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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第27話 森に仕掛けられた罠――暴かれる街道封鎖の真相

 ルミエール東方街道。


 森の入り口から吹き抜ける風には、微かに焦げたような臭いが混じっていた。


 黒瀬怜司は、足元に残された車輪の跡を見つめていた。


 荷馬車が急激に進路を変えた痕跡。


 その周囲に残る複数の人間の足跡。


 そして、セドリックが発見した魔力の残滓。


 偶然にしては、不自然なものが多すぎた。


「……全員、ここから先は慎重に進むぞ」


 Cランク冒険者パーティー《蒼風の牙》のリーダー、カイルが低い声で告げた。


 先ほどまでの気さくな雰囲気は消えている。


 右手は腰の剣に添えられ、視線は森の奥へ向けられていた。


「リーナ、左右を頼む」


「了解」


「セドリック、魔力の痕跡を追えるか?」


「……試してみます。ただ、かなり薄いですね」


 最後に、カイルが怜司へ振り返った。


「レイジ。お前は俺の後ろだ」


「……はい」


「何か見つけても、勝手に動くなよ」


「分かりました」


 怜司は頷いた。


 正直なところ、少し緊張していた。


 これまでにも魔物と戦った経験はある。


 だが、今回は事情が違う。


 相手が魔物なのか、人間なのかさえ分かっていない。


 しかも、自分一人ではない。


 仲間の判断を無視すれば、全員を危険に晒す可能性がある。


 ――……まずは、ちゃんと見て学ぼう。


 怜司は呼吸を整えた。


 そして、三人の後に続いて森へ足を踏み入れた。


     ◇ ◇ ◇


 森の中は、思っていた以上に薄暗かった。


 木々の枝が頭上を覆い、日差しを遮っている。


 湿った土の匂い。


 葉擦れの音。


 遠くで鳴く鳥の声。


 怜司は、周囲の景色を注意深く観察した。


 カイルの歩き方は、普段とは違っていた。


 足音を抑えながら、視線を絶えず動かしている。


 リーナは少し離れた位置を歩き、時折立ち止まって木々の間を確認していた。


 セドリックは杖を手に、何かを感じ取ろうとしている。


 その動きには、無駄がなかった。


 ――……すごいな。


 怜司は、素直にそう思った。


 身体能力なら、自分の方が高いのかもしれない。


 だが、危険な場所での立ち回りは、三人の方が遥かに上だ。


 そのとき。


「……止まって」


 リーナが、小さく声を上げた。


 全員が足を止める。


 彼女は、地面を指さした。


「……ここ」


 怜司が視線を向けると、落ち葉の下に細い縄のようなものが見えた。


「……縄?」


 カイルが、しゃがみ込んだ。


「……いや、罠だな」


 怜司は、目を見開いた。


 よく見ると、細い縄は木の根元へ続いていた。


 その先には、枝を組み合わせた仕掛けが隠されている。


「……踏むと、どうなるんですか?」


 怜司が尋ねると、カイルは静かに答えた。


「恐らく、音が鳴る」


 リーナが、周囲を見渡した。


「侵入者を知らせるためのものね」


 怜司は、息を呑んだ。


 魔物が仕掛けたものではない。


 明らかに、人間の手によるものだった。


 カイルは、慎重に縄を確認した。


「……新しいな」


 そして、少しだけ表情を険しくした。


「最近、誰かがここを使っている」


 セドリックが、杖を持ち上げた。


「……魔力の痕跡も、こちらへ続いています」


 カイルは、静かに頷いた。


「……よし」


 そして、全員へ視線を向けた。


「ここからは、さらに警戒するぞ」


     ◇ ◇ ◇


 それからしばらく進んだ頃だった。


 怜司は、ふと足を止めた。


 何かが、聞こえた気がした。


 ――……今のは?


