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虐げられた俺は異世界で神を超える 〜傷ついた黒猫を助けたら、現実世界での復讐が始まった〜  作者: 覇王が好き


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第105話 橘美月、初めてのデート宣言

第105話 橘美月、初めてのデート宣言


「……よし!」


 日曜日の朝。


 橘美月は、自室の鏡の前で小さく拳を握った。


 今日は、黒瀬怜司と二人で出かける日だ。


 前回は、運動公園で一緒に身体を動かした。


 ランニング。


 短距離走。


 そして、キャッチボール。


 あの日は本当に楽しかった。


 けれど、今回は違う。


 運動をするためではない。


 ただ、二人で遊びに行く。


 それだけの約束だった。


「……デート、だよね」


 美月は小さく呟いた。


 そして、すぐに顔を赤くした。


「……うわ、何言ってんの私!」


 思わずベッドへ倒れ込む。


 これまで、恋愛のことを深く考えたことはなかった。


 陸上の練習。


 友達との遊び。


 学校の行事。


 毎日が楽しくて、それだけで十分だった。


 けれど、怜司と出会ってから、少しずつ変わった。


 彼が誰かと仲良くしていると、気になる。


 他の女の子と出かけたと聞くと、落ち着かない。


 自分に笑いかけてくれると、嬉しい。


 そして、もっと一緒にいたいと思う。


「……完全に好きじゃん」


 美月は枕へ顔を埋めた。


 もう、誤魔化すことはできなかった。


     ◇


 待ち合わせ場所は、駅前のショッピングモールだった。


 美月が少し早く到着すると、怜司はすでに待っていた。


「……あ」


 美月は思わず足を止めた。


 怜司は、落ち着いた色のシャツに細身のパンツを合わせていた。


 以前より身体が引き締まったことで、服の印象も変わっている。


 背筋が伸び、立ち姿も自然だ。


「……かっこよくなったなぁ」


 思わず呟く。


 だが、すぐに首を振った。


「……いやいや!」


 美月は頬を軽く叩いた。


 今日は、普通に楽しむのだ。


 変に意識しすぎて、ぎこちなくなるのは嫌だった。


「怜司ー!」


 美月が大きく手を振る。


 怜司が振り返った。


「あ、美月さん!」


 笑顔で近づいてくる。


「おはよう!」


「おはよう!」


 二人は笑い合った。


 そして、怜司が少しだけ目を見開いた。


「……今日、いつもと雰囲気違うね」


 美月の胸が跳ねた。


「……え?」


「服、すごく似合ってる」


 美月は固まった。


 今日は、普段のスポーツウェアではない。


 少しだけおしゃれを意識した私服だった。


 動きやすさは残しつつ、いつもより柔らかな印象になるように選んでいる。


「……そ、そう?」


「うん」


 怜司は笑った。


「すごくいいと思う」


 美月の頬が赤くなった。


「……ありがと」


 声が少し小さくなる。


 怜司は不思議そうに首を傾げた。


「美月さん?」


「な、何でもない!」


 美月は慌てて笑った。


「ほら! 行こ!」


 そして、少し早足で歩き始めた。


 胸の鼓動が、なかなか落ち着かなかった。


     ◇


 最初に向かったのは、モール内のゲームセンターだった。


「よーし!」


 美月は入口で振り返った。


「まずは勝負ね!」


「……勝負?」


「もちろん!」


 美月は笑った。


「せっかく来たんだから、楽しまないと!」


 怜司も笑った。


「分かった」


 二人は、いくつかのゲームを楽しんだ。


 最初は、リズムゲーム。


 美月は慣れた手つきで操作し、高得点を出した。


「どうだ!」


 得意そうに振り返る。


 怜司は感心した。


「すごいね!」


「へへっ!」


 美月は嬉しそうに笑った。


「怜司もやってみなよ!」


「僕、あんまり得意じゃないけど……」


「大丈夫! 教えるから!」


 怜司は挑戦した。


 最初はタイミングが合わず、何度もミスをした。


 美月は隣で笑いながら教えてくれる。


「そこ、ちょっと早い!」


「えっ?」


「次! 今!」


「……あっ!」


 少しずつ、動きが合うようになる。


 最後には、最初よりずっとよい点数が出た。


「……やった!」


 怜司が笑う。


 美月も嬉しそうに笑った。


「ほらね! できたじゃん!」


 その瞬間、二人は自然に手を合わせた。


 ぱんっ、と軽い音が響く。


 ハイタッチ。


 ただ、それだけのことだった。


 けれど、美月は一瞬、動きを止めた。


 怜司の手に触れた。


 その事実が、妙に意識されてしまう。


「……美月さん?」


「……えっ?」


「どうしたの?」


「な、何でもない!」


 美月は慌てて手を引っ込めた。


