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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第28話 蒼風の牙、迎撃――規格外の新人が見せた実力

 ――ガサガサッ!


 茂みを掻き分ける音が、森の静寂を破った。


「いたぞ! 四人だ!」


 剣を抜いた男が、木々の間から姿を現す。


 その後ろには、短槍を持った男と、片手斧を握る男。


 さらに少し離れた場所から、残る三人がこちらへ回り込もうとしていた。


 黒瀬怜司は、思わず息を呑んだ。


 自分が枝を踏んだせいで、見つかってしまった。


 その事実が、胸に重くのしかかる。


「……すみません、俺が」


「反省は後だ!」


 カイルの鋭い声が飛んだ。


 怜司は、はっと顔を上げる。


「今は周りを見ろ! 俺の右後ろを離れるな!」


「……はい!」


 カイルは、怜司の返事を聞くと、すぐに仲間へ指示を飛ばした。


「リーナ! 右から回る奴を止めろ!」


「了解!」


「セドリック! 防御を頼む!」


「任せてください!」


 三人の動きは、驚くほど速かった。


 いや、単純な身体能力の話ではない。


 誰が何をすべきか、全員が理解している。


 だからこそ、無駄な動きがない。


 怜司は、短剣を握り直した。


 ――……これが、冒険者の戦い方。


 その瞬間。


「邪魔する奴は殺せ!」


 先頭の男が、剣を振り上げて突っ込んできた。


     ◇ ◇ ◇


 ――ガキィンッ!


 金属同士が激しくぶつかる音が響いた。


 カイルの剣が、男の一撃を受け止めていた。


「……っ!」


 男の顔が歪む。


 カイルは、力任せに押し返さなかった。


 相手の剣を斜めに受け流し、身体を半歩ずらす。


 そして、空いた脇腹へ柄頭を叩き込んだ。


「ぐはっ!」


 男が、地面へ崩れ落ちる。


 怜司は、その動きを目で追っていた。


 ――……今の。


 真正面から受け止めるのではなく、力の方向を変えた。


 以前、バルドに教えられたことを思い出す。


『力だけで戦うな。相手が何をしようとしているのか見ろ』


 あのときは、言葉の意味を十分に理解できていなかった。


 だが、今は違う。


 実際の戦闘を目の前にして、少しずつ理解が深まっていく。


 神級権能《万象習得》。


 それは、技術を一瞬で完成させる力ではない。


 見て、考え、試し、修正する。


 その積み重ねを、通常より遥かに速く吸収する力だった。


 怜司は、カイルの足運びを目に焼きつけた。


 だが、観察しているだけでは済まなかった。


「……おい、そこのガキ!」


 短槍を持った男が、怜司へ視線を向けた。


「武器もろくに扱えねえくせに、冒険者気取りか!」


 男は、槍を構えた。


 そして、一気に踏み込んできた。


「……っ!」


 怜司の身体が、反射的に動いた。


 槍の穂先が、胸元へ迫る。


 以前の自分なら、恐怖で固まっていただろう。


 だが、今の怜司には、その動きがはっきりと見えていた。


 ――……速くない。


 そう感じた瞬間、怜司は横へ身体をずらした。


 槍が、制服ではない冒険者用の上着を掠めることもなく通り過ぎる。


「……なっ!?」


 男の目が見開かれた。


 怜司は、思わず短剣を構えた。


 だが。


 ――……待て。


 ここで刃を振るえば、相手を大きく傷つけてしまうかもしれない。


 相手は人間だ。


 しかも、自分の身体能力は普通ではない。


 力加減を間違えれば、取り返しのつかないことになる。


 怜司は、瞬時に判断した。


 そして、短剣を振る代わりに、槍の柄へ手を伸ばした。


「……え?」


 男が、間の抜けた声を上げた。


 怜司は、槍を掴むと軽く引いた。


 ――グンッ!


「うおっ!?」


 男の身体が、大きく前へ傾いた。


 怜司は、その勢いに驚いた。


 ――……引きすぎた!


 慌てて力を緩める。


 だが、すでに男は体勢を崩していた。


 その瞬間。


「レイジ! 下がれ!」


 カイルの声が飛ぶ。


 怜司は、反射的に後退した。


 直後。


 カイルが、男の首元へ剣を突きつけた。


「……武器を捨てろ」


 男は、青ざめた顔で槍を手放した。


 怜司は、ほっと息を吐いた。


 だが、カイルは厳しい表情で振り返った。


「レイジ!」


「……はい!」


「今の動きは悪くない! だが、敵の武器を掴むなら、次にどうするかまで考えろ!」


 怜司は、息を呑んだ。


 確かに、そのとおりだった。


 槍を掴んだあと、どう制圧するのか。


 そこまで考えていなかった。


「……すみません」


「謝るな! 次に活かせ!」


「……はい!」


 怜司は、強く頷いた。


     ◇ ◇ ◇


 一方。


 リーナは、森の右側から回り込もうとしていた二人の男を見つけていた。


「……まったく」


 彼女は、小さく息を吐いた。


「素人相手だと思って油断してるのね」


 弓を引く。


 狙いは、男の身体ではない。


 足元だった。


 ――ヒュンッ!


