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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第155話 少年社長の反撃――二つの名家が本気を出す日

 西園寺家の屋敷で起きた事件から、翌日。


 俺は、九条院家と西園寺家の当主に呼ばれ、九条院グループ本社を訪れていた。


 普段、研究施設で会うときとは違う。


 今日は、二人とも財閥の当主としての顔をしていた。


「……黒瀬君。まず、昨日の件について報告しよう」


 西園寺家の当主が、静かに口を開いた。


「はい」


 俺は、背筋を伸ばした。


 会議室には、榊原さんと両家の警備責任者も同席している。


 大型モニターに、監視カメラの映像が映し出された。


 西園寺家の屋敷。


 敷地の外側に停車する、不審な車。


 そこから降りる二人の男。


 そして、管理用の門へ近づく様子。


「……この二人が?」


 俺が尋ねると、警備責任者が頷いた。


「はい。現在、警察にも映像を提出しています」


 俺は、静かに画面を見つめた。


 男の一人が、門の設備へ手を伸ばす。


 次の瞬間。


 映像の中で、門が大きく揺れた。


 そして。


 金属製の部材が、庭側へ倒れ込んでいく。


「……っ!」


 思わず、息を呑んだ。


 その先には。


 琴音さんと麗華さんがいた。


 俺は、拳を握りしめた。


 けれど。


 次の瞬間。


 二人の周囲に、淡い光が現れた。


 透明な結界。


 倒れ込んだ部材は、二人へ触れることなく弾かれている。


「…………」


 俺は、しばらく何も言えなかった。


 分かっていた。


 魔道具が発動したことは、昨日聞いている。


 でも。


 実際の映像を見ると、胸の奥が冷たくなった。


 もし、魔道具を作っていなかったら。


 もし、二人が身につけていなかったら。


 そう考えるだけで、恐ろしくなる。


「……黒瀬君」


 西園寺家の当主が、静かに声をかけた。


「……はい」


「……改めて、礼を言わせてほしい」


 俺は、顔を上げた。


「君のおかげで、娘たちは無事だった」


 その声は、少しだけ震えていた。


「……本当に、ありがとう」


 俺は、静かに首を横に振った。


「……無事で、よかったです」


 それしか、言えなかった。


     ◇


「……さて」


 九条院家の当主が、静かに口を開いた。


「ここからは、事件への対応を考えよう」


 その瞬間。


 会議室の空気が変わった。


「まず、警察への協力を最優先する」


 警備責任者が頷いた。


「すでに被害状況と監視映像を提出しています。現場の設備も、必要な記録を残したうえで保全しています」


 榊原さんも、資料を開いた。


「今後、器物損壊や不法な侵入行為などに該当するかどうかは、具体的な事実関係に基づいて判断されます」


 俺は、静かに頷いた。


 感情だけで、相手を責めるわけにはいかない。


 何が起きたのか。


 誰が関わっているのか。


 そして、どんな目的だったのか。


 それらを、きちんと確認する必要がある。


「……黒瀬君」


 九条院家の当主が、俺を見つめた。


「君は、どうしたい?」


 俺は、少しだけ考えた。


 昨日、琴音さんが泣いていた。


 麗華さんも、震えていた。


 その姿が、頭から離れない。


「……俺は」


 俺は、ゆっくり口を開いた。


「……もう、誰にも危険な目に遭ってほしくありません」


 当主は、静かに頷いた。


「……ああ」


「だから、今回のことは、きちんと調べてほしいです」


 俺は続けた。


「もし、誰かが意図的にやったのなら、責任を取ってもらいたい」


 そして。


「……でも、俺が勝手に何かするつもりはありません」


 その言葉に、九条院家の当主が微笑んだ。


「……それでいい」


 西園寺家の当主も頷いた。


「君は、研究と会社のことに集中してくれ」


 俺は、少し驚いた。


「……でも」


「……黒瀬君」


 当主は、静かに首を横に振った。


「娘たちを守ってくれた君に、これ以上すべてを背負わせるつもりはない」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


