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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第45話 金貨が持つ本当の価値――少年の資産形成計画

第45話 金貨が持つ本当の価値――少年の資産形成計画


 土曜日の朝。


 黒瀬怜司は、自室の机に一枚の金貨を置いていた。


 窓から差し込む朝日を受け、金貨の表面に刻まれた紋章が鈍く輝いている。


「……やっぱり、気になるよな」


 異世界で手に入れた金貨。


 冒険者としての報酬や、ルミナス伯爵家からの謝礼。そして、ベルン商会との取引で得た収入。


 それらは、怜司にとって大きな財産だった。


 だが、日本ではそのまま使えない。


 そこで怜司は、金貨そのものに価値があるのではないかと考えた。


 スマートフォンには、貴金属の買取に関する情報が表示されている。


 金の価値は、重さと純度によって大きく変わる。


 見た目が金色でも、必ずしも純金とは限らない。


 さらに、古い外国貨幣や出所の分からない品物は、店によって扱いが異なるらしい。


「……簡単にはいかないか」


 怜司は、金貨を指先で転がした。


 異世界の通貨を日本へ持ち込めること自体、普通ではあり得ない。


 だが、それを日本円に換えるとなれば、現実のルールを無視するわけにはいかない。


 しかも、自分はまだ十五歳だ。


 未成年が高額な貴金属を売却するには、保護者の同意や本人確認が必要になる場合もある。


 異世界のことを家族に話せない以上、慎重に考える必要があった。


「……まずは、勉強だな」


 怜司は、ノートを開いた。


 そこには、昨日から調べた内容が書き込まれている。


 金の純度。


 重量。


 売却時の税金。


 買取店の本人確認。


 そして、資産として保有する場合の注意点。


 以前の怜司なら、こんなことを調べようとは思わなかっただろう。


 だが、今は違う。


 自分で稼いだものを、どう守り、どう活かすか。


 それを考えることが、少し楽しくなっていた。


     ◇ ◇ ◇


「お兄ちゃーん!」


 廊下から陽菜の声がした。


「朝ごはんできたよ!」


「今行く!」


 怜司は金貨を布袋へ戻し、引き出しにしまった。


 リビングへ降りると、美咲が朝食を並べていた。


「おはよう、怜司」


「おはよう、母さん」


「今日はずいぶん早いのね」


「ちょっと調べものしてたんだ」


 美咲は微笑んだ。


「そうなの。何か新しいことでも始めるの?」


「……うん。少し、お金の勉強を」


 その言葉に、正臣が新聞から顔を上げた。


「お金の勉強?」


「うん。資産とか、商売とか」


 正臣は少し驚いたようだったが、すぐに頷いた。


「いいことだな」


 怜司は父を見た。


「父さん、ちょっと聞いてもいい?」


「何だ?」


「例えば、自分で何かを売ってお金を稼いだら、どうすればいいの?」


 正臣は新聞を畳んだ。


「売るものや金額によるな。まずは何を売ったのか、いくらで仕入れて、いくらで売ったのかを記録することだ」


「……やっぱり記録が大事なんだ」


「ああ。それに、収入が増えれば税金の問題も出てくる。未成年なら親の同意が必要な取引もある」


 怜司は、真剣に頷いた。


 異世界でトーマスに教わったことと、よく似ている。


 商売をする場所が違っても、信用や記録の大切さは変わらないらしい。


「……ありがとう、父さん」


「どういたしまして」


 正臣は笑った。


「何か始めるなら、一人で抱え込まずに相談しろよ」


 怜司は、一瞬だけ言葉に詰まった。


 異世界の秘密を打ち明けることは、まだできない。


 だが、父の言葉は嬉しかった。


「……うん」


     ◇ ◇ ◇


 その日の午後。


 怜司は、人目につかない場所から《界渡り》を発動した。


 視界が切り替わり、ルミエール郊外の林へ降り立つ。


 空気の匂いが違う。


 遠くから聞こえる鳥の鳴き声も、日本とはどこか異なっていた。


「……よし」


 怜司は街へ向かった。


 目的地は、ベルン商会。


 トーマスに確認したいことがあった。


     ◇ ◇ ◇


「レイジ君!」


 トーマスは、怜司を笑顔で迎えた。


「ちょうどよかった。先日の菓子について、報告したいことがあるんだ」


