↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
126/156

第126話 家族に贈る小さな奇跡――怜司が守りたいもの

 日曜日の夕方。


 俺は自室の机に、小さな木箱を置いていた。


 中に収められているのは、三本の青緑色の小瓶。


 上級回復ポーション。


 異世界ルミエールでは、失われた腕や脚さえ再生できるとされる、極めて高価な回復薬だ。


 それを、日本で調達した材料と自分の魔力で作り上げた。


 もちろん、魔石式製造機を使えば同じ品質のものを繰り返し製造できる。


 だが、今夜用意した三本には、特別な意味があった。


「……父さんと母さん、それから陽菜の分」


 俺は一本ずつ確かめながら呟いた。


 自分の分は別に用意してある。


 家族に渡す三本は、売るためでも、研究のためでもない。


 ただ、守りたかった。


 俺が異世界へ行けるようになってから、色々なことが変わった。


 身体も、考え方も。


 以前なら想像もしなかった人たちと出会い、今では会社を作る話まで進んでいる。


 けれど、どれほど世界が広がっても、変わらないものがある。


 父さん。


 母さん。


 そして、妹の陽菜。


 俺にとって、一番身近で、大切な家族だ。


(……何かあってからじゃ、遅いもんな)


 そう思った瞬間、少しだけ胸が締めつけられた。


 事故も病気も、いつ起きるか分からない。


 どれだけ気をつけていても、避けられないことがある。


 もし、そんなときに俺の作った薬が役立つなら。


 使わずに済むのが一番だけど、持っていてほしかった。


 俺は木箱の蓋を閉じ、リビングへ向かった。


     ◇


「父さん、母さん。ちょっと話があるんだけど」


 夕食を終えたあと。


 俺が声をかけると、父さんが新聞から顔を上げた。


「ん? どうした、怜司」


 黒瀬正臣。


 四十四歳。


 普段は仕事で忙しいけれど、家では穏やかで、俺たちの話をきちんと聞いてくれる父親だ。


 母さんも、食器を片づける手を止めた。


「改まってどうしたの?」


「……実は、二つ話したいことがあって」


 ソファでくつろいでいた陽菜が、すぐに反応した。


「えっ、お兄ちゃんの重大発表!?」


「そんな大げさなものじゃないよ」


「もしかして彼女できた!?」


「違うって!」


 俺が即答すると、陽菜は楽しそうに笑った。


「えー、つまんなーい」


「陽菜。お兄ちゃんの話を聞いてあげなさい」


 母さんに言われ、陽菜は素直に座り直した。


「はーい」


 俺は一度、深呼吸した。


「……まず、会社を作ることを考えてるんだ」


「…………」


 三人が、同時に黙った。


 最初に反応したのは父さんだった。


「……会社?」


「うん」


「怜司が?」


「そう」


 父さんは新聞をゆっくり畳んだ。


「……詳しく聞かせてくれるか?」


 俺は頷いた。


 自分で新しい製品を開発していること。


 その製品について、九条院家と西園寺家の協力を受けながら研究を進めていること。


 そして、将来的には自分の会社を設立し、製品を販売したいと考えていること。


 もちろん、異世界の存在は話していない。


 魔力や魔石についても、まだ秘密のままだ。


 それでも、会社を作りたいという気持ちは本当だった。


「……なるほどな」


 話を聞き終えた父さんは、しばらく考え込んでいた。


「九条院さんと西園寺さん、か」


「うん。二人とも、すごく親身になってくれてる」


「それはありがたい話だな」


 父さんは頷いた。


 けれど、すぐに真剣な表情になる。


「ただし、怜司」


「うん」


「相手がどれほど立派な人でも、契約の内容は自分で理解しなさい。分からないことがあれば、必ず確認することだ」


「……分かってる」


「それと、お前はまだ高校生だ。学校もあるし、無理をするなよ」


 母さんも頷いた。


「そうよ。頑張るのはいいけど、身体を壊したら意味がないんだから」


「うん。ありがとう」


 俺は自然と笑った。


 反対されるかもしれないと思っていた。


 けれど、二人は頭ごなしに否定しなかった。


 それが嬉しかった。


「お兄ちゃん、社長になるの!?」


 陽菜が目を輝かせた。


「まだ決まったわけじゃないけどね」


「すごーい! じゃあ私、社長の妹!?」


「……今と何も変わらないだろ」


「変わるよ! 響きがかっこいいもん!」


 陽菜が得意げに胸を張る。


 その様子に、父さんと母さんも笑った。


 リビングに、いつもの温かな空気が戻ってくる。


 俺は、その光景を見つめながら思った。


 やっぱり、この時間が好きだ。


     ◇


「……それで、もう一つ話があるんだ」


 俺は持ってきた木箱を、テーブルの上へ置いた。


 陽菜が身を乗り出す。


「何それ? プレゼント?」


「まあ、そんなところかな」


 蓋を開ける。


 中には、三本の小瓶が並んでいた。


 父さんが眉を上げる。


「……薬か?」


「うん。俺が開発した回復薬の試作品」


 母さんが驚いたように俺を見た。


「怜司が作ったの?」


「そう」


