↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
158/162

第159話 中級回復ポーションの完成

第159話 中級回復ポーションの完成


 研究施設の一角に設けられた製造試験室。


 厚いガラス越しに、怜司は新型の製造装置を見つめていた。


 装置の内部では、淡い青色の液体が静かに循環している。


 中級回復ポーション。


 下級ポーションを遥かに上回る回復効果を持つ、新たな医薬品候補だ。


 異世界ではすでに知られている薬であり、怜司自身も製法を習得している。


 しかし、日本で安定して大量製造するとなれば、話は別だった。


「魔力供給、安定しています」


 篠原が計器を確認する。


「温度、圧力ともに設定範囲内。製造工程に異常はありません」


 高瀬博士が大きく頷いた。


「よし。予定どおり試験を続けよう」


 怜司は緊張した面持ちで装置を見守っていた。


 すでに何度も試験を繰り返している。


 それでも、結果を確認する瞬間には慣れなかった。


 やがて、装置が小さな電子音を鳴らした。


「製造工程、終了しました」


 篠原が慎重に操作を進める。


 完成した液体が、滅菌された容器へと移されていく。


 その色は、透き通った淡い青。


 怜司が異世界で見た中級ポーションと、よく似ていた。


「外観は問題なさそうですね」


「うむ。だが、見た目だけでは判断できん」


 高瀬博士は研究者らしい厳しい表情を崩さなかった。


 完成した試料は、直ちに品質検査へ回された。


 成分の均一性。


 不純物の有無。


 保存時の安定性。


 製造ロットごとの再現性。


 確認すべき項目は多い。


 さらに、魔石を使った製造工程そのものについても、長期的な検証が必要だった。


「黒瀬君」


 博士が声をかける。


「君の技術が素晴らしいことは、もう十分に分かっている。だが、医薬品として世に出す以上、我々は慎重でなければならん」


「はい」


「急いで発売して、万が一にも患者さんに問題が起きれば、すべてが台無しになる」


「分かっています」


 怜司は真剣に頷いた。


「俺も、そこは絶対に妥協したくありません」


 博士は満足そうに笑った。


「よろしい。ならば、最後まで徹底的に調べよう」


     ◇


 それからさらに数週間。


 研究チームは、製造工程の改良を繰り返していた。


 ある日は、連続運転時に魔力供給の微細な揺らぎが確認された。


 別の日には、保存条件によって容器内部の状態にわずかな差が生じた。


 どちらも直ちに危険を示すものではなかったが、篠原は決して見逃さなかった。


「この程度なら問題ない、とは言いたくありません」


 篠原が言う。


「医療現場で使うものですから」


「そのとおりです」


 怜司は頷いた。


 魔力の揺らぎについては、怜司自身が魔石の充填方法を調整した。


 これまでの装置は、魔石に蓄えられた魔力を一定量ずつ取り出す仕組みだった。


 しかし、中級ポーションでは、製造工程の一部でより精密な制御が必要になる。


 怜司は魔石の配置と魔力の流れを見直した。


 その結果、装置の稼働が安定した。


「……すごいな」


 高瀬博士が感心したように呟く。


「これだけの調整を、こんな短時間で……」


「たまたま、うまくいっただけですよ」


 怜司は照れくさそうに笑った。


「いやいや、謙遜にもほどがあるぞ」


 博士は苦笑した。


 もっとも、怜司にとっては特別なことではなかった。


 《万象習得》によって得た知識。


 異世界で積み重ねた経験。


 そして、魔力そのものを扱う感覚。


 それらを組み合わせれば、装置の問題点を見つけることは難しくなかった。


 ただし、怜司はその理由を詳しく説明するつもりはなかった。


 異世界の存在だけは、絶対に知られてはならない。


     ◇


 さらに検証を重ねた末、研究チームは一つの節目を迎えた。


「……製造工程の主要な検証が完了しました」


 篠原の報告に、研究室が静まり返った。


