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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第14話 元Aランクの実力――力と技術の差

 ――ガキィンッ!


 乾いた衝突音が、冒険者ギルドの訓練場に響き渡った。


 黒瀬怜司の握る木剣と、ギルド長バルド・グランツの木剣。


 二本の剣が、真正面からぶつかり合っている。


「……ほう」


 バルドは、目の前の少年を見つめた。


 十五歳。


 冒険者登録に訪れたばかりの新人。


 体格こそ大きいが、戦士らしい筋肉のつき方ではない。


 剣を握る手にも、長年の鍛錬でできる硬い皮膚は見当たらなかった。


 それなのに。


 ――重い。


 バルドは、心の中で舌を巻いていた。


 自分の一撃を、真正面から受け止めている。


 しかも、少年の足は一歩も動いていない。


 木剣を握る腕にも、ほとんど震えがなかった。


「……小僧」


 バルドが低く笑う。


「お前、本当に剣を習ったことがないのか?」


「……はい」


 怜司は必死に答えた。


「ほとんど、初めてです」


「……そうか」


 バルドの口元が、ゆっくりと吊り上がる。


「なら、少し試させてもらうぞ」


 その瞬間。


 バルドの身体が、ふっと軽くなったように見えた。


 次の一撃が来る。


 そう思った怜司は、木剣を握り直した。


 だが。


 ――ガッ!


「……っ!?」


 突然、左肩に衝撃が走った。


 バルドの木剣が、いつの間にか怜司の肩へ触れていた。


「……一本」


 バルドが静かに言う。


 怜司は、呆然とした。


 ――……今、何が起きた?


 真正面にいたはずのバルド。


 その剣が、いつの間にか自分の防御をすり抜けていた。


 痛みはほとんどない。


 だが、もしこれが本物の剣だったなら。


 そう考えた瞬間、背筋が冷たくなった。


「……分からなかったか?」


 バルドが尋ねる。


 怜司は、悔しそうに頷いた。


「……はい」


「なら、もう一度だ」


 バルドは木剣を構え直した。


「今度は、よく見ておけ」


     ◇ ◇ ◇


 訓練場を囲む冒険者たちは、先ほどまでの笑い声を失っていた。


「……おい」


 一人の男が、隣の冒険者へ声をかける。


「……あの新人、何者だ?」


「……知らねえよ」


 男は首を横に振った。


「でも、ギルド長の一撃を正面から止めたぞ」


「……ああ」


 周囲の視線が、怜司へ集まる。


 その中には、先ほど怜司を笑っていた大柄な冒険者もいた。


 男は腕を組んだまま、険しい表情で模擬戦を見つめている。


 自分なら、ギルド長の一撃を受け止められるだろうか。


 そう考えた瞬間、背筋に冷たいものが走った。


 バルド・グランツ。


 かつてAランク冒険者として名を馳せた男。


 今はギルド長という立場にあるが、その実力は衰えていない。


 むしろ、経験を重ねたことで、技術はさらに洗練されている。


 そんな男が。


 今、十五歳の新人を相手に、楽しそうに笑っている。


「……面白くなってきたな」


 誰かが、小さく呟いた。


     ◇ ◇ ◇


「……行くぞ」


 バルドの声が響いた。


 怜司は、木剣を握り直した。


「……はい!」


 次の瞬間。


 バルドが踏み込んだ。


 ――速い。


 怜司は、相手の動きを目で追った。


 木剣が右から来る。


 そう判断し、防御のために剣を動かす。


 だが。


 ――スッ。


 バルドの剣が、途中で軌道を変えた。


「……っ!?」


 怜司は慌てて身体をひねる。


 ――ガッ!


