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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第145話 守る力と救う力――少女が見つけた新しい夢

 護身用魔道具を九条院家と西園寺家へ渡してから、数日が経った。


 俺の日常は、相変わらず忙しい。


 学校では授業を受け、放課後には研究資料を確認する。


 休日には、ルミナス・ライフの研究施設へ顔を出すことも増えてきた。


 けれど、以前と違うことが一つあった。


 魔力の秘密を知る人たちが、少しずつ俺の負担を減らそうとしてくれていることだ。


 九条院家と西園寺家の当主は、研究施設の運営や専門家との調整を引き受けてくれている。


 父さんと母さんも、俺が無理をしていないか気にかけてくれる。


 そして。


 澪さんと麗華さんは、学校で会うたびに、さりげなく俺の体調を確認してくれるようになった。


「……レイジさん。最近、ちゃんと眠れていますか?」


 昼休み。


 澪さんが、少し心配そうに尋ねてきた。


「はい。大丈夫ですよ」


 俺が答えると、澪さんは柔らかく微笑んだ。


「……それなら、よかったです」


 その隣で、麗華さんが小さく頷いた。


「黒瀬さん。研究に夢中になるのはよろしいですけれど、休息も大切ですわ」


「……はい。気をつけます」


 俺は、思わず苦笑した。


 すると、麗華さんが少しだけ悪戯っぽく微笑む。


「……それに、あまり忙しくなりすぎると、私との約束が後回しになってしまいますもの」


「……書店イベントのことですか?」


「ええ」


 麗華さんは、嬉しそうに笑った。


「忘れていませんわよね?」


「もちろんです」


 俺が即答すると、麗華さんの表情が柔らかくなった。


 澪さんも、くすりと笑う。


「……私との美術展も、楽しみにしていますね」


「はい。俺も楽しみです」


 その言葉に、二人は顔を見合わせた。


 そして、少しだけ頬を赤くしながら微笑んだ。


 ……何だか、こういう時間があると落ち着くな。


 俺は、自然と笑顔になった。


     ◇


 その日の放課後。


 俺は、研究施設へ向かっていた。


 今日は、高瀬博士と篠原さんから、下級回復ポーションの分析について報告を受ける予定だ。


 施設へ到着すると、二人が会議室で待っていた。


「黒瀬君。お疲れさまです」


「お疲れさまです」


 俺は、席へ腰を下ろした。


 高瀬博士が、資料を開く。


「まず、現在の分析結果についてですが」


 俺は、真剣に聞き始めた。


 試作品の成分。


 保存状態による変化。


 製造工程のばらつき。


 そして、今後必要になる評価項目。


 まだ、分からないことは多い。


 けれど、少しずつ研究は進んでいる。


「……黒瀬君」


 篠原さんが、静かに口を開いた。


「製造装置について、一つ確認したいことがあります」


「はい」


「以前から気になっていたのですが、装置の中心部にある特殊な結晶について、もう少し詳しく説明していただくことはできますか?」


 俺は、少しだけ考えた。


 魔石。


 魔力を蓄える特殊な素材。


 その存在を、いつまでも隠して研究を進めるわけにはいかない。


 けれど、説明する範囲や方法については、まだ両家と調整中だ。


「……その件については、近いうちに正式な説明の場を設けたいと思っています」


 俺は、静かに答えた。


「ただ、今まで知られていなかった技術なので、慎重に進めたいんです」


 篠原さんは、少し驚いたように顔を上げた。


 そして、ゆっくり頷いた。


「……分かりました」


 高瀬博士も頷く。


「研究に必要な情報が共有されるなら、我々としてもありがたいです」


「……ありがとうございます」


 俺は、少し安心した。


 焦る必要はない。


 でも、研究を進めるためには、いつか説明しなければならない。


 そのことは、忘れないようにしよう。


     ◇


 研究施設を出たあと。


 俺のスマートフォンに、一通のメッセージが届いた。


 麗華さんからだった。


『黒瀬さん。今週末、少しお時間をいただけませんか?』


 俺は、少し首を傾げた。


『大丈夫ですよ。何かありましたか?』


 すると、すぐに返事が届いた。


『琴音が、どうしても黒瀬さんにお会いしたいそうなんです』


 ……琴音さんが?


