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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第115話 両家合同食事会――黒瀬怜司と二人の令嬢

 その日の放課後。


 黒瀬怜司は、九条院澪と西園寺麗華の二人から、思いがけない誘いを受けていた。


「……食事会、ですか?」


「はい」


 澪が少し恥ずかしそうに頷く。


「今度、私の家と麗華さんの家で、合同の食事会を開くことになりまして」


「それで、黒瀬さんにもぜひご参加いただきたいと、両家の父が申しておりますの」


 麗華が続けた。


 怜司は思わず目を瞬かせた。


 九条院家。


 西園寺家。


 どちらも、名家として知られる家柄だ。


 しかも、両家の父親とは既に顔を合わせている。


 九条院家の父親とは二度。


 西園寺家の父親とは、つい先日初めて会ったばかりだ。


 その二人が、自分を食事会へ招いてくれるという。


「……俺が行っても、本当に大丈夫なの?」


 怜司は少し不安そうに尋ねた。


 澪は優しく微笑む。


「もちろんです。お父様も、レイジさんにまたお会いしたいとおっしゃっていました」


「私のお父様も同じですわ」


 麗華も頷いた。


「それに、私たちも黒瀬さんとご一緒できたら嬉しいですもの」


 その言葉に、怜司は少し照れくさくなった。


「……ありがとう」


 怜司は微笑んだ。


「それなら、ぜひ参加させてもらうよ」


 澪と麗華の顔が、同時に明るくなる。


「ありがとうございます、レイジさん」


「楽しみにしていますわ、黒瀬さん」


 二人は嬉しそうに微笑んだ。


 その様子を見て、怜司も自然と笑顔になった。


 ただ一つ。


 彼はまだ知らなかった。


 その食事会が、単なる親睦の場ではないことを。


     ◇


 数日後。


 都内の高級ホテルにある会員制レストラン。


 その個室では、九条院家と西園寺家の両親が、早くも顔を合わせていた。


「いやあ、今日は楽しみですな」


 西園寺家の当主が、穏やかに笑った。


「まったくです」


 九条院家の当主も頷く。


「こうして家族ぐるみで集まるのも久しぶりですからな」


「ええ。しかも、今回は黒瀬君もご一緒です」


「……そうですな」


 二人の父親は、穏やかに微笑み合った。


 しかし。


 その胸中では、まったく別のことを考えていた。


 ――今日は澪と黒瀬君が、ゆっくり話せるようにしてやりたい。


 ――麗華にも、黒瀬君と楽しい時間を過ごしてもらいたい。


 どちらも、娘の幸せを願う気持ちは同じだった。


 ただし、その方法については、少しばかり意見が違うらしい。


「ところで、九条院さん」


「はい?」


「本日の席順ですが……」


「……席順?」


 九条院家の父親が、わずかに眉を動かした。


 西園寺家の父親は、何気ない調子で続ける。


「黒瀬君は、麗華の隣に座っていただくのが自然かと思いましてな」


「……ほう?」


「何しろ、うちの麗華が今回の食事会を楽しみにしておりまして」


 九条院家の父親は、静かに頷いた。


「なるほど。お気持ちは分かります」


「ええ」


「ただ、澪も同じように楽しみにしているようでしてな」


「……ほう」


「せっかくですから、澪の隣でもよいのではないかと」


「…………」


「…………」


 二人の父親が、穏やかに微笑み合う。


 その様子を見ていた母親たちは、思わず顔を見合わせた。


「……あなたたち」


 九条院家の母親が、呆れたように微笑む。


「まさか、席順で張り合っていませんよね?」


「まさか」


「そんなことはありませんとも」


 二人が、ほぼ同時に答えた。


 西園寺家の母親は、とうとう笑い出した。


「ふふっ! もう、二人とも子供みたい!」


「……いや、そういうわけでは」


「ええ。単に、娘たちが楽しめるようにと……」


