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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第43話 異世界への甘い贈り物――伯爵令嬢が恋した味

第43話 異世界への甘い贈り物――伯爵令嬢が恋した味


 ルミエールの街に、穏やかな朝が訪れていた。


 街道封鎖事件が解決してから、商業地区には少しずつ活気が戻り始めている。


 荷馬車が行き交い、商人たちの威勢のよい声が響く。


 そんな中。


 黒瀬怜司は、ルミナス伯爵邸へ向かって歩いていた。


 手には、小さな紙袋。


 中には、日本から持ってきたお菓子が入っている。


「……喜んでくれるかな」


 怜司は、少し緊張していた。


 魔物と戦うときとは、まったく違う緊張だった。


 約束していたとはいえ、女の子に贈り物を渡す経験など、ほとんどない。


 しかも、相手は伯爵令嬢。


 失礼なことにならないだろうか。


 そんなことを考えているうちに、伯爵邸へ到着した。


「レイジ殿!」


 門の前で声をかけてきたのは、騎士隊長ガルドだった。


「おはようございます、ガルドさん」


「おはようございます。本日は、エリシア様に?」


「はい。少し、お渡ししたいものがあって」


 怜司が紙袋を持ち上げると、ガルドはわずかに眉を上げた。


「……ほう」


 そして、口元に小さな笑みを浮かべた。


「それは、エリシア様がお喜びになりそうですな」


「……え?」


「いえ。こちらへどうぞ」


 ガルドは、それ以上何も言わなかった。


 だが、なぜか少し楽しそうだった。


     ◇ ◇ ◇


 伯爵邸の応接室。


 怜司が待っていると、扉が開いた。


「レイジ様!」


 明るい声とともに、エリシアが姿を現した。


 金色の髪が、朝日を受けて柔らかく輝いている。


 淡い水色のドレスを身にまとった彼女は、怜司を見つけると嬉しそうに微笑んだ。


「お待たせしてしまいましたか?」


「いえ、今来たところです」


 怜司も、自然と笑顔になった。


 エリシアは、向かいの椅子へ腰を下ろした。


「今日は、どうされたのですか?」


 怜司は、少し照れくさそうに紙袋を取り出した。


「……前に、約束したことを覚えていますか?」


 エリシアは、首を傾げた。


 そして、すぐに目を見開いた。


「……もしかして!」


 怜司は頷いた。


「はい。俺の故郷のお菓子です」


 その瞬間。


 エリシアの顔が、ぱっと明るくなった。


「本当ですか!?」


「はい」


 怜司は、紙袋から箱を取り出した。


 まずは、チョコレート。


 次に、バタークッキー。


 そして、色とりどりのキャンディー。


 エリシアは、目を輝かせた。


「……まあ!」


 箱を手に取り、興味深そうに眺める。


「こんなに美しい包装……!」


 怜司は、少し笑った。


「中身も、結構おいしいですよ」


「ぜひ、いただいてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


 怜司は、チョコレートの箱を開けた。


 中には、一口サイズのチョコレートが整然と並んでいる。


 エリシアは、一つを指先で摘まんだ。


「……これが、チョコレート?」


「はい」


 彼女は、そっと口へ運んだ。


 そして。


「…………!」


 動きが止まった。


 怜司は、少し不安になった。


「……どうですか?」


 エリシアは、ゆっくりと目を閉じた。


 そして、頬を押さえた。


「……おいしい……!」


 その声には、心からの驚きが込められていた。


「口の中で、溶けてしまいました……!」


 怜司は、ほっと息を吐いた。


「気に入ってもらえて、よかったです」


 エリシアは、目を輝かせたまま続けた。


「甘いのに、ただ甘いだけではなくて……香りも、とても豊かです!」


 そして、怜司を見た。


「レイジ様の故郷には、こんなお菓子があるのですね!」


「はい。結構、普通に売ってます」


「……普通に!?」


 エリシアは、驚いたように声を上げた。


 怜司は、思わず笑った。


「はい。子供でも買えるくらいです」


 エリシアは、しばらくチョコレートを見つめていた。


 そして、感心したように呟いた。


「……なんて素敵な場所なのでしょう」


     ◇ ◇ ◇


 次に、エリシアはクッキーを手に取った。


 小さな丸い形。


 表面には、細かな模様が刻まれている。


「こちらも、いただいてよろしいですか?」


「はい」


 エリシアは、一口かじった。


 ――サクッ。


 軽い音が響く。


 そして、すぐに笑顔になった。


「……こちらも、おいしいです!」


 怜司は、嬉しくなった。


「よかった」


「バターの香りが、とても豊かですね」


 エリシアは、もう一口食べた。


 そして、ふと怜司を見た。


「……レイジ様」


「はい?」


「これほどおいしいお菓子を、私のために持ってきてくださったのですか?」


 怜司は、少し照れくさくなった。


「……はい。約束してましたから」


 エリシアは、しばらく黙っていた。


 そして、柔らかく微笑んだ。


「……ありがとうございます」


 その笑顔を見た瞬間。


 怜司の胸が、少しだけ高鳴った。


