。


「わあああっ!」


 子供たちが、一斉に歓声を上げた。


「これ、全部食べていいの!?」


「すごーい!」


「きれい!」


 怜司は、思わず笑った。


「一人ずつ、順番にね」


 エリシアも、嬉しそうに頷いた。


「みんなで仲良く分けましょうね」


 マーサ院長は、目を細めていた。


「本当に、ありがとうございます」


 怜司は首を横に振った。


「いえ。俺も、みんなに喜んでもらえて嬉しいです」


 マーサは、柔らかく微笑んだ。


「子供たちにとって、こういう時間はとても大切なんです」


 怜司は、静かに頷いた。


 以前の自分は、誰かに何かをしてもらうことばかり考えていた。


 助けてほしい。


 守ってほしい。


 そう願っていた。


 だが、今は違う。


 自分が誰かを喜ばせる側になれる。


 そのことが、何より嬉しかった。


     ◇ ◇ ◇


「レイジお兄ちゃん!」


 小さな男の子が、駆け寄ってきた。


「……ん?」


「これ、すっごくおいしい!」


 男の子が持っていたのは、チョコレートだった。


 口元には、少しだけ茶色い跡がついている。


 怜司は、思わず笑った。


「よかった」


「また持ってきて!」


「うん。機会があったらね」


 そのとき。


 別の女の子が、エリシアの袖を引いた。


「エリシアお姉ちゃん」


「どうしたの?」


「レイジお兄ちゃんって、エリシアお姉ちゃんの好きな人?」


 ――ピタッ。


 エリシアの動きが止まった。


 怜司も、思わず固まった。


「……えっ!?」


 女の子は、不思議そうに続けた。


「だって、エリシアお姉ちゃん、レイジお兄ちゃんが来るとすっごく嬉しそうなんだもん!」


 エリシアの顔が、一気に赤くなった。


「そ、それは……!」


 怜司も、頬が熱くなるのを感じた。


 周囲の子供たちが、楽しそうに笑い始める。


「好きなんだー!」


「仲良しだもんね!」


「お似合い!」


 エリシアは、両手で頬を押さえた。


「も、もう……みんなったら!」


 怜司は、どう答えればいいのか分からなかった。


 ただ、エリシアが困っているのを見て、慌てて話題を変えた。


「ほ、ほら! まだクッキーもあるよ!」


 子供たちは、すぐにお菓子へ興味を戻した。


 エリシアは、ほっと息を吐いた。


 そして、怜司を見た。


「……レイジ様」


「……はい」


「……ありがとうございます」


 怜司は、少し笑った。


「いえ……」


 二人は、顔を見合わせた。


 そして、思わず小さく笑った。


     ◇ ◇ ◇


 帰り道。


 怜司とエリシアは、ガルドに見守られながら街を歩いていた。


 夕暮れの空が、ルミエールの屋根を赤く染めている。


「……今日は、ありがとうございました」


 エリシアが言った。


「こちらこそ、楽しかったです」


 怜司は、笑顔で答えた。


 エリシアは、少しだけ歩調を緩めた。


「レイジ様」


「はい?」


「……私、今日のことを忘れないと思います」


 怜司は、彼女を見た。


「子供たちが、あんなに楽しそうに笑ってくれて……」


 エリシアは、胸の前で両手を重ねた。


「本当に、嬉しかったんです」


 怜司は、静かに頷いた。


「……俺もです」


 そして、少し考えてから続けた。


「また、一緒に何かできたらいいですね」


 エリシアは、目を輝かせた。


「……はい!」


 その笑顔を見て、怜司は思った。


 異世界へ来てよかった。


 もちろん、危険なことも多い。


 だが、ここには自分を必要としてくれる人たちがいる。


 そして、自分も大切にしたいと思える人たちがいる。


     ◇ ◇ ◇


 その日の夜。


 ベルン商会。


 トーマスは、従業員から届いた報告書を読んでいた。


「……なるほど」


 そこには、怜司が持ち込んだ菓子の評判が記されていた。


 貴族たちの反応は、非常によい。


 特にチョコレートは、珍しさと味の両方で高く評価されている。


 ただし、トーマスはすぐに販売量を増やそうとはしなかった。


 怜司との約束がある。


 無理に大量の商品を求めないこと。


 品質を保つこと。


 そして、取引を記録すること。


「……いい商売になりそうだ」


 トーマスは、静かに微笑んだ。


 だが、彼が期待しているのは利益だけではなかった。


 グレイヴ商会の事件で、ベルン商会は大きな打撃を受けた。


 多くの従業員が不安を抱え、取引先との関係も一部途絶えてしまった。


 新しい商品を扱うことは、商会の再出発にもつながる。


「……レイジ君には、感謝しなければならないな」


 トーマスは、帳簿を閉じた。


 そして、従業員へ指示を出した。


「次の取引について、正式な提案書を作ってくれ」


「承知しました」


 新しい商売が、少しずつ形になり始めていた。



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