「予定していた条件下では、安定した品質を確保できています」


 高瀬博士が資料を受け取る。


 一枚ずつ、慎重に目を通した。


 そして。


「……よし」


 博士が顔を上げる。


「中級回復ポーションの製造技術は、ひとまず完成したと言っていいだろう!」


「本当ですか!」


 怜司の声が弾んだ。


「ああ。ただし、あくまで製造技術としての完成だ。医薬品としての承認は、これからだぞ」


「もちろんです!」


 研究室に、控えめながら温かな拍手が広がった。


 誰もが、この瞬間のために努力してきた。


 怜司も胸がいっぱいになった。


 異世界で初めてポーションを見たとき。


 まさか、それを日本で製造することになるとは思ってもいなかった。


 まして、自分の会社を作り、研究者たちと一緒に新しい医薬品を開発するなど、想像すらしていなかった。


「ありがとうございます、博士。篠原さん」


 怜司が深く頭を下げる。


「何を言っとる。君がいなければ始まらなかった研究だ」


 高瀬博士が笑った。


「それに、まだ終わりではない」


 篠原も頷く。


「ここから先は、さらに長い道のりになります」


 中級ポーションは、下級ポーションよりも作用が強い。


 そのため、対象となる症状や投与方法、適切な使用条件について、より慎重な検証が必要だった。


 既存の試験データを整理し、追加の非臨床試験を行う。


 規制当局との相談を進め、必要な臨床試験の計画を立てる。


 そのうえで、有効性と安全性を確認していく。


 正式な承認が得られるまでには、相応の時間がかかる見込みだった。


「焦らずに進めましょう」


 怜司が言った。


「患者さんの命がかかっていますから」


 高瀬博士は力強く頷いた。


     ◇


 その日の夕方。


 怜司は自宅へ戻っていた。


「お兄ちゃん、おかえり!」


 玄関を開けるなり、陽菜が駆け寄ってくる。


「ただいま、陽菜」


「今日も会社?」


「うん。研究所に行ってたんだ」


「ふーん。お兄ちゃんって、本当に社長なんだねえ」


 陽菜がしみじみと言う。


「今さら?」


「だって、家にいると普通のお兄ちゃんなんだもん!」


 怜司は思わず笑った。


「普通でいいよ」


「えー。でも社長なんだから、もっと偉そうにしてもいいんじゃない?」


「それは嫌だなあ」


「じゃあ、今度アイス買って!」


「それ、社長と関係ある?」


「あるよ! 社長はお金持ちなんでしょ?」


「会社のお金と俺のお金は別だからね」


「むう。難しいこと言う!」


 頬を膨らませる陽菜。


 その様子がおかしくて、怜司は笑ってしまった。


「分かったよ。今度買ってあげる」


「やったー!」


 陽菜が嬉しそうに飛び跳ねる。


 そんな二人を見て、母の美咲が微笑んでいた。


「怜司、最近ずっと忙しいでしょう。ちゃんと休んでる?」


「大丈夫だよ、母さん」


「本当に?」


「うん。みんなが助けてくれてるから」


 美咲は少し安心したように頷いた。


「それならいいけど。無理だけはしないでね」


「ありがとう」


 夕食の席では、父の正臣も研究の進展を喜んでくれた。


「製造技術が完成したのか。それは大きな前進だな」


「うん。でも、まだ発売できるわけじゃないんだ」


「そうだろうな。医薬品は慎重に進めないといけない」


 正臣は穏やかに続けた。


「ただ、怜司。お前が何を目指しているのかは、ちゃんと伝わっているよ」


「父さん……」


「困ったことがあれば、いつでも相談しなさい」


 怜司は小さく頷いた。


「うん。ありがとう」


 家族と囲む夕食。


 いつもと変わらない会話。


 その何気ない時間が、怜司には何より大切だった。


 だからこそ、守りたい。


 会社も。


 家族も。


 大切な人たちとの未来も。


 中級回復ポーションの製造技術は完成した。


 だが、本当の勝負はこれからだった。


 医療の常識を変える第二の薬が、少しずつ現実へと近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。