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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第34話 倉庫街の救出作戦――少年が守り抜いた命

 ――ピィィィッ!


 鋭い笛の音が、夜の倉庫街に響き渡った。


 それを合図に、建物の陰で待機していた衛兵たちが一斉に動き出す。


「衛兵隊だ! 武器を捨てろ!」


 怒号が響いた。


 倉庫の扉を警備していた二人の男が、驚いて振り返る。


「なっ!? 衛兵!?」


「くそっ! どうしてここが!」


 男たちは慌てて剣を抜いた。


 だが、その前に一人の冒険者が立ちはだかった。


 《蒼風の牙》のリーダー、カイルだった。


「悪いな。ここから先には行かせねえ」


 カイルは片手剣を構えた。


 男の一人が怒鳴る。


「邪魔するな!」


 次の瞬間、男が斬りかかった。


 ――ガキィンッ!


 カイルは相手の剣を受け流し、そのまま柄頭を男の腹部へ叩き込む。


「ぐはっ!」


 男が膝をついた。


 もう一人が背後から襲いかかろうとする。


 だが。


「そっちは駄目よ!」


 ――ヒュンッ!


 リーナの放った矢が、男の足元へ突き刺さった。


「うわっ!?」


 男が思わず足を止める。


 その隙に、衛兵たちが取り囲んだ。


「武器を捨てろ!」


 男は周囲を見回し、やがて観念したように剣を落とした。


 ――カランッ。


 金属音が石畳に響いた。


 黒瀬怜司は、その光景を見つめながら息を呑んだ。


 わずかな時間で、倉庫の入り口が制圧された。


 それも、ほとんど無駄な動きがない。


 ――……やっぱり、すごい。


 怜司は改めて感じた。


 冒険者としての経験。


 仲間との連携。


 そして、状況に応じた判断力。


 自分には、まだ足りないものばかりだった。


「レイジ!」


 カイルの声が飛ぶ。


 怜司は顔を上げた。


「はい!」


「中に入るぞ! 俺の後ろを離れるな!」


「分かりました!」


 怜司は、強く頷いた。


     ◇ ◇ ◇


 倉庫の扉が、ゆっくりと開かれた。


 ――ギィィ……。


 薄暗い内部。


 積み上げられた木箱。


 古い麻袋。


 そして、奥から漂ってくる微かな薬品の匂い。


 カイルが先頭に立ち、慎重に進む。


 リーナは後方を警戒。


 セドリックは杖を構え、魔力の反応を探っていた。


 怜司は、カイルの右後ろを歩いていた。


 そのとき。


「……止まってください」


 セドリックが小さく声を上げた。


 全員が足を止める。


「……どうした?」


 カイルが尋ねた。


 セドリックは、倉庫の奥を見つめた。


「……魔力反応が、急激に強くなっています」


 怜司は、息を呑んだ。


「……魔法ですか?」


「恐らく」


 セドリックは、杖を握り直した。


「ですが、少し不自然です」


 カイルが眉をひそめる。


「……不自然?」


「人の魔力というより、魔法道具に近い反応です」


 その言葉に、怜司は思い出した。


 街道で使われていた魔音石。


 そして、森の奥で起きた突然の爆発。


 今回も、何かの魔法道具が使われているのかもしれない。


 その瞬間。


 ――ドンッ!


 倉庫の奥から、鈍い音が響いた。


 続いて。


「……やめろ!」


 男の叫び声。


 怜司は、思わず顔を上げた。


「……今の!」


 カイルが、鋭く頷いた。


「……急ぐぞ!」


     ◇ ◇ ◇


 倉庫の奥。


 トーマス・ベルンは、椅子に縛られたまま、必死に身体を動かしていた。


 目の前には、黒い革鎧の男。


 そして、上質な服を身につけた商人風の男が立っている。


「……最後の機会です」


 商人風の男は、穏やかな声で言った。


「証拠の保管場所を教えてください」


 トーマスは、歯を食いしばった。


「……断る!」


 男は、静かに息を吐いた。


「……困りましたね」


 そして、黒い革鎧の男へ視線を向けた。


「……眠らせなさい」


 黒い革鎧の男が、小さな金属製の器具を取り出した。


 その表面には、青白い光が灯っている。


 トーマスの顔色が変わった。


「……何をするつもりだ!」


 男は、冷たく答えた。


「少しの間、意識を失ってもらうだけだ」


 そして、器具をトーマスへ近づけた。


 その瞬間。


 ――バンッ!


 倉庫の扉が勢いよく開かれた。


「そこまでだ!」


 カイルの声が響いた。


 黒い革鎧の男が、驚いて振り返る。


「……冒険者!?」


 怜司は、奥の椅子に縛られた男を見つけた。


 ――……いた!


