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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第20話 追い詰められる加害者――崩れ始めた鷹宮家の支配

 黒瀬家との面談が終わった、その日の夕方。


 鷹宮開発の社長室には、重苦しい沈黙が漂っていた。


 大きな窓の向こうには、夕日に染まる街並みが広がっている。


 高層ビル。


 整備された道路。


 遠くに見える建設現場。


 そのいくつかは、鷹宮開発が手がけたものだった。


 鷹宮隆臣は、革張りの椅子に深く腰を下ろしていた。


 机の上には、学校で受け取った資料が並んでいる。


 黒瀬怜司へのいじめ。


 複数の生徒による目撃証言。


 そして、息子が送信した脅迫的なメッセージ。


「……馬鹿な真似を」


 隆臣は、低く呟いた。


 怒りの対象は、黒瀬家ではなかった。


 少なくとも、今この瞬間は。


 息子の翔真だった。


 他人を見下す。


 弱い相手をからかう。


 自分の立場を利用して、周囲を従わせる。


 その程度のことは、隆臣も薄々知っていた。


 だが。


 ――証拠を残すとは。


 隆臣は、机の上の紙を指で叩いた。


『逃げたら、お前の家族がどうなっても知らねえぞ』


 何度読んでも、言い逃れの難しい文章だった。


 しかも、相手の妹の通学にまで触れている。


 単なる口喧嘩では済まされない。


 黒瀬家が警察へ相談したのも、当然といえば当然だった。


「……まったく」


 隆臣は、深いため息をついた。


 そのとき。


 ――コンコン。


 扉が叩かれた。


「……入れ」


 秘書が、静かに入ってくる。


「社長。翔真様がお見えです」


 隆臣の目が、わずかに細くなった。


「……通せ」


「かしこまりました」


 秘書が頭を下げる。


 数秒後。


 扉が開いた。


「……親父」


 鷹宮翔真が、面倒くさそうな顔で入ってきた。


 制服の上着を片手に持ち、ネクタイも緩めている。


 その表情には、反省の色がほとんどなかった。


「何だよ、急に呼び出して」


 隆臣は、黙って息子を見つめた。


 そして、机の上の資料を指さした。


「……座れ」


 翔真は、少し不満そうに眉をひそめた。


「……は?」


「座れと言った」


 その声は、低かった。


 翔真は一瞬だけ口を閉じた。


 そして、渋々椅子へ腰を下ろした。


     ◇ ◇ ◇


「……今日、黒瀬家と話をしてきた」


 隆臣が口を開いた。


 翔真は、鼻で笑った。


「……ああ、あいつら?」


 隆臣の眉が動く。


「……何がおかしい」


「だってさ」


 翔真は、面倒くさそうに肩をすくめた。


「たかが黒瀬のくせに、親まで出して騒いでんだろ?」


 その瞬間。


 ――バンッ!