 俺は一本を手に取った。


「これは、上級回復ポーションっていう名前をつけてる」


「上級?」


 陽菜が首を傾げる。


「ゲームのアイテムみたい!」


「……まあ、名前はちょっとそうかも」


 俺は苦笑した。


 実際、異世界で使われている名前なのだから仕方がない。


「でも、ふざけてるわけじゃないんだ」


 俺は真剣な表情で続けた。


「これは、普通の治療では助からないような大怪我をしたときのために、持っていてほしいものなんだ」


 三人の表情が変わった。


「……大怪我?」


 父さんが尋ねる。


「うん。例えば、事故で腕や脚を失うような怪我をしたときでも、回復できる可能性がある」


「…………」


 リビングが静まり返った。


 母さんが、ゆっくり口を開いた。


「……怜司。それ、本当なの?」


「うん。少なくとも、俺はそういう効果を持つものとして作ってる」


 俺は慎重に言葉を選んだ。


 日本で正式な検証が終わったわけではない。


 だから、絶対に治ると軽々しく約束することはできない。


「まだ研究中だから、普通の薬みたいに使ってほしいわけじゃない。病院へ行く必要があるときは、必ず病院へ行ってほしい」


 俺は三人を順番に見た。


「ただ……どうしても助からないような状況になったとき、最後の保険として持っていてほしいんだ」


 父さんは、小瓶を見つめていた。


 やがて、静かに尋ねる。


「……どうして、これを俺たちに?」


 俺は少しだけ笑った。


「決まってるよ」


 父さんの目を見る。


「家族だから」


 それだけだった。


 特別な理由なんて、必要ない。


「父さんにも、母さんにも、陽菜にも……元気でいてほしいんだ」


 母さんが、口元へ手を当てた。


 陽菜も、いつものように茶化したりしなかった。


「……お兄ちゃん」


 小さな声だった。


「そんなこと、考えてくれてたんだ」


「……まあね」


 少し照れくさくなって、視線を逸らす。


 すると、陽菜が立ち上がった。


「お兄ちゃん!」


「うわっ!?」


 勢いよく抱きつかれる。


「ありがと!」


「……陽菜、苦しいって」


「えへへ!」


 俺は苦笑しながら、妹の頭を軽く撫でた。


 母さんも、目元を少し赤くしていた。


「……怜司。本当に優しい子に育ってくれたのね」


「母さん……大げさだよ」


「大げさじゃないわ」


 母さんは、そっと俺の手を握った。


「ありがとう」


 父さんは、しばらく黙っていた。


 そして、ゆっくり頷いた。


「……分かった。大切に預かるよ」


「うん」


「ただし、これが必要になるようなことは、起きない方がいいな」


「……本当に、そう思う」


 俺も頷いた。


 父さんは三本の瓶を見つめ、静かに言った。


「怜司。お前がどれほど大きな仕事をするようになっても、忘れないでほしいことがある」


「……何?」


「俺たちは、お前が成功することだけを望んでいるわけじゃない」


 父さんは、穏やかに微笑んだ。


「お前が幸せに生きてくれれば、それで十分なんだ」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


 俺は、ゆっくり頷いた。


「……ありがとう、父さん」


     ◇


 その夜。


 自室へ戻った俺は、机の上に残った木箱を見つめていた。


 家族へ渡した三本。


 それぞれが、万が一のときに役立ってくれればいい。


 でも、できることなら。


 一度も使われないまま、ずっと保管されていてほしい。


「……次は、澪さんと麗華さんの家族だな」


 俺はノートを開いた。


 九条院家。


 西園寺家。


 どちらも、俺の事業を真剣に支えてくれている。


 そして、澪さんと麗華さんは、俺にとって大切な存在だ。


 だからこそ。


 彼女たちの家族にも、同じものを渡したいと思っていた。


 もちろん、見返りが欲しいわけじゃない。


 ただ、もしものときに守れる命があるなら。


 その可能性を、手元に残しておいてほしかった。


 俺はスマートフォンを手に取った。


 澪さんと麗華さんへ、それぞれメッセージを送る。


『今度、ご家族の皆さんに渡したいものがあります。少し時間をいただけませんか?』


 送信して、しばらくすると。


 ほとんど同時に返信が届いた。


『もちろんです、レイジさん。お父様とお母様にも伝えておきますね』


『承知しました、黒瀬さん。お父様もきっと喜ばれますわ』


 俺は画面を見つめ、自然と笑顔になった。


 ……本当に、ありがたいな。


 自分の周りに、こんなにも信頼できる人たちがいる。


 以前の俺なら、考えられなかったことだ。


 俺は窓の外へ目を向けた。


 静かな夜空に、星が瞬いている。


 守りたいものが増えた。


 大切な人が増えた。


 だからこそ、もっと強くなりたい。


 もっと多くのことを学びたい。


 そして、いつか。


 自分の力で、大切な人たちの未来を守れるようになりたい。


 そんなことを考えながら、俺は次の準備を始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。