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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第143話 二つの名家への贈り物――あなたたちを失いたくないから

 九条院家と西園寺家の皆さんへ渡す、七つの小箱。


 俺は、それらを一つずつ鞄へ収めた。


 中身は、護身用の魔石アクセサリー。


 先日、父さんたちへ渡したものと同じ防御魔法が込められている。


 ただし、見た目は一つずつ違う。


 それぞれの人に似合うものを考えて作ったからだ。


「……気に入ってもらえるといいな」


 俺は、少しだけ笑った。


 もちろん、目的は見た目じゃない。


 大切なのは、皆さんの身を守ること。


 それでも、毎日身につけてもらうなら、できるだけ気に入ってもらえるものがいい。


 俺は鞄を肩にかけ、家を出た。


     ◇


 今回の訪問先は、九条院家の屋敷だった。


 俺の希望で、西園寺家の皆さんにも来ていただいている。


 魔力の秘密を共有した二つの家族へ、まとめて説明したかったからだ。


「レイジさん。いらっしゃいませ」


 玄関で迎えてくれた澪さんが、柔らかく微笑んだ。


「こんにちは、澪さん」


「今日は、皆さんへお渡ししたいものがあると伺いました」


「はい。ちょっとしたものなんですが」


 すると、澪さんが首を傾げた。


「……ちょっとしたもの、ですか?」


 俺は、少しだけ苦笑した。


「……説明を聞いたら、驚くかもしれません」


「ふふ。また、ですか?」


 澪さんが楽しそうに笑った。


「レイジさんには、驚かされてばかりですね」


 ……確かに。


 最近は、驚かせてばかりかもしれない。


 応接室へ向かうと、すでに西園寺家の皆さんも到着していた。


「黒瀬さん。お待ちしておりましたわ」


「こんにちは、麗華さん」


 麗華さんが、上品な笑顔で迎えてくれる。


 その隣では、琴音さんが目を輝かせていた。


「怜司さん!」


「こんにちは、琴音さん」


「今日は何を見せてくれるんですか!?」


 俺は、思わず笑った。


「……まだ何も言ってませんよ?」


「だって、怜司さんが皆を集めるときって、絶対すごいことが起きるんですもん!」


 その言葉に、麗華さんが苦笑した。


「琴音。失礼ですわよ」


「えー? でも、お姉様も気になってるでしょ?」


「そ、それは……」


 麗華さんが、少しだけ言葉に詰まった。


 澪さんが、くすりと笑う。


 ……何だか、和やかな雰囲気だな。


 俺は、少し安心した。


     ◇


 全員が席に着くと、俺は鞄から七つの小箱を取り出した。


「……今日は、皆さんにこれを受け取っていただきたくて」


 九条院家の当主が、興味深そうに顔を上げた。


「……これは?」


「護身用の魔道具です」


 その瞬間。


 室内の空気が変わった。


「……魔道具?」


 西園寺家の当主が、ゆっくり繰り返す。


「はい」


 俺は頷いた。


「小さな魔石に、防御魔法を込めてあります」


 そして、箱を一つずつ配り始めた。


 九条院家の当主には、落ち着いた黒銀色のブレスレット。


 奥様には、淡い青色の結晶が輝く上品なペンダント。


 澪さんには、小さな花を模した銀細工のペンダント。


 西園寺家の当主には、重厚感のある腕時計型の装飾品。


 奥様には、繊細な金細工のブレスレット。


 麗華さんには、細い銀のチェーンと青い魔石を組み合わせたブレスレット。


 そして、琴音さんには。


「……琴音さん。こちらを」


 俺は、小さな白い箱を差し出した。


「……私にも!?」


「もちろんです」


 琴音さんが、勢いよく蓋を開けた。


「……わあっ!」


 中には、小さな花形のペンダントが入っていた。


 中央には、淡い青色の魔石。


 光の角度によって、きらきらと輝いて見える。


「……可愛い!」


 琴音さんは、目を輝かせた。


「怜司さん! これ、本当に私に!?」


「はい。琴音さんに似合うと思って」


「……嬉しい!」


 その笑顔を見て、俺も自然と笑った。


 すると、麗華さんが自分のブレスレットを見つめながら、小さく呟いた。


「……黒瀬さん」


「はい?」


「……これ、あなたが選んでくださったんですの?」


「はい。デザインも自分で考えました」


 その瞬間。


 麗華さんの頬が、ほんのり赤くなった。


「……そ、そうですの」


 澪さんも、ペンダントを胸元へ当てていた。


「……レイジさん。とても綺麗です」


「気に入ってもらえましたか?」


「はい。とても」


 澪さんは、柔らかく微笑んだ。


「……大切にしますね」


 俺は、少し照れくさくなった。


「……ありがとうございます」


     ◇


「……さて、黒瀬君」


 九条院家の当主が、静かに口を開いた。


「このアクセサリーには、どのような魔法が込められているんだい?」


「……はい」


 俺は、少しだけ真剣な表情になった。


「持ち主へ危険が迫ったとき、自動で結界を張る魔法です」


 西園寺家の当主が、眉を上げた。


「……自動で?」


「はい」


 俺は頷いた。


「悪意を持って攻撃された場合や、命に関わるような事故を感知した場合に発動します」


 その言葉に、琴音さんの表情が変わった。


「……事故も、ですか?」


「はい」


 俺は、静かに答えた。


「交通事故のような危険にも、対応できるようにしてあります」


 琴音さんが、胸元のペンダントを見つめた。


 その隣で、麗華さんが静かに息を呑む。