 トーマス・ベルン。


 探していた人物が、そこにいた。


「……トーマスさん!」


 怜司が声を上げる。


 トーマスは、目を見開いた。


「……君たちは!?」


 だが、次の瞬間。


 黒い革鎧の男が、金属製の器具を高く掲げた。


「……近づくな!」


 器具の表面に、強い光が集まり始める。


 セドリックの表情が変わった。


「……まずい!」


 そして、叫んだ。


「それは、魔力放出型の道具です!」


 カイルが、剣を構えた。


「……何だと!?」


 黒い革鎧の男は、歪んだ笑みを浮かべた。


「一歩でも近づけば、こいつを使う!」


 怜司は、息を呑んだ。


 狭い倉庫。


 積み上げられた木箱。


 そして、逃げられないトーマス。


 ここで魔力が暴発すれば、何が起こるか分からない。


     ◇ ◇ ◇


 カイルは、ゆっくりと剣を下げた。


「……分かった」


 黒い革鎧の男が、少しだけ笑った。


「そうだ。それでいい」


 だが、カイルは視線を逸らさなかった。


「人質を解放しろ」


「……馬鹿言うな!」


 男は、器具をさらに強く握った。


「こいつは、俺たちの命綱なんだよ!」


 そのとき。


 怜司は、あることに気づいた。


 男の手が、震えている。


 怒りではない。


 恐怖だった。


 ――……あいつも、追い詰められてる。


 怜司は、静かに呼吸を整えた。


 相手は、危険な魔法道具を持っている。


 無理に飛び込めば、トーマスを巻き込むかもしれない。


 だが、このままでは状況が悪化する。


 そのとき。


「……レイジ」


 カイルが、小さく声をかけた。


 怜司は、顔を上げた。


「……はい」


「俺が注意を引く」


 カイルは、男から視線を逸らさずに続けた。


「お前は、セドリックの指示を待て」


 怜司は、頷いた。


「……分かりました」


 セドリックが、杖を握り直した。


 そして、静かに呟いた。


「……魔力の流れを、少しだけ乱せるかもしれません」


 怜司は、息を呑んだ。


「……そんなことが?」


「はい。ただし、一瞬だけです」


 セドリックは、真剣な表情で続けた。


「その隙に、道具を持つ手を止めてください」


 怜司は、強く頷いた。


「……やってみます」


     ◇ ◇ ◇


 カイルが、一歩前へ出た。


「……おい」


 黒い革鎧の男が、顔を上げる。


「……何だ!」


「お前、名前は?」


 男は、苛立ったように叫んだ。


「そんなこと、どうでもいいだろ!」


 カイルは、静かに首を横に振った。


「いや。俺は、お前を殺しに来たわけじゃない」


 その言葉に、男の表情がわずかに変わった。


「……何?」


「人質を解放して、武器を捨てろ」


 カイルは、落ち着いた声で続けた。


「そうすれば、命までは取らない」


 男は、唇を噛んだ。


「……ふざけるな!」


 そして、器具へ魔力を込めようとした。


 その瞬間。


「……今です!」


 セドリックの声が響いた。


 杖の先から、淡い光が放たれる。


 ――パチッ!


 金属製の器具が、一瞬だけ明滅した。


「……なっ!?」


 男が、驚いて手元を見た。


 その瞬間。


 怜司の身体が動いた。


 ――ダンッ!


 地面を蹴る。


 わずかな距離を、一気に詰める。


 男が顔を上げたときには、怜司は目の前にいた。


「……っ!?」


 怜司は、器具を持つ手首を掴んだ。


 そして、慎重に力を加えた。


 ――……壊さないように!


 男の手から、器具が離れる。


 怜司は、それを素早く受け取った。


 そして、すぐに後退した。


「……取れました!」


 セドリックが、杖を向ける。


「こちらへ!」


 怜司は、器具をセドリックへ渡した。


 セドリックは、魔力を遮断する布で包み込む。


 器具の光が、ゆっくりと消えていった。


 カイルが、剣を構えた。


「……終わりだ」


 黒い革鎧の男は、呆然としていた。


「……何なんだよ、お前ら」


 その声には、恐怖が滲んでいた。


     ◇ ◇ ◇


 だが。


 まだ、一人残っていた。


 上質な服を身につけた商人風の男。


 彼は、いつの間にか倉庫の奥へ移動していた。


 そして、壁際にある小さな扉へ手を伸ばしていた。


「……逃がすか!」


 リーナが、弓を構えた。


 だが、男は慌てなかった。


 懐から、小さな煙玉を取り出した。


 ――ボンッ!