 魔物と戦うときには感じない、不思議な緊張。


 だが、不快ではなかった。


 むしろ、もっと彼女の笑顔を見ていたいと思った。


     ◇ ◇ ◇


 しばらくして。


 応接室の扉が開いた。


「楽しそうな声が聞こえたと思ったら」


 姿を現したのは、アルベルト・ルミナスだった。


「お父様!」


 エリシアが立ち上がる。


 怜司も慌てて頭を下げた。


「アルベルト様。お邪魔しています」


「いやいや、気にしなくていいよ」


 アルベルトは穏やかに笑った。


 そして、テーブルの上に並んだお菓子へ目を向けた。


「……これは?」


 エリシアが、嬉しそうに答えた。


「レイジ様が、故郷のお菓子を持ってきてくださったのです!」


「ほう」


 アルベルトは、興味深そうにチョコレートを見た。


「ずいぶん珍しい菓子だね」


 怜司は頷いた。


「俺の故郷では、よく食べられているものです」


「そうなのか」


 アルベルトは、エリシアへ視線を向けた。


「そんなにおいしいのかい?」


「はい!」


 エリシアは、迷わず答えた。


「お父様も、ぜひ召し上がってください!」


 アルベルトは、少し笑った。


「では、お言葉に甘えようかな」


 そして、チョコレートを一つ口へ運んだ。


 数秒後。


「……これは」


 アルベルトの表情が変わった。


「……驚いたな」


 怜司は、少し緊張した。


「……どうでしょうか?」


 アルベルトは、ゆっくりと頷いた。


「素晴らしい。口当たりも香りも、非常によくできている」


 そして、興味深そうに尋ねた。


「これは、どこかの職人が特別に作ったものなのかい?」


 怜司は、少し困ったように笑った。


「……いえ。普通のお店で買いました」


「……普通の店で?」


 アルベルトは、目を見開いた。


 エリシアも頷く。


「私も驚きました!」


 アルベルトは、しばらく考え込んだ。


 そして、静かに言った。


「……レイジ君」


「はい?」


「もし差し支えなければ、いつかこの菓子について詳しく聞かせてもらえないだろうか」


 怜司は、少し驚いた。


「……お菓子について、ですか?」


「ああ」


 アルベルトは、穏やかに微笑んだ。


「これほど品質の高いものなら、商人たちも興味を持つだろうからね」


 その言葉に、怜司は初めて気づいた。


 日本では、普通に買えるお菓子。


 だが、異世界では、非常に珍しいものなのかもしれない。


 そして、その価値は、自分が思っている以上に大きいのかもしれなかった。


     ◇ ◇ ◇


 午後。


 怜司は、エリシアとともに伯爵邸の庭を歩いていた。


 庭園には、色とりどりの花が咲いている。


 エリシアは、先ほどのお菓子の話を楽しそうに続けていた。


「レイジ様の故郷には、他にも珍しい食べ物があるのですか?」


「はい。結構いろいろありますよ」


「まあ……!」


 エリシアは、目を輝かせた。


「いつか、もっと知りたいです」


 怜司は、少し笑った。


「……また、何か持ってきますね」


 エリシアは、嬉しそうに頷いた。


「楽しみにしています!」


 そして、少しだけ声を落とした。


「……でも」


「……はい?」


「お菓子も嬉しいですけれど……」


 エリシアは、頬を赤くした。


「こうしてレイジ様とお話しできる時間も、私は好きです」


 怜司は、思わず足を止めた。


「……えっ」


 エリシアも、自分の言葉に気づいたのか、さらに顔を赤くした。


「……あっ、いえ、その……!」


 怜司は、少しだけ笑った。


「……俺も、楽しいです」


 エリシアは、目を見開いた。


 そして、柔らかく微笑んだ。


「……ありがとうございます」


 二人は、並んで歩き始めた。


 特別なことは何もしていない。


 ただ、話をしているだけ。


 それでも、怜司にとっては心地よい時間だった。


     ◇ ◇ ◇


 夕方。


 怜司が伯爵邸を出ようとしたとき。


「レイジ君」


 アルベルトが声をかけてきた。


「はい?」


「実は、君に会わせたい人物がいるんだ」


 怜司は、首を傾げた。


「……どなたですか?」


 アルベルトは、穏やかに答えた。


「ベルン商会のトーマス会頭だよ」


 怜司は、少し驚いた。


「……トーマスさん?」


「ああ。今回の事件が解決したことで、彼の商会も立て直しを始めている」


 アルベルトは続けた。


「君の故郷の品について、商人としての意見を聞いてみるのも面白いかもしれない」


 怜司は、少し考えた。


 日本では、当たり前に買えるもの。


 それが、異世界では珍しい。


 もし、それを商売にできるなら。


 冒険者としての報酬とは別に、お金を稼ぐ方法が生まれるかもしれない。


「……分かりました」


 怜司は、頷いた。


「ぜひ、お話を聞いてみたいです」


 アルベルトは、満足そうに微笑んだ。


「では、明日にでも会ってみるといい」


 怜司は、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


 こうして。


 怜司は、異世界で新たな可能性を見つけ始めていた。


 それは、剣や魔法とは違う力。


 商売という、新しい世界への入口だった。



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