 俺は、少し驚いた。


『分かりました。では、土曜日に伺ってもいいですか?』


『もちろんですわ。琴音も喜びます』


 俺は、自然と笑顔になった。


 どうやら、また西園寺家へお邪魔することになりそうだ。


     ◇


 土曜日。


 西園寺家の屋敷を訪れると、琴音さんが玄関まで迎えに来てくれた。


「怜司さーん!」


「こんにちは、琴音さん」


「こんにちは!」


 琴音さんは、満面の笑顔だった。


 胸元には、先日渡したペンダントが輝いている。


「……ちゃんと、つけてくれてるんですね」


 俺が言うと、琴音さんは嬉しそうに頷いた。


「もちろんです!」


 そして、ペンダントをそっと握った。


「……これ、すっごく大切にしてるんです」


 その言葉に、胸が温かくなった。


「……ありがとうございます」


 すると、麗華さんが近づいてきた。


「黒瀬さん。いらっしゃいませ」


「こんにちは、麗華さん」


「琴音ったら、朝からずっと落ち着きませんでしたのよ」


「お姉様!」


 琴音さんが、慌てて声を上げた。


「そんなこと言わなくてもいいじゃん!」


 麗華さんが、楽しそうに微笑む。


「ふふ。事実でしょう?」


「もう!」


 そのやり取りに、俺は思わず笑った。


     ◇


 応接室へ案内されると、琴音さんが少しだけ真剣な表情になった。


「……怜司さん」


「はい?」


「……今日は、聞いてほしいことがあるんです」


 俺は、静かに頷いた。


「……何でしょう?」


 琴音さんは、胸元のペンダントをそっと握った。


 そして、ゆっくり口を開いた。


「……私、事故に遭ったときのこと、全部は覚えてないんです」


 俺は、何も言わずに聞いていた。


「……でも、目が覚めたとき、お父様もお母様も、お姉様も泣いていて……」


 琴音さんの声が、少しだけ震えた。


「……私、すごく怖くなったんです」


 麗華さんが、静かに妹を見つめた。


「……琴音」


「……私、もう家族にあんな思いをさせたくない」


 琴音さんは、ゆっくり顔を上げた。


「……それに」


 俺を、まっすぐ見つめる。


「……怜司さんが、私を助けてくれたって聞いて……」


 その目には、涙が浮かんでいた。


「……私も、誰かを助けられる人になりたいって思ったんです」


 俺は、少し驚いた。


「……琴音さん」


 彼女は、ゆっくり続けた。


「……今までは、将来何になりたいか、あんまり考えてなかったんです」


 そして、少しだけ笑う。


「……でも、今回のことで、命って本当に大切なんだって分かりました」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


