↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
134/140

第134話 黒瀬怜司、会社を持つ――未来を切り開く最初の一歩

 十億円。


 その数字が、頭から離れなかった。


 九条院家と西園寺家が検討している研究開発予算。


 もちろん、そのすべてが俺の手元へ入るわけではない。


 それでも。


 自分が作った技術のために、これほど大きな資金が動こうとしている。


 少し前までの俺なら、絶対に信じられなかったと思う。


「……会社、か」


 自室の机で資料を読みながら、俺は小さく呟いた。


 会社を作る。


 言葉にすると簡単だけど、実際には分からないことばかりだ。


 登記。


 資本金。


 株式。


 税金。


 契約。


 そして、経営責任。


 どれも、これまでの学校生活ではほとんど触れてこなかった。


 けれど。


(……分からないなら、学べばいい)


 俺には《万象習得》がある。


 一度学んだことを、驚くほど速く理解できる。


 ただ、知識を覚えたからといって、経営の経験まで手に入るわけではない。


 そのことは、忘れないようにしよう。


 俺は資料を閉じ、リビングへ向かった。


 今日は、父さんと母さんに改めて話をするつもりだった。


     ◇


「……会社設立の話が、そこまで進んだのか」


 父さんは、俺の説明を聞き終えると、ゆっくり頷いた。


「うん」


 俺は、持参した資料をテーブルへ並べた。


「九条院家と西園寺家が、研究開発を支援してくれることになったんだ」


「……十億円の予算案、か」


 父さんは、資料の数字を見つめた。


 母さんも、驚いたように口元へ手を当てている。


「……怜司。本当に、そんな大きな話になっているの?」


「うん。まだ正式に全部決まったわけじゃないけど」


 俺は頷いた。


「でも、専門家の人たちも集まってくれてる」


 父さんは、しばらく黙っていた。


 そして、静かに口を開いた。


「……怜司」


「うん」


「お前は、本当に会社を作りたいのか?」


 俺は、少し考えた。


 大きな会社に技術を預ければ、もっと楽なのかもしれない。


 経営のことを考えず、研究だけしていればいい。


 そんな道もあるだろう。


 でも。


「……作りたい」


 俺は、はっきり答えた。


「自分の技術だから、自分で責任を持ちたいんだ」


 父さんが、俺を見つめる。


「……それに」


 俺は、少しだけ笑った。


「自分の力で稼げるようになりたい」


 母さんが、静かに頷いた。


「……そうね」


「もちろん、学校もちゃんと通うし、無理はしないつもりだよ」


 俺は続けた。


「でも、せっかく自分にできることが見つかったから……挑戦したいんだ」


 父さんは、しばらく何も言わなかった。


 そして。


「……分かった」


 ゆっくり頷いた。


「父さんは、応援するよ」


「……本当?」


「ああ」


 父さんは、穏やかに笑った。


「ただし、条件がある」


「……条件?」


「大きな契約を結ぶときは、必ず内容を確認すること。必要なら、父さんも一緒に専門家へ相談する」


「うん」


「それと、無理をしないことだ」


 母さんも頷いた。


「そうよ。お金も大切だけど、怜司自身が幸せでいることが一番なんだから」


 俺は、胸の奥が温かくなるのを感じた。


「……ありがとう」


 そのとき。


「お兄ちゃん!」


 陽菜が、勢いよく身を乗り出してきた。


「じゃあ、ほんとに社長になるの!?」


「……まだ準備中だけどね」


「すごーい!」


 陽菜は、目を輝かせた。


「じゃあ私、社長の妹だ!」


「前にも言ってただろ、それ」


「だって、かっこいいじゃん!」


 俺は苦笑した。


 すると、陽菜がにやりと笑う。


「……ところで、お兄ちゃん」


「何?」


「社長になったら、澪さんと麗華さん、どっちが秘書になるの?」


「……は?」


 思わず、変な声が出た。


 母さんが、くすくすと笑う。


「陽菜ったら」


「だって気になるもん!」


「二人とも、そんな話してないから!」


 俺が慌てて答えると、陽菜は楽しそうに笑った。


「えー? じゃあ二人とも?」


「だから違うって!」


 リビングに、笑い声が広がった。


 ……まったく。


 でも、こういう時間があるから、頑張れるんだと思う。


     ◇


 翌週。


 俺は父さんと一緒に、榊原さんの事務所を訪れていた。


「黒瀬君。本日はよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 榊原さんは、父さんにも丁寧に挨拶してくれた。