 父親たちは口々に弁解する。


 しかし、母親たちはすべてお見通しだった。


「でしたら、本人たちに任せましょう」


 九条院家の母親が言った。


「そうですね」


 西園寺家の母親も頷く。


「せっかくの食事会ですもの。みんなで楽しく過ごせれば、それで十分でしょう?」


「……そうですな」


「……ええ」


 二人の父親は、少しだけ残念そうに頷いた。


     ◇


 やがて、澪と麗華が到着した。


「お父様、お母様。お待たせいたしました」


「遅くなりまして、申し訳ありませんわ」


 二人は丁寧に挨拶をする。


 その姿を見て、両家の父親は嬉しそうに微笑んだ。


「いやいや、まだ時間はある」


「そうだ。気にすることはない」


 澪と麗華は顔を見合わせた。


 どうにも、父親たちの様子が少しおかしい。


 普段よりも、妙に機嫌がよいのだ。


「……麗華さん」


 澪が小さく囁く。


「はい?」


「お父様たち、少し変ではありませんか?」


「……ええ。私もそう思っていましたわ」


 二人は小さく苦笑した。


 そのとき。


 個室の扉が叩かれた。


「失礼いたします。黒瀬様がお見えになりました」


 その言葉に、澪と麗華の表情が同時に明るくなる。


「レイジさん!」


「黒瀬さん!」


 扉が開く。


 そこには、少し緊張した様子の怜司が立っていた。


「……こんばんは。今日はお招きいただき、ありがとうございます」


 怜司は丁寧に頭を下げた。


 両家の父親が、ほぼ同時に立ち上がる。


「やあ、黒瀬君!」


「よく来てくれたね!」


「……あ、ありがとうございます」


 怜司は少し驚いた。


 以前会ったときも、二人とも穏やかな人物だった。


 だが、今日は妙に歓迎が熱い。


「さあ、こちらへ」


「いやいや、黒瀬君。こちらの席が空いているよ」


「…………」


 怜司は思わず足を止めた。


 両家の父親が、それぞれ違う席を勧めている。


 しかも、どちらも自分の娘の隣だった。


「……えっと」


 怜司は困惑した。


 澪と麗華は、同時に頬を赤くする。


「お、お父様!」


「お父様、何をなさっているんですの!?」


 母親たちは、とうとう笑いをこらえきれなくなった。


「もう、あなたたち!」


「黒瀬さんが困っていらっしゃるでしょう?」


 父親たちは、ようやく我に返った。


「……すまん、黒瀬君」


「いや、失礼した」


「い、いえ。大丈夫です」


 怜司は慌てて首を振った。


 結局、席順は母親たちの提案で決まった。


 怜司は澪と麗華の間。


 両家の父親は、その向かい側。


 そして母親たちは、少し離れた位置から楽しそうに様子を眺めることになった。


     ◇


 食事が始まると、会話は自然と学校生活の話題になった。


「黒瀬君。研究活動は、随分と頑張ったそうだね」


 九条院家の父親が尋ねた。


「はい。皆さんに助けてもらいながら、何とか最後までやり遂げられました」


「ほう」


「子供たちの反応もよかったようで、嬉しかったです」


 怜司は微笑んだ。


 西園寺家の父親が頷く。


「麗華からも聞いているよ。なかなか立派な活動だったそうだね」


「ありがとうございます」


 怜司は丁寧に答えた。


 すると、澪が嬉しそうに口を開いた。


「レイジさんは、準備の段階から本当に頑張ってくださったんです」


「……澪さん」


「子供たちにも、とても優しく接していらっしゃいました」


 その言葉に、九条院家の父親が満足そうに頷く。


「そうか。やはり、黒瀬君は頼もしい少年だな」


 すると、麗華も静かに微笑んだ。


「ええ。ですが、黒瀬さんは決して一人で何でもなさるわけではありませんの」


「ほう?」


「皆さんの意見をきちんと聞いて、協力しながら進めてくださるんです」


 西園寺家の父親も頷いた。


「なるほど。大切なことだね」


 怜司は少し照れくさくなった。


「……そんなに大したことはしていませんよ」