「……だから」


 琴音さんは、まっすぐ俺を見つめた。


「……私、将来は人を助ける仕事がしたいです」


 麗華さんが、驚いたように目を見開いた。


「……琴音」


 琴音さんは、少し照れくさそうに笑った。


「……まだ、何になるかは決めてないけど」


 そして。


「……でも、誰かの役に立てる人になりたいんです」


 俺は、静かに頷いた。


「……素敵な夢ですね」


 その言葉に、琴音さんの表情がぱっと明るくなった。


「……ほんとですか!?」


「はい」


 俺は、はっきり答えた。


「きっと、琴音さんならなれますよ」


 琴音さんは、嬉しそうに笑った。


「……ありがとうございます!」


     ◇


「……黒瀬さん」


 麗華さんが、静かに口を開いた。


「……琴音が、こんなことを言い出したのは初めてですわ」


「……そうなんですか?」


「ええ」


 麗華さんは、妹を見つめながら微笑んだ。


「……今までは、将来の話をしても、まだ分からないとばかり言っていましたの」


「お姉様!」


 琴音さんが、少し照れくさそうに声を上げた。


 麗華さんは、柔らかく微笑んだ。


「……でも、嬉しいですわ」


 その言葉に、琴音さんが静かに顔を上げた。


「……お姉様」


「……あなたが、自分の未来を考え始めたことが」


 麗華さんは、妹の頭を優しく撫でた。


「……とても、嬉しいです」


 琴音さんの目が、少し潤んだ。


「……ありがとう、お姉様」


 その光景を見ていると、胸が温かくなった。


 俺が作った薬は、琴音さんの命を救った。


 けれど。


 それだけじゃなかった。


 彼女が、自分の未来を考えるきっかけにもなった。


 そのことが、何より嬉しかった。


     ◇


 しばらくして。


 琴音さんが、少しだけ悪戯っぽく笑った。


「……ところで、怜司さん!」


「はい?」


「……お姉様のブレスレット、すっごく大切にしてるんですよ!」


「……琴音!?」


 麗華さんが、慌てて声を上げた。


 琴音さんは、楽しそうに続ける。


「毎日つけてるし、寝る前にもちゃんと確認してるんです!」


「……それは、安全のためですわ!」


 麗華さんの頬が、真っ赤になった。


 俺は、少しだけ笑った。


「……大切にしてもらえて、嬉しいです」


 その言葉に、麗華さんが、さらに赤くなる。


「……く、黒瀬さん……」


 琴音さんは、満面の笑顔だった。


「……えへへ!」


 その様子に、俺も思わず笑ってしまった。


     ◇


 帰り際。


 麗華さんが、玄関まで見送ってくれた。


「……黒瀬さん」


「はい?」


「……今日は、ありがとうございました」


「……いえ。こちらこそ」


 麗華さんは、少しだけ俯いた。


 そして、ゆっくり顔を上げる。


「……琴音が、あんなふうに将来の夢を話してくれるなんて……」


 その声は、少し震えていた。


「……本当に、嬉しかったんです」


 俺は、静かに頷いた。


「……俺もです」


 麗華さんは、柔らかく微笑んだ。


「……黒瀬さん」


「はい」


「……あなたは、命を救うだけじゃなくて、人の未来まで変えてしまうんですのね」


 その言葉に、俺は少し驚いた。


「……そんな、大げさですよ」


「……いいえ」


 麗華さんは、静かに首を横に振った。


「……私は、そう思いますわ」


 そして、少しだけ微笑む。


「……だから、これからも応援させてくださいませ」


 俺は、ゆっくり頷いた。


「……ありがとうございます、麗華さん」


 その言葉に、麗華さんの表情が柔らかくなった。


     ◇


 帰宅後。


 俺は、自室の机に向かっていた。


 目の前には、回復ポーションの研究資料。


 そして、護身用魔道具の設計図。


 救う力。


 守る力。


 どちらも、大切なものだ。


 怪我をした人を治すこと。


 危険から人を守ること。


 そして。


 その人が、未来へ向かって歩いていけるようにすること。


「……そうか」


 俺は、小さく呟いた。


 俺が本当にやりたいことは、きっとそれなんだ。


 ただ、お金を稼ぐことだけじゃない。


 ただ、強い力を手に入れることだけでもない。


 大切な人たちが、安心して笑っていられる世界。


 そんな未来を作りたい。


 もちろん、会社を成功させて、自分自身の自由も手に入れたい。


 家族と過ごす時間。


 友達と笑い合う時間。


 そして、いつか大切な人たちと一緒に歩く未来。


 そのすべてを、大事にしたかった。


 俺は、静かにノートを開いた。


 そこには、これからの目標が書かれている。


 回復ポーションの研究。


 魔石式製造機の改良。


 護身用魔道具の安全性向上。


 そして、誰でも魔法を使える装置の開発。


 やるべきことは、まだまだ多い。


 けれど。


 今の俺には、不思議と迷いがなかった。


 大切な人を守りたい。


 誰かの命を救いたい。


 そして、自分自身も幸せになりたい。


 その願いを胸に。


 俺は、静かにペンを走らせた。


 窓の外には、満天の星が輝いている。


 まだ見ぬ未来へ向かって。


 俺の物語は、少しずつ進んでいく。


 そして。


 その未来には、きっと。


 今よりも、もっとたくさんの笑顔が待っている。


 俺は、そう信じていた。

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