 白い煙が、一気に広がる。


「……っ!」


 怜司は、思わず目を細めた。


 視界が遮られる。


 その隙に、男は扉を開けた。


「……待て!」


 カイルが叫ぶ。


 だが、男の姿は煙の向こうへ消えていた。


 リーナが、舌打ちした。


「……逃げられた!」


 カイルは、すぐに判断した。


「追うな!」


 怜司は、顔を上げた。


「……え?」


「人質が先だ!」


 その言葉に、怜司ははっとした。


 トーマスは、まだ椅子に縛られている。


 しかも、倉庫の中には煙が充満し始めていた。


 怜司は、すぐに動いた。


「……トーマスさん!」


 椅子へ駆け寄る。


 そして、縄を確認した。


 強く結ばれている。


 だが、怜司の力なら簡単に切れる。


 ただし、勢い余って怪我をさせてはいけない。


 怜司は、短剣を抜いた。


「……少し、動かないでください」


 トーマスが、頷いた。


「……ああ」


 怜司は、慎重に縄を切った。


 そして、トーマスの身体を支えた。


「……立てますか?」


 トーマスは、ゆっくりと立ち上がった。


「……すまない」


 その声は、震えていた。


 怜司は、微笑んだ。


「……無事でよかったです」


     ◇ ◇ ◇


 倉庫の外。


 衛兵たちが、捕らえた男たちを連行していた。


 トーマスは、ようやく自由になった身体で深く息を吸った。


 夜風が、頬を撫でる。


 その瞬間。


 彼の目から、涙がこぼれた。


「……生きて、帰れるのか」


 怜司は、静かに頷いた。


「……はい」


 トーマスは、震える手で顔を覆った。


「……妻と、娘が待っているんだ」


 怜司は、少しだけ目を見開いた。


 そして、胸の奥が温かくなった。


 家族。


 それは、どちらの世界でも変わらない。


 守りたい人がいる。


 帰りたい場所がある。


 だからこそ、人は必死になれるのだ。


 トーマスは、怜司へ向き直った。


「……君が、助けてくれたのか」


 怜司は、首を横に振った。


「……俺だけじゃありません」


 そして、カイルたちを見た。


「みんなで、助けたんです」


 カイルが、にやりと笑った。


「……そういうことだ」


 リーナも、肩をすくめた。


「一人じゃ、あんなにうまくいかなかったでしょうしね」


 セドリックは、穏やかに微笑んだ。


「……無事で何よりです」


 トーマスは、四人へ深く頭を下げた。


「……本当に、ありがとう」


 その声には、心からの感謝が込められていた。


     ◇ ◇ ◇


 その後。


 トーマスは、衛兵隊の保護下で事情を説明することになった。


 そして、彼が持っていた証拠についても、ようやく話し始めた。


「……私は、ある商会の不正を調べていた」


 カイルが、顔を上げた。


「……どこの商会ですか?」


 トーマスは、静かに答えた。


「……グレイヴ商会だ」


 怜司は、息を呑んだ。


 やはり、その名前が出てきた。


 トーマスは、続けた。


「街道の妨害が始まる少し前から、グレイヴ商会は他の商人たちへ不自然な契約を持ちかけていた」


 カイルが、眉をひそめた。


「……どんな契約ですか?」


「東方街道の輸送権を、安値で譲るようにというものだ」


 トーマスは、唇を噛んだ。


「拒否した商会ほど、荷馬車が妨害されていた」


 怜司は、拳を握った。


 ――……やっぱり。


 偶然ではなかった。


 誰かが、意図的に商人たちを追い詰めていた。


 トーマスは、静かに続けた。


「私は、その取引記録の写しを持っている」


 カイルの表情が変わった。


「……どこに?」


 トーマスは、少しだけ微笑んだ。


「……商会の金庫ではない」


 そして、低い声で言った。


「信頼できる者に、預けてある」


 怜司は、息を呑んだ。


 ついに、黒幕へつながる重要な証拠が見つかるかもしれない。


     ◇ ◇ ◇


 その頃。


 ルミエールの街の一角。


 暗い部屋の中で、一人の男が報告を受けていた。


「……失敗しました」


 部下の声が響く。


 男は、静かに書類を閉じた。


「……ベルンは?」


「……救出されました」


 男は、しばらく黙っていた。


 そして、ゆっくりと息を吐いた。


「……そうか」


 その声には、怒りよりも冷たさがあった。


「……冒険者ギルドが、思った以上に厄介だな」


 部下は、顔を伏せた。


 男は、窓の外を見つめた。


「……計画を、もう一度見直す必要がある」


 そして、静かに呟いた。


「……特に、あの少年については」


 部下が、顔を上げた。


「……少年?」


 男は、頷いた。


「……黒瀬怜司」


 その名前を、ゆっくりと口にした。


 すでに、彼の存在は知られていた。


 そして。


 その存在が、黒幕の計画を狂わせ始めていた。


 だが、事件はまだ終わっていない。


 街道封鎖。


 商会の不正。


 そして、奪われかけた一人の商人の命。


 すべての真相が明らかになる日は、確実に近づいていた。



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