「……報告ですか?」


「ああ。試験的に何人かの顧客へ紹介したところ、非常に評判がよかった」


 怜司は、思わず笑顔になった。


「本当ですか!」


「特にチョコレートだね。あの滑らかな口当たりは、こちらの菓子職人でも簡単には再現できないだろう」


 トーマスは、机の上に帳簿を広げた。


「ただし、私は一つ気になっている」


「……何ですか?」


「君の仕入れ先だ」


 怜司の胸が、わずかに跳ねた。


 トーマスは続けた。


「もちろん、商人にとって仕入れ先は重要な秘密だ。無理に聞き出すつもりはない」


 その言葉に、怜司は少し安心した。


「ありがとうございます」


「ただ、今後取引を続けるなら、品質と供給量については約束を決めておきたい」


 怜司は頷いた。


「……俺も、そう思ってました」


 トーマスは、嬉しそうに笑った。


「ほう?」


「最初から大量に売るのは、やめようと思います」


 怜司は、自分の考えを説明した。


 まずは少量。


 品質が安定している商品だけを扱う。


 売上や仕入れの記録を残す。


 そして、無理に注文を増やさない。


 トーマスは、何度も頷いた。


「いい判断だ」


 そして、少し真剣な表情になった。


「それと、もう一つ提案がある」


「……はい」


「今後は、菓子だけでなく、君の故郷で価値の低いものがこちらでは高く評価される可能性を調べてみよう」


 怜司は、目を見開いた。


「……他の商品も?」


「ああ。ただし、危険な品や用途の分からない品は扱わない。まずは日用品や嗜好品だ」


 トーマスは微笑んだ。


「商売は、珍しいものを高く売るだけではない。人々が欲しいと思うものを、適切な価格で届けることが大切なんだ」


 怜司は、その言葉を心に刻んだ。


     ◇ ◇ ◇


 商談を終えたあと、怜司は商業地区を歩いていた。


 露店には、さまざまな商品が並んでいる。


 果物。


 香辛料。


 布。


 装飾品。


 そして、金属製の食器。


 怜司は、一軒の宝飾店の前で足を止めた。


 店先には、金や銀の装飾品が並んでいる。


「……すみません」


 店主が顔を上げた。


「いらっしゃい。何をお探しで?」


「この街では、金貨ってどうやって作ってるんですか?」


 店主は少し驚いた。


「金貨かい?」


「はい。純金なのかなって」


 店主は笑った。


「いやいや、純金じゃ柔らかすぎるからね。普通は別の金属を混ぜて強度を上げるんだよ」


 怜司は頷いた。


 日本で調べた内容と同じだった。


「……じゃあ、金貨の種類によって純度も違うんですね」


「そういうことだ。古い金貨なんかは、特にばらつきがある」


 怜司は、礼を言って店を離れた。


 金貨の価値を知るには、やはり専門的な確認が必要だ。


 だが、もう一つ分かったことがある。


 異世界の金貨は、単なるゲームのような数字ではない。


 現実の金属としての価値を持っている。


 それは、日本でも同じだった。


     ◇ ◇ ◇


 夜。


 日本へ戻った怜司は、机に向かっていた。


 ノートには、新しい項目が増えている。


 異世界での収入。


 日本での仕入れ。


 商品の在庫。


 そして、将来的な資産の管理方法。


「……まだまだ、分からないことだらけだな」


 怜司は、少し笑った。


 だが、不思議と嫌ではなかった。


 以前は、将来について考えることが怖かった。


 学校での毎日を乗り切るだけで精一杯だったからだ。


 しかし、今は違う。


 自分には、選択肢がある。


 異世界で冒険者として活動する道。


 商人として取引を広げる道。


 そして、日本で普通の高校生として生活する道。


 そのすべてを、大切にしたいと思った。


 怜司は、引き出しから金貨を一枚取り出した。


 小さな金色の円盤。


 だが、その重みは、以前とは違って感じられた。


「……いつか、家族にも楽をさせてあげたいな」


 怜司は、静かに呟いた。


 父も母も、自分と陽菜のために毎日働いている。


 今すぐ何かできるわけではない。


 それでも、いつか。


 家族が安心して暮らせるだけの力を、自分の手で築きたい。


 そう思った。



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