「いいえ」


 澪が微笑む。


「レイジさんは、もっとご自分を評価なさってもいいと思います」


「私も同感ですわ」


 麗華も頷いた。


 怜司は、二人の顔を見比べた。


 そして、少しだけ笑った。


「……ありがとう」


 その様子を見て、両家の父親は静かに頷いた。


 ――やはり、澪は黒瀬君のことをよく見ている。


 ――麗華も、黒瀬君のことを深く理解しているようだ。


 どちらも、娘の成長を嬉しく思っていた。


 ただし。


 互いに、少しだけ対抗心を燃やしていたことも否定できなかった。


     ◇


 食事が進むにつれ、場の雰囲気はますます和やかになった。


 澪が美術館の話をすれば、麗華は書店での出来事を話す。


 怜司も、それぞれの思い出を楽しそうに振り返った。


「そういえば、レイジさん」


 澪が微笑んだ。


「以前、美術館でご覧になっていた絵のこと、覚えていらっしゃいますか?」


「もちろん。あの風景画だよね」


「はい」


 澪の顔が明るくなる。


「実は、あの画家の新しい展示があるそうなんです」


「へえ。そうなんだ」


「もしよろしければ、またご一緒に……」


 澪は少しだけ頬を染めた。


 怜司は微笑む。


「うん。ぜひ行きたいな」


「……ありがとうございます」


 澪は嬉しそうに頷いた。


 その様子を見て、九条院家の父親が満足そうに微笑む。


 だが、次の瞬間。


「黒瀬さん」


 麗華が静かに口を開いた。


「以前お話ししていた書店なのですが、今度、新しい催しがあるそうですの」


「そうなんだ」


「ええ。もしご興味があれば、またご一緒できればと思いまして」


 怜司は嬉しそうに頷いた。


「うん。麗華さんとなら、またいろいろ見て回れそうだね」


「……ありがとうございます」


 麗華も頬を染めて微笑んだ。


 今度は、西園寺家の父親が満足そうに頷く。


 その様子を見て、母親たちは顔を見合わせた。


「……ふふっ」


「本当に、分かりやすいんだから」


 小さな笑い声が、食卓に響いた。


     ◇


 食事も終盤に差しかかった頃。


 九条院家の父親が、少し真剣な表情になった。


「……黒瀬君」


「はい」


「今日は来てくれて、ありがとう」


「いえ。こちらこそ、お招きいただきありがとうございます」


 怜司は丁寧に答えた。


 父親は微笑んだ。


「澪が、君と親しくしている理由が、改めて分かった気がするよ」


「……ありがとうございます」


 すると、西園寺家の父親も頷いた。


「私も同感だね」


 怜司は少し驚いた。


「麗華が君と一緒にいるとき、本当に楽しそうなんだ」


「……お父様!」


 麗華が慌てて声を上げる。


 澪も少し頬を染めている。


 両家の父親は、そんな娘たちを見て穏やかに笑った。


 そして、九条院家の父親が言った。


「……黒瀬君」


「はい」


「これからも、澪と仲良くしてやってほしい」


 怜司は真剣に頷いた。


「……はい」


 すると、西園寺家の父親も続けた。


「もちろん、麗華ともね」


「……はい。もちろんです」


 怜司は微笑んだ。


 その返事を聞いて、両家の父親は満足そうに頷いた。


 だが。


 次の瞬間。


「……ところで、九条院さん」


「はい?」


「次に黒瀬君をお招きする際は、ぜひ我が家にも……」


「いやいや、それなら、また両家で……」


「……ほう?」


「……ええ」


 二人の父親が、再び微笑み合う。


 母親たちは、とうとう声を立てて笑った。


「もう、あなたたち!」


「本当に、懲りないんだから!」


 澪と麗華は顔を見合わせた。


 そして、同時にため息をつく。


「……麗華さん」


「……ええ、澪さん」


「お父様たち、少し変ですね」


「……まったくですわ」


 二人は小さく苦笑した。


 怜司だけが、状況を理解できずに首を傾げていた。


     ◇


 食事会が終わり、怜司が帰った後。