「……黒瀬さん」


「はい」


「……もしかして、琴音の事故が……」


 俺は、ゆっくり頷いた。


「……きっかけです」


 室内が静かになった。


「……あのとき、上級ポーションが間に合ったから、琴音さんは助かりました」


 俺は、静かに続けた。


「でも、もし間に合わなかったらって考えると……」


 言葉が、少しだけ詰まった。


「……怖かったんです」


 西園寺家の奥様が、そっと琴音さんの肩へ手を置いた。


「……だから」


 俺は、全員を見渡した。


「今度は、怪我をする前に守れるものを作りたかったんです」


 誰も、何も言わなかった。


「……それに」


 俺は、ゆっくり続けた。


「皆さんには、魔力の秘密を共有していただきました」


 九条院家の当主が、静かに頷く。


「……ああ」


「そのことで、今後、危険に巻き込まれる可能性があるかもしれません」


 俺は、まっすぐ全員を見つめた。


「……皆さんに秘密を話したのは、俺の意思です」


 そして。


「だから、そのことで皆さんが危険な目に遭うのは、絶対に嫌なんです」


 その言葉に、澪さんの目が大きく開いた。


 麗華さんも、静かに俺を見つめている。


「……だから、受け取ってください」


 俺は、少しだけ笑った。


「俺がそばにいないときでも、皆さんを守れるように」


 長い沈黙が流れた。


 やがて。


「……黒瀬君」


 九条院家の当主が、静かに口を開いた。


「……君は、本当に……」


 その声は、少し震えていた。


「……そこまで考えてくれていたんだね」


「……はい」


 俺は頷いた。


 西園寺家の当主も、ゆっくり目を閉じた。


「……ありがとう」


 そして、深く頭を下げた。


「……本当に、ありがとう」


 俺は、慌てて首を横に振った。


「そんな、頭を上げてください」


 けれど、当主は穏やかに笑った。


「……いや。これは、父親としての感謝だよ」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


     ◇


「……怜司さん」


 琴音さんが、小さく声をかけた。


「……はい?」


 彼女は、ペンダントを両手で包み込んでいた。


「……これがあれば、あのときの事故でも……」


 俺は、静かに頷いた。


「模擬試験では、大型車両の衝突に相当する衝撃も防げました」


 琴音さんの目が、少し潤んだ。


「……そっか」


 そして、ゆっくり微笑んだ。


「……じゃあ、もうお父様やお母様、お姉様を心配させなくて済むかもしれないんですね」


 その言葉に、麗華さんがそっと妹を抱き寄せた。


「……琴音」


「……お姉様」


 琴音さんは、少し照れくさそうに笑った。


 けれど、その目には涙が浮かんでいた。


「……怜司さん。本当にありがとうございます」


 俺は、静かに頷いた。


「……どういたしまして」


     ◇


 その後、俺は魔道具の注意点を説明した。


 結界は自動で発動すること。


 銃弾や爆発、大型車両との衝突に相当する危険にも耐えられるよう設計してあること。


 ただし、魔力には限りがあること。


 そして、結界が発動した場合は、必ず俺へ連絡してほしいこと。


「……魔力の補充が必要なんだね」


 九条院家の当主が確認する。


「はい」


 俺は頷いた。


「使用後は、必ず点検と再充填をしたいんです」


 西園寺家の当主も頷いた。


「……分かった。家族全員へ徹底しておこう」


「ありがとうございます」


 俺は、少し安心した。


 最後に、もう一つだけ伝えた。


「……それと、魔道具があるからって、危険なことをしていいわけではありません」


 その言葉に、琴音さんが小さく笑った。


「……分かってます!」


 麗華さんが、すかさず口を開く。


「琴音。あなたが一番気をつけるんですのよ」


「もう! お姉様!」


 部屋に、笑い声が広がった。


     ◇


 帰り際。


 澪さんと麗華さんが、玄関まで見送ってくれた。


「……レイジさん」


 澪さんが、静かに口を開いた。


「……今日は、本当にありがとうございました」


「……いえ」


「……私たちのことを、そこまで大切に考えてくださって……」


 その声が、少しだけ震えた。


「……とても、嬉しかったです」


 俺は、少し照れくさくなった。


「……俺も、皆さんが元気でいてくれたら嬉しいです」


 すると、麗華さんが、柔らかく微笑んだ。


「……黒瀬さん」


「はい?」


「……あなたは、本当にずるい方ですわね」


「……え?」


 俺が首を傾げると、麗華さんは少しだけ頬を赤くした。


「……何でもありませんわ」


 澪さんが、くすりと笑う。


「……ふふ。麗華さん」


「……澪さん!」


 二人のやり取りに、俺は思わず苦笑した。


 けれど。


 その笑顔を見ていると、胸の奥が温かくなった。


 守りたい人たちが、こうして笑っている。


 そのことが、何より嬉しかった。


 俺は、静かに頭を下げた。


「……それじゃあ、また学校で」


「はい。レイジさん」


「ええ。黒瀬さん」


 屋敷を後にしながら、俺は空を見上げた。


 夕暮れの空が、柔らかく染まっている。


 小さな魔石。


 その中には、俺の願いが込められている。


 どうか、皆が無事でありますように。


 明日も、笑っていられますように。


 そんな願いを胸に。


 俺は、ゆっくり帰路についた。

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