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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第13話 規格外の新人――ギルド長との邂逅

 ――パリンッ!


 透明な破片が、受付カウンターの上へ散らばった。


 つい先ほどまで淡い光を放っていた魔力測定水晶。


 それが今、見る影もなく砕けている。


 黒瀬怜司は、差し出した右手を宙に浮かせたまま固まっていた。


「…………」


 何が起きたのか。


 それは、怜司にも分からなかった。


 ただ、受付嬢ミリアに言われるまま水晶へ手を置いただけだ。


 それなのに、水晶は金色に輝き、ひび割れ、最後には砕け散ってしまった。


「……あの」


 怜司は恐る恐る口を開いた。


「……本当に、すみません」


 返事はなかった。


 ミリアは目を見開いたまま、水晶の残骸を見つめている。


 周囲の冒険者たちも、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。


 やがて、一人の男が小さく呟いた。


「……おい」


 その声に、隣の冒険者が振り返る。


「……なんだよ」


「……今の、見たか?」


「……見た」


 男は喉を鳴らした。


「……測定水晶が、壊れたぞ」


 その言葉をきっかけに、ギルド内がざわめき始めた。


「……そんなこと、あるのか?」


「……魔力を流しすぎたんじゃねえのか?」


「いや、あれは触れるだけで測定できる水晶だろ?」


「……じゃあ、なんで壊れたんだよ」


 怜司は、ますます居心地が悪くなった。


 ――まずい。


 自分が何か、とんでもないことをしてしまったらしい。


 だが、魔力を流したつもりなどない。


 そもそも、魔力の流し方さえ知らないのだ。


「……すみません」


 怜司はもう一度、ミリアへ声をかけた。


「……弁償、します」


 ようやくミリアが我に返った。


「……あっ、い、いえ!」


 慌てて首を振る。


「そ、そういう問題ではなくて……!」


 そして、カウンターの奥へ視線を向けた。


「誰か! ギルド長を呼んできてください!」


 その声に、奥にいた職員が慌てて走り出した。


 怜司は、思わず肩を落とした。


「……やっちゃったな」


 異世界での冒険者登録。


 もっと普通に始まると思っていた。


 書類を書いて。


 説明を聞いて。


 登録証をもらう。


 それだけのはずだった。


 なのに、開始早々これだ。


 ――俺、なんでいつもこうなるんだろう。


 怜司は心の中で深いため息をついた。


     ◇ ◇ ◇


 数分後。


 ギルドの奥から、重い足音が聞こえてきた。


「……何の騒ぎだ?」


 低く、よく通る声だった。


 冒険者たちが一斉に振り返る。


 現れたのは、五十代ほどの大柄な男性だった。


 短く刈り込まれた白髪。


 鋭い灰色の瞳。


 左頬には、古い傷跡が一本走っている。


 厚い胸板と太い腕。


 その姿は、ただ立っているだけで周囲を圧倒していた。


「……ギルド長!」


 ミリアが慌てて立ち上がった。


 男性は受付へ近づくと、カウンターの上に散らばった破片を見た。


「……これは?」


 ミリアは、少し震える声で説明した。


「新規登録の方に、魔力測定をお願いしたのですが……」


「……うむ」


「……水晶が、破損しました」


 男性の眉が動いた。


「……破損?」


「はい」


 ミリアは怜司へ視線を向けた。


「こちらの、黒瀬怜司様です」


 男性の視線が、怜司へ向けられる。


 怜司は反射的に背筋を伸ばした。


「……く、黒瀬怜司です」


 男性は、しばらく怜司を見つめていた。


 そして、静かに口を開いた。


「……俺は、このギルドの長を務めるバルド・グランツだ」


「……よろしくお願いします」


 怜司は深く頭を下げた。


 バルドは、そんな怜司をじっと見つめた。


 十五歳。


 見た目は、まだ幼さの残る少年。


 身体は大柄だが、鍛え抜かれた戦士のようには見えない。


 装備らしい装備もない。


 背負っているのは、見慣れない布製の鞄だけ。