 隆臣の手が、机を叩いた。


 翔真の肩が、びくりと跳ねた。


「……たかが?」


 隆臣の声は、静かだった。


 だが、その静けさがかえって恐ろしかった。


「お前は、まだ自分が何をしたのか分かっていないようだな」


 翔真は、少しだけ顔を強張らせた。


「……何だよ」


 隆臣は、机の上の資料を翔真の前へ滑らせた。


「読め」


 翔真は、面倒くさそうに紙を手に取った。


 そして、数秒後。


 その表情が変わった。


「……は?」


 紙には、自分が送ったメッセージが印刷されていた。


 送信時刻。


 送信者。


 本文。


 すべてが、はっきりと残っている。


「……これ」


 翔真は、思わず顔を上げた。


「……黒瀬が出したのか?」


「そうだ」


 隆臣は、冷たく答えた。


「しかも、警察にも相談済みだ」


 翔真の顔色が、わずかに変わった。


「……警察?」


「ああ」


 隆臣は、腕を組んだ。


「お前の言葉は、脅迫と受け取られている」


 翔真は、慌てて声を上げた。


「いや、別に本気じゃねえし!」


「本気かどうかは、相手には分からん」


「……でも!」


「黙れ」


 隆臣の一言で、翔真は口を閉じた。


 隆臣は、ゆっくりと続けた。


「お前が軽い気持ちで送った言葉が、どれだけ大きな問題になるか考えたことはあるか?」


 翔真は、何も答えなかった。


 隆臣は、さらに続けた。


「学校は、正式な調査を始めることになる」


「……は?」


「関係する生徒への聞き取りも行われるだろう」


 翔真の表情が、少しずつ険しくなった。


「……ふざけんなよ」


 低く呟く。


 隆臣は、目を細めた。


「……何?」


「黒瀬の奴……」


 翔真は、拳を握った。


「……調子に乗りやがって」


 その言葉に、隆臣は深いため息をついた。


「……お前は、本当に何も分かっていないな」


     ◇ ◇ ◇


「……いいか、翔真」


 隆臣は、息子をまっすぐに見つめた。


「これ以上、黒瀬怜司に接触するな」


 翔真は、目を見開いた。


「……は?」


「話しかけるな。近づくな。連絡もするな」


 隆臣は、一つずつ言い聞かせた。


「堂島や三枝にも、余計なことをさせるな」


 翔真は、思わず立ち上がった。


「……何で俺が!」


「座れ」


「……でも!」


「座れ!」


 隆臣の声が、社長室に響いた。


 翔真は、悔しそうに歯を食いしばった。


 そして、ゆっくりと椅子へ戻った。


 隆臣は、静かに続けた。


「今のお前が何かすれば、すべてこちらに不利になる」


 翔真は、顔をしかめた。


「……じゃあ、あいつの好き放題にさせろって?」


「そうではない」


 隆臣は首を横に振った。


「学校の調査が終わるまで、余計な行動をするなと言っている」


 翔真は、黙り込んだ。


 だが、その目には明らかな不満が残っていた。


 隆臣は、それを見逃さなかった。


「……翔真」


「……何だよ」


「お前がこれまで、父親の立場を利用してきたことは知っている」


 翔真の顔が、わずかに強張った。


「……」


「だが、世の中には、金や肩書だけではどうにもならんことがある」


 隆臣は、静かに続けた。


「今回の件は、その一つだ」


 翔真は、何も答えなかった。


 ただ、机の上の資料を睨みつけていた。


     ◇ ◇ ◇


 翌日。


 学校では、普段とは違う空気が流れていた。


 黒瀬怜司が教室へ入ると、何人かの生徒がこちらを見た。


 だが、以前のような露骨な笑い声は聞こえなかった。


 怜司は、少しだけ驚いた。


 ――……静かだ。


 いつもなら、教室へ入った瞬間に何か言われていた。


 体型をからかわれる。


 荷物を動かされる。


 わざと肩をぶつけられる。


 そんなことが、当たり前のように続いていた。


 だが、今日は違う。


 翔真は、自分の席に座っていた。


 堂島と三枝も近くにいる。


 しかし、怜司へ近づいてこなかった。


 怜司は、少しだけ警戒しながら席へ向かった。


 鞄を置く。


 椅子へ座る。


 そして、教科書を取り出す。


 それだけのことが、妙に新鮮だった。


 ――……普通に座れた。


 怜司は、思わず小さく息を吐いた。


 そのとき。


「……黒瀬」


 隣から、声がした。


 相沢直人だった。


「……おはよう」


 怜司は顔を上げた。


「……おはよう」


 直人は、少しだけ周囲を見回した。


 そして、小さな声で言った。


「……昨日の面談、どうだった?」


 怜司は、少し考えた。


「……まだ、何も決まってない」


 直人は頷いた。


「……そっか」


「でも、学校が調べるって」


 その言葉に、直人は少しだけ安心したような顔をした。


「……なら、よかった」


 怜司は、直人を見つめた。


「……相沢」


「……ん?」


「……証言、ありがとう」


 直人は、少し照れたように視線を逸らした。


「……別に」


 そして、小さく続けた。


「……今まで、何もできなかったから」


 怜司は、すぐには答えなかった。


 だが、少しだけ笑った。


「……助かったよ」


 直人も、わずかに笑った。


     ◇ ◇ ◇


 昼休み。


 教室の後方では、翔真たちが小声で話していた。


「……マジで、どうすんだよ」


 堂島剛が、不安そうに言った。


 翔真は、苛立った表情で机を指で叩いていた。


「……知らねえよ」


 三枝悠斗が、周囲を気にしながら口を開く。


「……俺らにも聞き取り来るんだろ?」


「……ああ」


 堂島が頷いた。


「担任から言われた」


 翔真は、舌打ちした。


「……面倒くせえ」


 三枝は、少しだけ声を落とした。


「……でもさ」


「……何だよ」