 怜司は少し不思議そうに笑った。


     ◇


 次に向かったのは、クレーンゲームのコーナーだった。


「……あ!」


 美月が足を止める。


 ガラスケースの中には、小さな動物のぬいぐるみが並んでいた。


「これ、かわいい!」


 美月が指差したのは、白い猫のぬいぐるみだった。


 丸い顔。


 小さな耳。


 少し眠そうな表情。


 怜司は思わず笑った。


「確かに、かわいいね」


「でしょ!」


 美月は楽しそうに笑う。


「ちょっとやってみようかな」


 硬貨を入れ、操作を始める。


 だが、なかなか取れない。


「あー!」


 美月が悔しそうに声を上げた。


「惜しい!」


 怜司は隣で笑った。


「もう少しだったね」


「うん……」


 美月は少し考えた。


「……あと一回!」


 再び挑戦する。


 けれど、今度も失敗。


「……むう」


 美月は頬を膨らませた。


 怜司は少し迷った後、口を開いた。


「……僕も、やってみていい?」


「え?」


「せっかくだし」


 美月は笑った。


「いいよ! でも、結構難しいよ?」


「うん。分かってる」


 怜司は操作盤の前に立った。


 ガラスケースの中を観察する。


 ぬいぐるみの位置。


 アームの動き。


 落とし口までの距離。


 《完全適応》によって高まった感覚は、こうした細かな動きを捉える助けにもなっていた。


 だが、機械の設定まで分かるわけではない。


 まずは普通に試してみる。


 アームが下がる。


 ぬいぐるみに触れる。


 少しだけ動いた。


「……あ」


 美月が身を乗り出す。


「惜しい!」


 怜司は笑った。


「もう一回やってみる」


 次は、位置を少し調整した。


 アームが下がり、ぬいぐるみの端を押す。


 ころん、と白い猫が転がった。


 そして。


 落とし口へ、すとんと落ちた。


「……えっ!」


 美月が目を丸くする。


「取れた!」


 怜司も驚いた。


「……本当だ」


 美月は嬉しそうに笑った。


「すごいじゃん!」


 怜司は景品を取り出した。


 そして、少し照れくさそうに差し出した。


「……はい」


「……え?」


「美月さん、欲しかったんでしょ?」


 美月は固まった。


「……いいの?」


「うん」


 怜司は笑った。


「今日、誘ってくれたお礼」


 美月はぬいぐるみを見つめた。


 白い猫。


 小さくて、かわいらしい景品。


 けれど、今はそれがとても特別なものに見えた。


「……ありがと」


 美月はそっと受け取った。


 そして、嬉しそうに笑った。


「……大事にする!」


 怜司も微笑んだ。


「うん」


     ◇


 昼。


 二人はモール内のレストランへ入った。


 窓際の席に座り、食事を注文する。


「いやー、楽しかった!」


 美月が笑う。


「僕も」


 怜司は頷いた。


「美月さんといると、なんか元気になるね」


 美月の胸が跳ねた。


「……え?」


「いつも楽しそうだから」


 怜司は微笑んだ。


「一緒にいると、僕まで楽しくなる」


 美月は少し俯いた。


「……そ、そう?」


「うん」


 怜司は自然に答えた。


 美月は頬を赤くした。


 そんなふうに言われたら、どうすればいいのだろう。


 嬉しい。


 ものすごく嬉しい。


 けれど、顔を見られるのが恥ずかしい。


「……怜司ってさ」


「何?」


「ほんと、そういうこと普通に言うよね」


「……え?」


 怜司は首を傾げた。


 美月は思わず笑った。


「……もう、いい!」


 その笑顔には、照れくささと嬉しさが混ざっていた。


     ◇


 食事の後。


 二人はモールの屋上にある庭園へ向かった。


 そこには、小さなベンチや花壇があり、買い物客が休憩できるようになっていた。


 風が心地よい。


 遠くには、街並みが広がっている。


「……気持ちいいね」


 美月が言う。


「うん」


 怜司は頷いた。


 二人はベンチへ腰を下ろした。


 しばらく、穏やかな時間が流れる。


 美月は膝の上に置いた白い猫のぬいぐるみを見つめた。


 そして、少しだけ勇気を出した。


「……ねえ、怜司」


「何?」


「今日、楽しかった?」


 怜司はすぐに頷いた。


「もちろん」


「……そっか」


 美月は微笑んだ。


 けれど、まだ言いたいことがあった。


 今日は、ただの遊びではない。


 少なくとも、自分にとっては。


「……私ね」


 美月は小さく息を吸った。


「今日、すごく楽しみにしてたんだ」


「うん?」


「前に一緒に運動したときも楽しかったけど……」


 美月は少しだけ視線を落とした。


「今日は、もっと特別で」


 怜司は静かに耳を傾けていた。


「……その」


 美月の頬が赤くなる。


 心臓が、速く動いている。


 けれど、逃げたくはなかった。