 今度は、脇腹へ軽い衝撃。


「……二本目」


 バルドが笑った。


 怜司は、思わず息を吐いた。


 ――……全然、見えてない。


 いや。


 正確には、見えている。


 相手の動き自体は、十分に追えている。


 だが、その意味が分からない。


 剣の角度。


 足の位置。


 重心の移動。


 どれが本当の攻撃で、どれが誘いなのか。


 判断できない。


 ――身体能力だけじゃ、勝てない。


 怜司は、初めてそれを実感していた。


 レベルが上がり、筋力も敏捷も大きく向上した。


 普通の人間なら、簡単に追いつけない速度で動ける。


 だが、それだけでは足りない。


 バルドは、怜司の力を利用していた。


 受け止めると見せかけて、力を逃がす。


 打ち込むと見せかけて、別の場所を狙う。


 ほんの少しの動きで、こちらの防御を崩してくる。


 その技術の差は、想像以上だった。


「……どうした、小僧」


 バルドが声をかける。


「もう終わりか?」


 怜司は首を横に振った。


「……まだ、お願いします」


 バルドは、少しだけ目を細めた。


「……いい目だ」


 そして、再び木剣を構えた。


     ◇ ◇ ◇


 怜司は、深く息を吸った。


 ――落ち着け。


 力任せに振るな。


 相手の動きを見る。


 足の位置を見る。


 重心を見る。


 そして。


 ――何をしようとしているのか、考える。


 その瞬間。


 視界の端に、半透明の文字が浮かんだ。


【神級権能《万象習得》】


【戦闘動作の解析を開始】


【剣術の習熟が進行しています】


【観察能力の習熟が進行しています】


 怜司は、心の中で小さく頷いた。


 ――やっぱり。


 この能力は、実際に経験することで成長する。


 見ているだけではない。


 考え、試し、失敗する。


 その繰り返しが、習得を加速させている。


 怜司は、木剣を構え直した。


「……もう一度、お願いします」


 バルドはにやりと笑った。


「……来い」


 怜司は、地面を蹴った。


 ――ドンッ!


 今度は、自分から踏み込む。


 だが、全力ではない。


 身体能力を抑え、相手の反応を見る。


 木剣を右上から振り下ろす。


 バルドが軽く受け流した。


 その瞬間。


 怜司は、無理に押し込まなかった。


 ――ここだ。


 剣を引き戻し、すぐに次の一撃へつなげる。


 バルドの眉が動いた。


「……ほう」


 怜司の剣が、横から迫る。


 バルドは一歩下がった。


 そして、木剣を軽く合わせる。


 ――カンッ!


 乾いた音が響いた。


 怜司は、さらに踏み込んだ。


 ――もう一回。


 今度は、足元を狙う。


 バルドは軽く跳び退いた。


 そして、笑った。


「……なるほど」


 その声には、明らかな感心が含まれていた。


「……学ぶのが早いな」


 怜司は息を整えながら答えた。


「……まだ、全然です」


「いや」


 バルドは首を横に振った。


「今の三手だけでも、最初とは別人だ」


 怜司は、少しだけ驚いた。


 確かに、先ほどより相手の動きが分かる。


 だが、それでも。


 ――まだ、勝てる気がしない。


 バルドの構えには、余裕がある。


 自分の動きを見ながら、次の手を考えている。


 その差は、まだ大きかった。


     ◇ ◇ ◇


「……小僧」


 バルドが声をかけた。


「一つ、教えてやろう」


「……はい」


「剣は、腕だけで振るものじゃない」


 バルドは、ゆっくりと木剣を構えた。


「足で地面を踏み、腰を回し、その力を腕へ伝える」


 そして、軽く剣を振った。


 ――ヒュンッ。


 空気を切る音が響く。


「力を無理に込める必要はない。身体全体を使えば、自然と剣は走る」


 怜司は、じっと見つめた。


 足。


 腰。


 肩。


 腕。


 そのすべてが、滑らかにつながっている。


 無駄がない。


 まるで、一つの動作として完成されていた。


「……やってみろ」


 バルドが言った。


 怜司は頷いた。


「……はい」


 足を開く。


 腰を落とす。


 そして、ゆっくりと木剣を振る。


 ――ヒュン。


 先ほどより、少しだけ鋭い音がした。


 怜司は目を見開いた。


「……あ」


 バルドが頷いた。


「……そうだ」


 怜司は、もう一度振った。


 ――ヒュンッ。


 今度は、さらに滑らかだった。


 視界に文字が浮かぶ。


【基礎剣術の習熟度が上昇しました】


【身体連動動作の理解が進行しています】


 怜司は、思わず笑った。


「……なるほど」


 バルドは、その笑顔を見て目を細めた。


「……面白いな、お前」


「……え?」


「教えたことを、すぐに身体で理解する」


 バルドは腕を組んだ。


「だが、それ以上に……」


 少しだけ間を置く。


「……失敗を怖がらず、学ぼうとしている」


 怜司は、思わず黙った。


 失敗を怖がらない。


 そんなふうに言われたことは、今まで一度もなかった。


 学校では、失敗すれば笑われた。


 間違えれば、馬鹿にされた。


 だから、いつしか挑戦すること自体が怖くなっていた。


 だが今。


 バルドは、自分の失敗を責めない。


 むしろ、そこから学ぶことを評価してくれている。


 怜司は、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


「……ありがとうございます」


 小さく頭を下げる。


 バルドは、豪快に笑った。


「礼を言うのは、まだ早いぞ!」


 そして、木剣を構え直した。


「……もう少し、付き合ってもらう!」


 怜司は、自然と笑った。


「……はい!」


     ◇ ◇ ◇


 それから、さらに数分。


 訓練場には、何度も木剣のぶつかる音が響いた。


 ――カンッ!


 ――ガキィンッ!


 ――ヒュンッ!