 耳を澄ませる。


 風の音。


 木々のざわめき。


 その奥に、微かな金属音が混じっている。


 怜司は、カイルへ小さく声をかけた。


「……カイルさん」


「……どうした?」


「……向こうから、何か音がします」


 カイルは、すぐに足を止めた。


「……どっちだ?」


 怜司は、森の奥を指さした。


「あっちです」


 リーナが、目を細めた。


 そして、しばらく耳を澄ませた。


「……確かに」


 小さく呟く。


「何か、金属を動かすような音がする」


 カイルは、怜司を見た。


「……よく気づいたな」


 怜司は、少し照れたように笑った。


「……たまたまです」


 だが、内心では分かっていた。


 以前の自分なら、気づけなかったかもしれない。


 神級権能《完全適応》。


 その影響で、身体の感覚が少しずつ鋭くなっている。


 ただし、だからといって何でも分かるわけではない。


 怜司は、気を引き締め直した。


     ◇ ◇ ◇


 四人は、音のする方向へ慎重に進んだ。


 やがて、木々の間から小さな空き地が見えてきた。


 そこには、古びた小屋が一つ建っていた。


 その周囲には、数台の荷車が置かれている。


 怜司は、思わず目を見開いた。


「……荷車?」


 カイルが、静かに頷いた。


「……ああ」


 そして、木の陰へ身を隠した。


 リーナも、素早く弓を構える。


 セドリックは、杖を握り直した。


 怜司も、三人に倣って身を低くした。


 空き地には、数人の男たちがいた。


 粗末な革鎧。


 腰に下げた剣。


 そして、荷車から木箱を降ろしている姿。


 男たちは、何かを話していた。


「……これで三台目か」


「ああ。商人ども、すっかり怯えてやがる」


 怜司は、息を呑んだ。


 カイルが、さらに身を低くするよう合図した。


 男たちの会話は続く。


「魔物が出るって噂も、随分広まったな」


「そりゃそうだ。あれだけ脅かせば、誰だって引き返す」


 その言葉に、怜司の表情が変わった。


 ――……脅かす?