 両家の父親は、しばらく席に残っていた。


「……実にいい少年ですな」


 九条院家の父親が呟いた。


「……それだけは、まったく同感です」


 西園寺家の父親も頷いた。


 しばらく、穏やかな沈黙が流れる。


 そして。


「……澪の相手としても、申し分ないと思います」


 九条院家の父親が言った。


「……麗華の相手としても、同じですな」


 西園寺家の父親が返す。


「…………」


「…………」


 二人の視線が交差する。


 穏やかな笑顔。


 丁寧な言葉遣い。


 しかし、その奥には確かな対抗意識があった。


 ――澪の幸せは、父親として応援したい。


 ――麗華の幸せだって、負けずに応援してやりたい。


 もちろん、怜司本人の気持ちを無視するつもりはない。


 娘たちに無理をさせるつもりもない。


 それでも。


 自分の娘が幸せになる未来を、誰よりも願っている。


 その気持ちだけは、譲れなかった。


「……九条院さん」


「何でしょう?」


「今後とも、よろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


 二人は静かに握手を交わした。


 その様子を見て、母親たちは顔を見合わせる。


「……本当に、仲がいいんだから」


「ふふっ。まるで子供みたいですね」


 楽しそうな笑い声が響いた。


     ◇


 一方、その頃。


 黒瀬家へ帰宅した怜司は、自室の椅子に座っていた。


「……今日は、すごかったな」


 思わず呟く。


 九条院家と西園寺家。


 どちらの両親も、温かく迎えてくれた。


 澪も麗華も、楽しそうだった。


 それが、何より嬉しかった。


 ただ。


「……なんで、あんなに歓迎してくれたんだろう」


 怜司は少しだけ首を傾げた。


 もちろん、嫌な気分ではない。


 むしろ、ありがたいことだ。


 だが、あの二人の父親が、時折妙な視線を交わしていたことが気になっていた。


「……まあ、いいか」


 怜司は小さく笑った。


 そして、スマートフォンを手に取る。


 澪から、メッセージが届いていた。


『レイジさん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです』


 続いて、麗華からも。


『黒瀬さん、本日はありがとうございました。またご一緒できる日を楽しみにしていますわ』


 怜司は、二人のメッセージを見つめた。


 そして、少しだけ真剣な表情になる。


 澪さんも、麗華さんも。


 自分と過ごす時間を、大切にしてくれている。


 その気持ちは、もう十分に伝わっていた。


 だからこそ、軽く扱いたくはない。


「……ちゃんと、向き合わないとな」


 怜司は小さく呟いた。


 誰かに好意を向けられること。


 誰かと一緒に過ごすこと。


 以前の自分なら、想像すらできなかった。


 けれど、今は違う。


 自分を大切にしてくれる人たちがいる。


 その気持ちに、どう応えていくべきなのか。


 まだ答えは出ていない。


 それでも、逃げずに考えたいと思っていた。


 怜司はスマートフォンを手に取り、それぞれに丁寧な返信を送った。


 そして、机の上に置かれた異世界での商売の記録へ視線を移す。


 明日は、ベルン商会との取引についても確認したいことがある。


 宿屋への継続納品。


 新しい商人からの問い合わせ。


 冒険者ギルドからの依頼。


 考えることは山ほどあった。


「……よし。こっちも頑張ろう」


 怜司は気持ちを切り替え、帳面を開いた。


 自分の知らないところで、九条院家と西園寺家の父親たちによる、静かな親バカ戦争がますます激しくなっていることなど、夢にも思わずに。


 そして、その戦いが今後、娘たちまで巻き込んだ賑やかな騒動へ発展していくことも。


 まだ、誰も知らなかったのである。

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