 怜司は、少しずつ動きを変えていった。


 最初は、ただ相手の攻撃を受け止めるだけだった。


 だが今は、受け流すことを覚え始めている。


 足の運びも、少しずつ滑らかになってきた。


 それでも、バルドにはまだ届かない。


 何度も一本を取られる。


 肩。


 腕。


 脇腹。


 そのたびに、怜司は悔しそうな顔をした。


 だが、諦めなかった。


「……もう一度!」


 バルドは、楽しそうに笑った。


「……いいぞ!」


 周囲の冒険者たちは、完全に言葉を失っていた。


「……おい」


「……なんだよ」


「……あの新人、さっきより動きが良くなってないか?」


「……ああ」


 男たちは、信じられないものを見るような目で怜司を見つめていた。


 普通、剣術の習得には長い時間がかかる。


 何度も同じ動きを繰り返し、身体へ染み込ませていく。


 それなのに。


 あの少年は、わずか数分で動きを変えている。


 しかも、教えているのは元Aランク冒険者だ。


 その技術を、少しずつ吸収している。


「……化け物かよ」


 誰かが、小さく呟いた。


 だが、怜司には聞こえていなかった。


 今はただ、目の前の剣に集中していた。


     ◇ ◇ ◇


 そして。


 模擬戦が始まってから、しばらく経った頃。


 怜司は、バルドの動きに小さな変化を感じた。


 ――……来る。


 バルドの右足が、わずかに動く。


 肩の位置が変わる。


 剣の角度が、ほんの少し下がる。


 怜司は、反射的に身体を動かした。


 ――スッ。


 木剣が、怜司の肩をかすめる。


 だが、当たらなかった。


「……ほう!?」


 バルドの目が見開かれる。


 怜司は、その隙を見逃さなかった。


 ――今だ!


 木剣を横から振る。


 バルドが防御する。


 ――カンッ!


 だが、怜司は止まらない。


 すぐに剣を引き戻し、次の一撃へつなげる。


 ――ヒュンッ!


 木剣が、バルドの肩へ迫る。


 そして。


 ――ピタッ。


 怜司の剣が、バルドの肩の寸前で止まった。


 訓練場が、静まり返る。


 怜司は、荒く息を吐いた。


「……はぁ……はぁ……」


 バルドは、しばらく動かなかった。


 そして。


 ゆっくりと笑った。


「……見事だ」


 怜司は目を見開いた。


「……え?」


「今の一撃、確かに俺へ届いていた」


 バルドは、静かに頷いた。


「……一本だ」


 その瞬間。


 訓練場が、どよめいた。


「……うそだろ!?」


「……ギルド長から一本取ったぞ!」


「……あの新人が!?」


 怜司は、呆然としていた。


 自分が。


 あのバルドから。


 一本を取った。


 信じられなかった。


 だが、バルドは確かに認めてくれた。


「……ありがとうございます」


 怜司は、深く頭を下げた。


 バルドは豪快に笑った。


「ははは! 礼を言うのはこっちだ!」


 そして、怜司の肩を軽く叩いた。


「久しぶりに、面白いものを見せてもらった!」


 怜司は、少し照れたように笑った。


 だが。


 そのとき、バルドの表情が少しだけ真剣になった。


「……怜司」


「……はい?」


「お前には、まだまだ伸びる余地がある」


 怜司は頷いた。


「……はい」


「だが、今のままでは危険だ」


「……え?」


 バルドは、静かに続けた。


「力が強すぎる。だが、それを扱う技術が追いついていない」


 怜司は、思わず息を呑んだ。


 まさに、自分が感じていたことだった。


「……このまま魔物と戦えば、いつか大きな失敗をする」


 バルドは、怜司の目を見つめた。


「……だから、どうだ?」


「……何がですか?」


 バルドは、にやりと笑った。


「……俺が、お前を鍛えてやろうか?」


 怜司は、目を見開いた。


「……えっ!?」


 元Aランク冒険者。


 ギルド長。


 そんな人物が、自分を鍛えてくれると言っている。


 怜司の胸が、強く高鳴った。


 ――……本当に?


 自分が。


 誰かに、期待されている。


 そのことが、何より嬉しかった。


 怜司は、ゆっくりと頭を下げた。


「……お願いします!」


 バルドは、満足そうに笑った。


「……よし!」


 そして、力強く頷いた。


「なら、次に来たときから、本格的に鍛えてやる!」


 怜司は、顔を上げた。


「……ありがとうございます!」


 その笑顔には、もう以前のような怯えはなかった。


 ただ、未来への期待があった。


 こうして。


 黒瀬怜司は、異世界で初めての師匠を得た。


 元Aランク冒険者、バルド・グランツ。


 その出会いは、少年の力をさらに大きく成長させていくことになる。



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