 そして、会社設立についての説明が始まった。


「まず、会社の形態についてですが、今回は株式会社を想定しています」


「……株式会社、ですか」


「はい。将来的な研究開発や資金調達を考えると、選択肢として有力です」


 俺は頷いた。


「ただし、設立時点で外部の出資を受けるかどうかは、慎重に決める必要があります」


「……どうしてですか?」


「株式を発行して資金を受け取れば、その分だけ株主が増えます。経営への影響も考えなければなりません」


 なるほど。


 俺はノートへ書き込んだ。


「黒瀬君が経営の主導権を持ちたいのであれば、最初は株式の大部分を自分で保有する方法もあります」


 父さんが尋ねた。


「……未成年でも、会社を設立できるんでしょうか?」


「はい。可能ですが、年齢や契約内容に応じた手続き、法定代理人の同意など、確認すべき点があります」


 榊原さんは、丁寧に説明してくれた。


「今回は、ご両親にもご協力いただきながら進めるのがよいでしょう」


 父さんが頷いた。


「分かりました。息子が納得して進められるよう、協力します」


 俺は、父さんを見つめた。


「……ありがとう」


「何を言ってる。父親なんだから当然だろ」


 父さんは、少し照れくさそうに笑った。


     ◇


「それから、社名についてですが」


 榊原さんが資料を開いた。


「何か、お考えはありますか?」


 俺は、少しだけ考えた。


 実は、昨夜から何度も悩んでいた。


 自分の名前を入れるべきか。


 製品の特徴を表すべきか。


 それとも、まったく別の名前にするべきか。


 そして、ようやく一つの案にたどり着いた。


「……ルミナス、という言葉を使いたいと思っています」


 榊原さんが、興味深そうに顔を上げた。


「ルミナス、ですか?」


「はい。光とか、輝きという意味を込めて」


 もちろん、俺にとってはもう一つ意味がある。


 異世界で出会った、エリシア・ルミナス。


 彼女や、その家族との出会いは、俺にとって大切なものだった。


 ただ、それを日本で説明するわけにはいかない。


「……人の未来を明るくできるような会社にしたいので」


 俺がそう言うと、榊原さんが微笑んだ。


「いい名前ですね」


 父さんも頷いた。


「……悪くないと思うぞ」


 俺は、少しだけ笑った。


「ありがとうございます」


 そして、資料へ名前を書き込んだ。


『株式会社ルミナス・ライフ』


 まだ仮称だ。


 けれど、その文字を見た瞬間。


 胸の奥が、少しだけ熱くなった。


 自分の会社。


 自分が作る未来。


 その輪郭が、少しずつ見え始めていた。


     ◇


 その後も、打ち合わせは続いた。


 会社の目的。


 事業内容。


 役員構成。


 資本金。


 そして、知的財産の管理方法。


 榊原さんは、俺の技術を安易に会社へ移してしまわない方法も説明してくれた。


「黒瀬君個人が保有する技術を、会社へ使用許諾する形も考えられます」


「……使用許諾?」


「はい。技術そのものを譲渡するのではなく、一定の条件で使う権利を与える契約です」


 俺は、ゆっくり頷いた。


「……なるほど」


「ただし、どの権利を誰が保有するかは、今後の事業計画と合わせて決めましょう」


「分かりました」


 知らないことばかりだ。


 けれど、一つずつ理解できる。


 それが、何だか楽しかった。


 以前の俺なら、難しい話を聞くだけで諦めていたと思う。


 でも、今は違う。


 分からないことを、分かるようにしていけばいい。


 それだけだった。


     ◇


 打ち合わせを終えた帰り道。


 父さんと二人で歩いていた。


「……怜司」


「何?」


「大きくなったな」


 突然の言葉に、俺は少し驚いた。


「……え?」


 父さんは、穏やかに笑った。


「少し前まで、お前が会社を作るなんて想像もしていなかった」


「……俺もだよ」


 正直に答えると、父さんが笑った。


「だろうな」


 そして、少しだけ真剣な表情になる。


「でもな、怜司」


「うん」


「どれだけ成功しても、困ったときは家に帰ってこいよ」


 俺は、父さんを見つめた。


「……え?」


「会社のことでも、学校のことでも、何でもいい」


 父さんは、静かに続けた。


「お前がどれだけ立派になっても、俺たちにとっては大切な息子なんだから」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


「……ありがとう、父さん」


 俺は、ゆっくり頷いた。


「……忘れないよ」


 父さんは、満足そうに笑った。


     ◇


 数週間後。


 必要な手続きを一つずつ進め、会社設立の準備が整った。


 そして。


 正式な登記手続きが完了した日。


 俺は、榊原さんから渡された書類を見つめていた。


『株式会社ルミナス・ライフ』


 代表取締役。


 黒瀬怜司。


「…………」


 何度見ても、不思議な気分だった。


 本当に、自分の会社ができたんだ。


 もちろん、まだ小さな会社だ。


 社員もほとんどいない。


 製品も発売していない。


 売上だって、これからだ。


 けれど。


 確かに、俺の会社だった。


「……おめでとうございます、黒瀬さん」


 榊原さんが微笑んだ。


「ありがとうございます」


 俺は、深く頭を下げた。


 その隣で、父さんが静かに笑っている。


 俺は、書類をもう一度見つめた。


 株式会社ルミナス・ライフ。


 その名前には、俺の願いが込められている。


 人の未来を明るくすること。


 そして、自分自身の人生も、自分の手で切り開くこと。


「……よし」


 俺は、小さく拳を握った。


 ここからだ。


 本当の勝負は、ここから始まる。


 そう思うと、不思議と怖さはなかった。


 むしろ。


 これから何ができるのか、楽しみで仕方がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。