 男の一人が、笑った。


「まあ、あの魔法道具は便利だよな」


 別の男が頷く。


「魔物の鳴き声を真似できるなんて、よく考えたもんだ」


 怜司は、カイルへ視線を向けた。


 カイルの表情は、険しくなっていた。


 どうやら、ただの魔物騒ぎではなさそうだ。


     ◇ ◇ ◇


 男たちの会話を聞きながら、怜司は考えていた。


 街道で荷馬車が引き返している。


 魔物の噂が広まっている。


 そして、森の中に隠された荷車。


 そのすべてが、偶然とは思えなかった。


 だが、まだ分からないこともある。


 なぜ、こんなことをしているのか。


 誰が指示しているのか。


 そして、どこまで関係者がいるのか。


 そのとき。


「……カイル」


 リーナが、小さく声をかけた。


「……あれ、見て」


 彼女が指さした先。


 小屋の横には、木箱が積み上げられていた。


 その一つには、見覚えのある紋章が刻まれている。


 怜司は、目を凝らした。


 白い花を模した印。


 そして、その下に刻まれた文字。


 カイルが、低く呟いた。


「……ルミエール東地区の商会印だな」


 セドリックも、頷いた。


「……つまり、街道を通るはずだった物資ですね」


 怜司は、息を呑んだ。


 もし、あの中に食料が入っているなら。


 孤児院へ届くはずだった物資も、ここにあるのかもしれない。


 その瞬間。


 怜司の胸の奥に、強い怒りが湧き上がった。


 エリシアが、どれほど心配していたか。


 孤児院の子供たちが、どれほど物資を必要としているか。


 それを知っているからこそ。


 目の前の男たちの行動が、許せなかった。


 だが。


「……レイジ」


 カイルが、小さく声をかけた。


 怜司は、顔を上げた。


「……はい」


「……気持ちは分かる」


 カイルは、静かに続けた。


「だが、今は動くな」


 怜司は、少しだけ拳を握った。


 そして、ゆっくりと頷いた。


「……分かりました」


 カイルは、満足そうに頷いた。


「……よし」


 そして、周囲を見渡した。


「まずは、人数と配置を確認する」


     ◇ ◇ ◇


 空き地にいる男たちは、全部で六人。


 そのうち二人は、荷車の近く。


 三人は、小屋の周囲。


 そして一人は、森へ続く道を見張っていた。


 カイルは、慎重に状況を確認した。


「……数は多くない」


 リーナが頷いた。


「でも、他にもいるかもしれないわ」


「……そうだな」


 セドリックが、静かに口を開いた。


「魔力の反応は、少なくとも二つあります」


 怜司は、少し驚いた。


「……二つ?」


「はい。小屋の中と、荷車の近くです」


 カイルは、少し考えた。


「……魔法道具か」


 セドリックは頷いた。


「恐らく」


 そのとき。


 小屋の扉が開いた。


 中から、一人の男が出てきた。


 他の男たちよりも、明らかに装備が整っている。


 黒い革鎧。


 腰には長剣。


 そして、首元には銀色の装飾品が光っていた。


 男は、周囲を見渡した。


「……準備はどうだ」


 荷車の近くにいた男が答える。


「問題ありません、頭」


 怜司は、息を呑んだ。


 ――……あいつが、リーダーか。


 男は、静かに頷いた。


「よし。今夜の荷馬車も、予定どおり引き返させろ」


 そして、少しだけ笑った。


「商人どもが怯えているうちは、こっちの仕事も楽になる」


 別の男が、尋ねた。


「……でも、いつまで続けるんです?」


 リーダーらしき男は、少しだけ目を細めた。


「……依頼主が満足するまでだ」


 その言葉に、カイルの表情が変わった。


 怜司も、思わず目を見開いた。


 ――……依頼主?


 つまり、この男たちは誰かに雇われている。


 自分たちの判断だけで、街道を妨害しているわけではない。


 その可能性が、浮かび上がってきた。


     ◇ ◇ ◇


 カイルは、静かに仲間たちへ視線を向けた。


「……一度、戻るぞ」


 怜司は、少し驚いた。


「……え?」


「ここで戦う必要はない」


 カイルは、低い声で続けた。


「依頼は調査だ。敵を倒すことじゃない」


 怜司は、黙って頷いた。


 確かに、そのとおりだった。


 ここで戦えば、相手を捕らえられるかもしれない。


 だが、逃げられる可能性もある。


 さらに、背後にいる依頼主の存在まで隠されてしまうかもしれない。


 カイルは、続けた。


「まずはギルドへ報告する」


 そして、少しだけ笑った。


「それが、今の俺たちの仕事だ」


 怜司は、ゆっくりと頷いた。


「……はい」


 そのときだった。


 ――パキッ。


 小さな音が響いた。


 怜司は、思わず足元を見た。


 落ちていた細い枝を、踏んでしまっていた。


 その瞬間。


「……誰だ!」


 空き地にいた見張りの男が、こちらを振り返った。


 カイルの表情が変わった。


「……まずい!」


 リーナが、素早く弓を構える。


 セドリックも、杖を持ち上げた。


 怜司は、息を呑んだ。


 男たちの視線が、一斉に森の方へ向けられる。


「……そこに誰かいるぞ!」


 見張りが叫んだ。


 次の瞬間。


 六人の男たちが、武器を手に動き始めた。


 カイルは、素早く剣を抜いた。


「……全員、戦闘準備!」


 その声に、怜司の身体が反応した。


 腰の短剣へ手を伸ばす。


 だが、カイルがすぐに叫んだ。


「レイジ! 前に出るな!」


 怜司は、はっとした。


 そうだ。


 自分は、まだ経験が浅い。


 ここで勝手に動けば、仲間の連携を乱してしまう。


 怜司は、短剣を抜きながらも、一歩後ろへ下がった。


 カイルは、そんな怜司を一瞬だけ見た。


 そして、にやりと笑った。


「……いい判断だ」


 次の瞬間。


 森の奥から、男たちの足音が迫ってきた。


 初めての合同依頼。


 その調査は、思いがけない形で戦闘へ発展しようとしていた。


 そして怜司は、まだ知らなかった。


 この街道封鎖の裏には、単なる盗賊の略奪とは異なる思惑が隠されていることを。


 その真相が、ルミエールの街そのものへ波紋を広げていくことを。



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