「……ありがとうございます」


     ◇


 その後。


 会議では、具体的な対策が決められた。


 研究施設の警備強化。


 重要な製造設備へのアクセス制限。


 研究員への不審な接触に関する相談窓口の設置。


 そして、家族の安全確保。


 九条院家と西園寺家は、それぞれの警備部門を連携させることになった。


「……黒瀬君」


 榊原さんが、静かに口を開いた。


「もう一つ、重要なことがあります」


「……何でしょう?」


「今後、ルミナス・ライフの技術を狙う者が、直接君へ接触してくる可能性があります」


 俺は、静かに頷いた。


「……はい」


「その場合、相手がどれほど魅力的な条件を提示してきても、その場で判断しないでください」


「……分かりました」


「必ず、私たちへ相談してください」


 俺は、はっきり頷いた。


「……お願いします」


 その言葉に、榊原さんが穏やかに微笑んだ。


「もちろんです」


     ◇


 会議が終わったあと。


 俺は、九条院家の当主と二人で廊下を歩いていた。


「……黒瀬君」


「はい?」


「……怖くはないかい?」


 突然の質問だった。


 俺は、少しだけ考えた。


「……怖いです」


 正直に答えた。


 当主が、静かに俺を見つめる。


「……自分が狙われることよりも」


 俺は、ゆっくり続けた。


「……家族や、大切な人たちが危険な目に遭うことが怖いです」


 その言葉に、当主は静かに頷いた。


「……そうだろうね」


 俺は、少しだけ笑った。


「でも、だからって研究をやめたくはありません」


「……ほう?」


「この薬を必要としている人たちが、たくさんいますから」


 俺は、まっすぐ前を見た。


「……だから、続けたいです」


 九条院家の当主は、しばらく黙っていた。


 そして。


「……黒瀬君」


 静かに微笑んだ。


「君は、もう立派な経営者だね」


 俺は、思わず苦笑した。


「……まだまだですよ」


「……いや」


 当主は、首を横に振った。


「大切なものを守りながら、進むべき道を見失わない。それは、簡単なことではない」


 その言葉に、胸が温かくなった。


「……ありがとうございます」


     ◇


 同じ日の夕方。


 西園寺家の屋敷。


 麗華さんは、自室でブレスレットを見つめていた。


 昨日、俺が魔力を補充したものだ。


 淡い青色の結晶が、静かに輝いている。


「……黒瀬さん……」


 彼女は、小さく呟いた。


 あの瞬間。


 倒れ込んできた金属の部材。


 琴音さんを庇おうとした自分。


 そして、突然現れた透明な結界。


 今でも、鮮明に覚えている。


 怖かった。


 本当に、怖かった。


 でも。


 守られた。


 俺が、以前から用意してくれていたものに。


「……あなたは、どこまで……」


 麗華さんは、静かに微笑んだ。


 そのとき。


 コンコン。


 扉がノックされた。


「……お姉様?」


「……琴音?」


 琴音さんが、顔を覗かせた。


「……入ってもいいですか?」


「もちろんですわ」


 琴音さんは、部屋へ入ると、麗華さんの隣へ座った。


 そして、胸元のペンダントを握った。


「……お姉様」


「……何ですの?」


「……私、昨日すごく怖かったです」


 麗華さんは、静かに頷いた。


「……ええ。私もですわ」


 琴音さんは、少しだけ俯いた。


「……でも、怜司さんが守ってくれたんですよね」


「……そうですわね」


 麗華さんは、妹の頭を優しく撫でた。


「……本当に、感謝しなければなりませんわ」


 琴音さんは、ゆっくり頷いた。


 そして、少しだけ笑った。


「……私、もっと勉強します」


 麗華さんが、驚いたように顔を上げた。


「……琴音?」


「……いつか、怜司さんみたいに誰かを助けられる人になりたいから」


 その言葉に、麗華さんの表情が柔らかくなった。


「……ええ」


 そして、静かに微笑んだ。


「……応援していますわ」


     ◇


 一方。


 都内の警察署。


 捜査員たちは、提出された映像と車両情報を照合していた。


「……この車、登録情報が確認できました」


 若い捜査員が、資料を差し出す。


「……所有者は?」


「民間の調査会社です」


 年配の捜査員が、眉を寄せた。


「……調査会社?」


「はい。代表者は、葛城慎吾」


 その名前が、記録に書き込まれた。


 さらに、別の資料が提出される。


「……最近、医薬品関連企業との取引が増えているようです」


 年配の捜査員は、静かに頷いた。


「……分かった。まずは、本人から事情を聞こう」


 捜査は、少しずつ進み始めていた。


     ◇


 その夜。


 東邦メディカルホールディングス本社。


 御堂隆臣のもとへ、一通の報告が届いた。


『西園寺家敷地周辺における不審事案』


 御堂は、資料を見つめた。


「……何だ、これは」


 その声は、低かった。


 秘書が、慎重に答える。


「……詳細は、まだ確認中です」


 御堂は、ゆっくり眉を寄せた。


「……我が社とは関係ないだろうな?」


 秘書は、すぐには答えられなかった。


 その沈黙に、御堂の表情が険しくなる。


「……確認しろ」


「……承知しました」


 秘書が退出すると、御堂は窓の外を見つめた。


 巨大な企業。


 数万人の社員。


 長年かけて築き上げた地位。


 それらを守るために、彼は何度も厳しい判断をしてきた。


 だが。


 今回の件は、何かが違う。


 そんな予感が、胸の奥に広がっていた。


     ◇


 同じ頃。


 俺は、自室で研究ノートを開いていた。


 机の上には、魔石式製造装置の改良案。


 そして、護身用魔道具の新しい設計図。


 大切な人を守るための力。


 誰かの命を救うための薬。


 その両方を、これからも大切にしたい。


「……よし」


 俺は、静かにペンを置いた。


 今回の事件で、改めて分かったことがある。


 どれほど強い力を持っていても、一人ですべてを守れるわけじゃない。


 九条院家。


 西園寺家。


 父さんと母さん。


 研究者の皆さん。


 そして、俺を信じてくれる人たち。


 その存在が、何より心強かった。


「……俺も、もっと頑張らないとな」


 窓の外には、静かな夜空が広がっている。


 回復ポーションは、今も多くの人々へ届けられている。


 その一方で。


 技術を奪おうとする者たちの存在が、少しずつ明らかになり始めていた。


 そして。


 今回の事件は、まだ始まりにすぎなかった。


 九条院家と西園寺家。


 二つの名家が、本気で動き始めた今。


 巨大製薬企業との対立は、やがて誰も予想しなかった方向へ進んでいくことになる。


 俺は、まだ知らなかった。


 その争いが、ルミナス・ライフの未来だけでなく。


 日本の医薬品業界そのものを、大きく変えることになるということを。

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