 放たれた矢が、男の進行方向へ突き刺さる。


「うわっ!?」


 男が、慌てて足を止めた。


 その隙に、リーナは素早く位置を変える。


 そして、二本目の矢を構えた。


「……それ以上、進まない方がいいわよ」


 男たちは、顔を見合わせた。


「……くそっ!」


 一人が、剣を抜いて突っ込んでくる。


 リーナは、慌てなかった。


 弓を下げ、腰の短剣を抜く。


 そして、相手の攻撃を避けながら、足を払った。


「ぐあっ!」


 男が、地面へ転がる。


 もう一人が、背後から襲いかかろうとした。


 だが。


「……《拘束》」


 静かな声が響いた。


 セドリックだった。


 杖の先から淡い光が伸び、男の足元へ絡みつく。


「なっ!?」


 男の足が、動かなくなった。


 セドリックは、落ち着いた声で告げた。


「無理に動かないでください。転倒しますよ」


 男は、必死に足を動かそうとした。


 だが、魔法の拘束は簡単には解けなかった。


 リーナは、満足そうに笑った。


「ありがと、セドリック」


「どういたしまして」


 二人の連携は、見事だった。


     ◇ ◇ ◇


 戦闘が始まってから、まだ数分も経っていなかった。


 それでも、男たちの大半はすでに戦意を失っていた。


 カイルが一人を制圧。


 リーナとセドリックが二人を拘束。


 怜司が体勢を崩した男も、武器を手放している。


 残る二人は、少し離れた場所で様子を窺っていた。


「……おい、話が違うぞ!」


 一人が、焦った声を上げた。


「ただの冒険者だって聞いてたのに!」


 もう一人が、怜司を指さした。


「……あのガキ、何なんだよ!」


 怜司は、少し困った顔をした。


 自分としては、まだ大したことをしていない。


 槍を避けて、掴んだだけだ。


 だが、男たちにとっては違った。


 あの距離からの突きを、あまりにも簡単に避けられた。


 しかも、槍を掴まれた瞬間、身体ごと引きずられた。


 常識では考えられない力だった。


 カイルは、剣を構えたまま告げた。


「……武器を捨てろ」


 男たちは、顔を見合わせた。


 そして、一人が叫んだ。


「……くそっ! 頭に知らせろ!」


 二人は、森の奥へ走り出した。


 カイルは、追いかけようとはしなかった。


「……逃げたか」


 リーナが、弓を構え直した。


「追う?」


 カイルは、首を横に振った。


「いや。今はいい」


 そして、拘束した男たちへ視線を向けた。


「こいつらを確保する方が先だ」


 怜司は、少し驚いた。


「……追わなくていいんですか?」


 カイルは、静かに頷いた。


「森の奥には、まだ仲間がいるかもしれない」


 そして、怜司を見た。


「追いかけて罠に飛び込むのは、馬鹿のすることだ」


 怜司は、ゆっくりと頷いた。


「……なるほど」


 確かに、逃げた相手を追いかけることが正解とは限らない。


 今は、すでに重要な情報を得ている。


 そして、捕らえた男たちから話を聞くこともできる。


 怜司は、改めてカイルの判断力に感心した。


     ◇ ◇ ◇


 男たちを拘束したあと。


 カイルは、静かに問いかけた。


「……お前たち、何者だ?」


 男たちは、黙っていた。


 カイルは、表情を変えずに続けた。


「街道で荷馬車を脅していたのは、お前たちだな?」


 その言葉に、一人の男が顔を上げた。


「……知らねえよ」


 カイルは、静かに頷いた。


「そうか」


 そして、セドリックへ視線を向けた。


「さっきの魔力の痕跡、説明できるか?」


 セドリックは頷いた。


「はい」


 そして、男たちへ向き直った。


「街道には、魔法道具が使われた痕跡がありました」


 男たちの表情が、わずかに変わった。


「さらに、森の中の小屋にも同じ系統の魔力反応があります」


 セドリックは、静かに続けた。


「偶然とは考えにくいですね」


 男たちは、黙り込んだ。


 カイルは、腕を組んだ。


「……まあ、今ここで全部話す必要はない」


 そして、少しだけ笑った。


「ギルドへ連れていけば、詳しく調べてもらえるからな」


 その言葉に、男の一人が顔色を変えた。


「……ま、待て!」


 カイルは、眉を上げた。


「……何だ?」


 男は、周囲を見回した。


 そして、小さな声で言った。


「……俺たちは、ただ雇われただけなんだ」


 怜司は、息を呑んだ。


 ――……雇われた?


 カイルの表情が、真剣になった。


「……誰に?」


 男は、唇を噛んだ。


「……それは」


 そのとき。


 ――ドォンッ!


 森の奥から、突然大きな音が響いた。


 全員が、顔を上げた。


 木々の間から、黒い煙が立ち上っている。


 リーナが、目を見開いた。


「……何!?」


 セドリックが、杖を構えた。


「……魔力反応があります!」


 カイルは、すぐに剣を抜いた。


「……全員、警戒!」


 怜司も、反射的に身構えた。


 その直後。


 森の奥から、低い唸り声が響いた。


 ――グルルルル……。


 怜司は、息を呑んだ。


 その声は、明らかに人間のものではなかった。


 リーナが、顔をしかめた。


「……まさか」


 セドリックが、静かに呟いた。


「……魔物です」


 カイルは、森の奥を睨みつけた。


「……くそっ」


 そして、低い声で言った。


「……どうやら、ただの盗賊騒ぎじゃ済まなさそうだな」


 怜司は、拳を握った。


 森の奥から、何か大きなものが近づいてくる。


 木々が揺れる。


 地面が、微かに震える。


 そして。


 薄暗い森の奥に、二つの赤い光が浮かび上がった。


 怜司は、思わず息を止めた。


 初めての合同依頼。


 その戦いは、まだ終わっていなかった。



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