「……相沢が、何か書いたらしいぞ」


 翔真の目が、鋭くなった。


「……相沢?」


「……ああ」


 三枝は頷いた。


「昨日、黒瀬と話してた」


 翔真は、ゆっくりと顔を上げた。


 そして、教室の前方を見た。


 怜司と直人が、静かに話している。


 その光景を見た瞬間。


 翔真の表情が、冷たくなった。


「……あいつ」


 低く呟く。


「……裏切りやがったな」


 堂島が、慌てて声をかけた。


「……おい、翔真」


「……何だよ」


「……今は、やめとけよ」


 翔真は、堂島を睨んだ。


「……は?」


 堂島は、少し怯みながら続けた。


「……お前の親父さんにも言われただろ?」


 翔真は、歯を食いしばった。


 そして、椅子へ深くもたれかかった。


「……分かってるよ」


 だが、その声には納得していない響きがあった。


     ◇ ◇ ◇


 放課後。


 怜司は、教室で帰り支度をしていた。


 今日は、特に大きな問題は起きなかった。


 翔真たちも、直接何かをしてくることはなかった。


 だが。


 ――……これで終わりじゃない。


 怜司は、そう感じていた。


 翔真の視線。


 堂島と三枝の不自然な態度。


 そして、教室の空気。


 表面上は静かになった。


 だが、その奥にはまだ何かが残っている。


 怜司は、鞄を肩にかけた。


 そのとき。


「……黒瀬君」


 背後から、声がした。


 振り返ると、教頭が立っていた。


「……教頭先生」


 怜司は、少し驚いた。


 教頭は、穏やかな表情で言った。


「少しだけ、お時間をいただけますか?」


 怜司は、少し迷った。


 だが、頷いた。


「……はい」


 教頭は、静かに続けた。


「昨日の面談を受けて、学校として調査を始めています」


 怜司は、顔を上げた。


「……本当ですか?」


「はい」


 教頭は頷いた。


「関係する生徒への聞き取りも、順次進めています」


 怜司は、少しだけ安心した。


 だが、教頭は続けた。


「ただ、一つ確認したいことがあります」


「……何ですか?」


 教頭は、少しだけ表情を引き締めた。


「今後、学校で何か気になることがあれば、すぐに知らせてください」


 怜司は頷いた。


「……はい」


「小さなことでも構いません」


 教頭は、真剣な声で続けた。


「君が安心して学校生活を送れるように、できる限り対応したいと考えています」


 その言葉に、怜司は胸が温かくなった。


「……ありがとうございます」


 教頭は、優しく微笑んだ。


「こちらこそ、話してくれてありがとう」


 怜司は、深く頭を下げた。


     ◇ ◇ ◇


 その日の夜。


 黒瀬家のリビング。


 怜司は、父の正臣へ学校での様子を話していた。


「……今日は、何もされなかった」


 正臣は、静かに頷いた。


「……そうか」


「教頭先生も、調査を始めたって言ってた」


 正臣は、少しだけ安心したような顔をした。


「それはよかった」


 だが、すぐに真剣な表情へ戻った。


「ただ、油断はしないようにな」


 怜司は頷いた。


「……うん」


「何かあれば、すぐに連絡すること」


「……分かった」


 正臣は、穏やかに微笑んだ。


「無理に一人で解決しようとしなくていい」


 怜司は、父を見つめた。


 そして、静かに頷いた。


「……ありがとう」


 正臣は、少しだけ笑った。


「親だからな」


 その言葉に、怜司も自然と笑った。


     ◇ ◇ ◇


 一方。


 鷹宮家の豪邸。


 翔真は、自室のベッドへ乱暴に腰を下ろしていた。


「……くそっ」


 スマートフォンを握りしめる。


 画面には、怜司との過去のやり取りが表示されていた。


 だが、今は何も送れない。


 父から、強く禁止されている。


 堂島や三枝にも、余計なことをするなと言われた。


 学校でも、以前のように振る舞えない。


 そのすべてが、翔真には耐え難かった。


「……黒瀬のくせに」


 低く呟く。


 今まで、自分の前では俯いていた少年。


 何を言っても、反抗できなかった少年。


 それが、今は違う。


 教師も、学校も、父親でさえも。


 以前のようには動いてくれない。


 翔真は、歯を食いしばった。


「……絶対、許さねえ」


 その声は、誰にも届かなかった。


 だが。


 彼の中で、歪んだ怒りは消えていなかった。


 むしろ、行き場を失ったことで、さらに強くなっていた。


     ◇ ◇ ◇


 同じ夜。


 怜司は、自室の机に向かっていた。


 目の前には、冒険者登録証。


 そして、異世界での出来事をまとめたノート。


 怜司は、ゆっくりとページをめくった。


 魔物との戦闘。


 エリシアとの出会い。


 バルドとの模擬戦。


 そして、冒険者登録。


 まだ、知らないことばかりだ。


 だが、次に何をするべきかは分かっている。


「……もっと、学ばないとな」


 怜司は、小さく呟いた。


 剣術。


 魔法。


 魔物の知識。


 そして、力の使い方。


 強くなるために必要なことは、山ほどある。


 怜司は、拳を握った。


「……次は、ちゃんと依頼を受けてみよう」


 Fランク冒険者。


 まだ、始まったばかりの自分。


 だが、その小さな一歩が、やがて大きな未来へつながっていく。


 そして。


 怜司は、まだ知らなかった。


 次に異世界へ向かったとき。


 自分の力に、新たな変化が訪れることを。


 それが、彼の成長をさらに加速させることになることを。


 黒瀬怜司の物語は、少しずつ新たな段階へ進もうとしていた。



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