 どう見ても、歴戦の冒険者には見えなかった。


「……お前が、これを壊したのか?」


 バルドが破片を指さす。


 怜司は申し訳なさそうに頷いた。


「……はい」


「どうやって?」


「……手を置いたら、光って……」


「……うむ」


「……それで、割れました」


 バルドは黙った。


 数秒後。


「……それだけか?」


「……はい」


 怜司は正直に答えた。


 バルドは、しばらく考え込んだ。


 そして、破片を一つ手に取った。


「……ミリア」


「はい」


「この水晶は、いつ交換した?」


「……三か月ほど前です」


「……不具合は?」


「一度もありませんでした」


 バルドは、破片を見つめた。


 その表情が、少しずつ険しくなる。


「……なるほどな」


 そして、怜司へ向き直った。


「……小僧」


「……はい?」


「少し、話を聞かせてもらうぞ」


 怜司は思わず身を固くした。


 ――怒られる。


 そう思った。


 だが、バルドの声に怒りはなかった。


 むしろ、強い興味が含まれていた。


     ◇ ◇ ◇


 案内されたのは、ギルドの二階にある執務室だった。


 壁には、古びた剣や盾が飾られている。


 大きな机の上には、書類が山のように積まれていた。


 バルドは椅子へ腰を下ろし、怜司にも座るよう促した。


「……さて」


 バルドは腕を組んだ。


「まず、確認したいことがある」


「……はい」


「お前、魔力の扱い方を知っているか?」


 怜司は首を横に振った。


「……いいえ」


 バルドの眉が動いた。


「……本当に?」


「……はい」


 怜司は正直に答えた。


「魔法も、まだ使ったことがありません」


 バルドは、しばらく黙っていた。


 そして、小さく息を吐いた。


「……妙だな」


「……え?」


「魔力を扱えない者が、測定水晶を壊すほどの反応を示すとは考えにくい」


 怜司は、少し不安になった。


 自分の能力が、知られてしまうのだろうか。


 《無限成長》。


 《完全適応》。


 《万象習得》。


 そして、《界渡り》。


 これらの存在を、今はまだ誰にも話すつもりはなかった。


 バルドは怜司の表情を見て、少しだけ声を和らげた。


「……安心しろ。無理に秘密を聞き出すつもりはない」


「……え?」


「冒険者には、他人に話せない事情を抱えた者も多い」


 バルドは静かに続けた。


「だが、ギルドとしては、お前が危険な存在かどうかを確認する必要がある」


 怜司は頷いた。


「……分かります」


 バルドは少し驚いたような顔をした。


「……素直だな」


「……そうですか?」


「ああ」


 バルドは小さく笑った。


「もっと反発されるかと思った」


 怜司は苦笑した。


「……俺が水晶を壊したのは事実なので」


 その言葉に、バルドは一瞬目を丸くした。


 そして、豪快に笑った。


「はははは!」


 怜司はびくっと肩を揺らした。


「……えっ?」


「いや、すまん!」


 バルドは笑いながら言った。


「お前、面白い奴だな!」


 怜司は困ったように頭を掻いた。


 何が面白いのか、よく分からなかった。


     ◇ ◇ ◇


「……それでだ」


 バルドは笑いを収めると、真剣な表情へ戻った。


「一つ、試してみたいことがある」


「……何ですか?」


「模擬戦だ」


 怜司は目を見開いた。


「……模擬戦?」


「ああ。ギルドには訓練場がある」


 バルドは腕を組んだ。


「そこで、お前の身体能力を確認したい」


 怜司は少し迷った。


 模擬戦。


 つまり、人間を相手に戦うということだ。


 盗賊との戦闘は経験した。


 だが、あれは命を守るための戦いだった。


 今度は、相手を傷つけないようにしなければならない。


 自分の力が、どこまで通用するのかも分からない。


「……あの」


「ん?」


「……相手を、怪我させないようにできますか?」


 バルドは目を細めた。


「……ほう」


 怜司は慌てて続けた。


「いや、その……俺、力加減がまだ上手くなくて」


 バルドは、しばらく怜司を見つめた。


 そして、静かに笑った。


「……なるほど」


 その笑みには、どこか楽しそうな色があった。