「……私、今日のこと、デートだと思って来たんだ」


 言った。


 ついに、言ってしまった。


 美月は顔を真っ赤にして俯いた。


 しばらく沈黙が流れた。


 怜司は、少し驚いたように彼女を見つめていた。


「……デート」


 小さく呟く。


 美月は慌てて続けた。


「い、嫌だったらいいんだけど!」


「……嫌じゃないよ」


 怜司は静かに答えた。


 美月が顔を上げる。


「……え?」


 怜司は少し照れくさそうに笑った。


「僕も、今日すごく楽しかったから」


 そして、少し考えた。


「……そういうふうに思ってくれてたんだね」


 美月は頷いた。


「……うん」


 怜司は優しく微笑んだ。


「ありがとう」


 その言葉に、美月の胸が温かくなった。


 まだ、好きだとは言っていない。


 けれど、自分にとって今日が特別だったことは伝えられた。


 それだけでも、大きな一歩だった。


     ◇


 夕方。


 二人は駅へ向かって歩いていた。


 美月は、白い猫のぬいぐるみが入った袋を大切そうに抱えている。


「……ねえ、怜司」


「何?」


「また、デートしてくれる?」


 今度は、はっきり言えた。


 怜司は少し驚いた。


 けれど、すぐに笑顔になった。


「うん。ぜひ」


 美月の表情がぱっと明るくなった。


「……やった!」


 思わず声が出る。


 怜司は笑った。


「次は、どこに行こうか」


「……えっ」


 美月は目を丸くした。


 怜司の方から、次の話をしてくれた。


 それが、たまらなく嬉しかった。


「……考えとく!」


 美月は笑った。


「今度は、もっと楽しいところ!」


「楽しみにしてる」


 怜司も笑顔で答えた。


     ◇


 帰宅後。


 美月は自室のベッドへ座った。


 膝の上には、白い猫のぬいぐるみ。


「……ふふ」


 自然と笑みがこぼれる。


 今日のことを思い返す。


 待ち合わせ。


 ゲームセンター。


 昼食。


 そして、屋上庭園での会話。


『私、今日のこと、デートだと思って来たんだ』


 思い出した瞬間、顔が熱くなった。


「……よく言えたな、私」


 美月は小さく笑った。


 けれど、後悔はしていない。


 むしろ、言ってよかったと思っていた。


 怜司は嫌がらなかった。


 またデートしてくれると言ってくれた。


 それだけで、胸がいっぱいだった。


「……でも」


 美月はぬいぐるみを抱きしめた。


 九条院澪。


 西園寺麗華。


 藤宮詩織。


 怜司の周りには、魅力的な女の子がたくさんいる。


 自分だけが特別だとは、まだ言えない。


 けれど。


「……負けたくないな」


 美月は静かに呟いた。


 誰かを傷つけたいわけではない。


 友達を蹴落としたいわけでもない。


 ただ、自分の気持ちを諦めたくない。


 怜司の隣で、もっと笑っていたい。


 そのために、できることをしたい。


「……よし!」


 美月は小さく拳を握った。


「次も、絶対楽しい日にする!」


 そして、白い猫のぬいぐるみを見つめた。


「……ありがと、怜司」


 その声は、誰にも聞こえないほど小さかった。


 けれど、そこには確かな恋心が込められていた。


     ◇


 一方。


 怜司も自室で、今日のことを思い返していた。


 美月の笑顔。


 ゲームセンターでの勝負。


 そして、屋上庭園での言葉。


『私、今日のこと、デートだと思って来たんだ』


 怜司は少し考え込んだ。


「……デート、か」


 澪との時間。


 麗華との時間。


 詩織との時間。


 そして、美月との今日。


 それぞれに違う楽しさがあった。


 誰かと一緒に過ごすことが、こんなにも嬉しいとは思わなかった。


 けれど、最近は少しずつ分かってきた。


 少女たちが、自分との時間を特別に思ってくれていること。


 そして、その気持ちに対して、自分も誠実でありたいと思っていること。


「……ちゃんと考えないとな」


 怜司は静かに呟いた。


 まだ、答えは出ていない。


 けれど、知らないふりをするつもりもなかった。


 誰かを大切に思うこと。


 誰かに大切に思ってもらうこと。


 その意味を、少しずつ学んでいこう。


 怜司はスマートフォンを手に取った。


 美月から、メッセージが届いていた。


『怜司! 今日はありがとう! ぬいぐるみ、大事にするね!』


 怜司は笑顔で返信した。


『こちらこそありがとう。また一緒に出かけようね』


 送信する。


 少しして、返事が届いた。


『うん! 約束!』


 怜司は微笑んだ。


 少年の周りで、恋の物語が少しずつ動き始めている。


 そして、その中心にいる怜司自身もまた、以前とは違う未来へ向かって歩き始めていた。

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