「なら、俺が相手をしてやろう」


「……えっ!?」


 怜司は思わず立ち上がった。


「ギ、ギルド長が!?」


「ああ」


 バルドは当然のように頷いた。


「こう見えても、昔はAランク冒険者だったんだ」


 怜司は息を呑んだ。


 Aランク。


 ミリアの説明によれば、Sランクの一つ下。


 つまり、相当な実力者ということだ。


「……大丈夫なんですか?」


 怜司が尋ねると、バルドはにやりと笑った。


「それは、こっちの台詞だ」


 そして、ゆっくりと立ち上がった。


「……さあ、行くぞ」


     ◇ ◇ ◇


 ギルドの裏手には、広い訓練場があった。


 地面は踏み固められ、周囲には木製の柵が設けられている。


 壁際には、訓練用の木剣や槍が並んでいた。


 怜司が訓練場へ入ると、すでに何人もの冒険者が集まっていた。


「……おい、聞いたか?」


「……ギルド長が模擬戦をするらしいぞ」


「……相手は、あの新人だって?」


「……正気かよ」


 怜司は、周囲の視線を感じながら歩いた。


 その中には、先ほど自分を笑っていた大柄な男もいた。


 男は腕を組み、にやにやと笑っている。


「……おい、坊主」


 怜司が振り返る。


「……何ですか?」


「ギルド長に泣かされても、文句言うなよ?」


 周囲から笑い声が起きた。


 怜司は、少しだけ胸が痛んだ。


 だが、何も言い返さなかった。


 今は、そんなことに構っている場合ではない。


 バルドが木剣を一本手に取った。


「……怜司」


「……はい」


「武器は使えるか?」


「……少しだけ」


 怜司は正直に答えた。


 森で枝を振り回した経験はある。


 だが、剣術を学んだことはない。


 バルドは頷いた。


「なら、これを使え」


 木剣が一本、投げ渡される。


 怜司は慌てて受け取った。


 手に伝わる木の感触。


 森で使った枝とは、まるで違う。


 重心が整っている。


 握りやすい。


 怜司は、ゆっくりと構えた。


 その瞬間。


【神級権能《万象習得》】


【武器の構造を解析】


【基礎剣術の習熟が進行しています】


 視界の端に、文字が浮かんだ。


 怜司は目を見開いた。


 ――また、始まった。


 この能力は、やはり実際に触れ、使うことで成長するらしい。


 バルドが木剣を肩に担いだ。


「……準備はいいか?」


 怜司は深く息を吸った。


「……はい」


 周囲の冒険者たちが、固唾を呑んで見守る。


 バルドは、ゆっくりと木剣を構えた。


 その瞬間。


 怜司の表情が変わった。


 ――……速い。


 まだ動いていない。


 それなのに、バルドの構えには隙がない。


 盗賊たちとは、明らかに違う。


 経験。


 技術。


 そして、戦いに慣れた者だけが持つ独特の圧力。


 怜司は、無意識に木剣を握り直した。


 ――この人、強い。


 初めてだった。


 異世界で出会った人間の中で、純粋にそう感じたのは。


 バルドが、にやりと笑った。


「……行くぞ、小僧」


 そして。


 次の瞬間。


 ――ドンッ!


 地面を蹴る音が響いた。


 バルドの姿が、一気に近づく。


 怜司は目を見開いた。


 ――来る!


 木剣が、鋭く振り下ろされる。


 怜司は反射的に身体を動かした。


 ――ガキィンッ!


 木剣同士が激しくぶつかった。


 訓練場に、乾いた音が響く。


 そして。


 その場にいた全員が、息を呑んだ。


 バルドの一撃を。


 あの太った少年が。


 真正面から、受け止めていた。


 しかも。


 怜司の足は、一歩も動いていなかった。


「……ほう」


 バルドの口元が、ゆっくりと吊り上がる。


「……これは、面白い」


 怜司は、必死に木剣を握っていた。


 ――……まずい。


 この人、本当に強い。


 だが、それ以上に。


 自分の身体が、まだ余裕を残していることが分かってしまった。


 ――どこまで、力を出していいんだ?


 その答えが見つからないまま。


 模擬戦は、さらに激しさを増していく。



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