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セレニアの物語  作者: さなか
第3章 オーネット屋敷の精霊

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7 【ファムリア王家物語】

 ある日のことでした。私は決められた日に、決められた通りに、エディメル様の体調をクローレア様にご報告しました。


「では、失礼致します」


「レラ……ちょっと待って」


 クローレア様が、私を呼び止められました。

 この頃のクローレア様は、いつもとてもご心配があるように感じられました。イグニーズ様やレイドン様が仰るには、南オルミスの情勢が関係していたのです。


 私が生まれたはずの国――行ったことも見たこともない、南オルミス。

 その国には双子の王子様がいらっしゃるのだそうです。兄王子のサンドロス様と、弟王子のベルトロス様。双子というのは同じとき、同じ腹からお生まれになったお二人を言うそうですが、どちらが王様になられるかで南オルミスという国が大きく変わるほどに、二人の王子の性格は正反対でした。


「今度、お客様がみえるわ。その方々と、私たち家族で食事をします。あなたの仕事はこれです」


 クローレア様は私に、折りたたんだ紙をお渡しになりました。


「かしこまりました」

 

 私は受け取ったまま、懐にしまい込みました。

 クローレア様はお疲れのご様子でした。執事長がご用意されたお茶を飲み、ため息をつかれました。


「仕事のことをずっと考えているのは、疲れるわね……」



 私は愛の話をして以来、エディメル様がお休みになられている時などに、フィルマとよく話すようになりました。

 もちろん思考ではなく、口を使って会話をします。話すことは喉が渇きますので、自分のためにお茶を淹れさせていただくようになりました。使用人の方々のお茶の時間に参加したこともないのに、精霊と話すために一人でお茶をしているなんて。自分でも奇妙でおかしなことだと思っていました。


 私は、フィルマとの時間に本を読み上げることにしました。エディメル様は、長いお話を読み続けることができません。フィルマは本にそれほど興味を示すわけではありませんが、私が本を読み思考が変化することには興味があるようでした。


「”朝を告げるメルカーナ王女の歌声。その声に誘われて、城下町の子どもたちが通りに集まってくる。私もその一人。聞くだけでは物足りないのは、美しい歌に合わせて軽やかに飛び跳ね歩く赤毛の王女の姿をこの目に焼き付けたいからだ。空を映す瞳、赤みがさしている頬、歌を奏でる唇。服の裾を掴む指先、大精霊ファムレが敷いた街道を歩くつま先、王女の全てが愛おしく、私の心を支配する。

 しかし、私には懸念があった。私と同じように、毎朝通りに現れる青年。もしも彼が私の精霊に声をかけようものなら、すぐに割入らなければならないと気構える日々。ところがその青年はあくる日、私の精霊メルカーナ王女の世話係である私の親戚、レーヌ嬢を呼び止めた。その瞬間――私と青年ニルスは同志となれる間柄であることを、互いに知り合った。“」


 本はレイドン様にお願いしてお借りしました。私とフィルマは愛を学びたいのですと。

 レイドン様は、ローレンス・カフェトーの書いた【ファムリア王家物語】という本を貸してくださいました。レイドン様がお暇な時には、ご同席なさりたいという条件で。


「ローレンスはワイロフ・トメイのひ孫に当たる人だよ。受け継いだ手記を元に【ヘイスとエッカーナ】の原作を書いたのは彼なんだ」


「手記そのものではなかったのですね」


「その時代を生きた人でないとわからないことがあるからね。雰囲気や文化、流行語――公的記録に残らない通称とかね。読む人に伝わるように、何度か書き直されているんだよ」

 

 【ファムリア王家物語】は、王家の方々の恋愛や結婚のお話がまとめられているものでした。こういった感情を他人に読まれるのはどういった心境でしょうか。

 私なら耐えられないでしょう、と申し上げると、「そうだね。ファムリアという国は、なぜかこれが当たり前なんだ」と教えてくださいました。


 読んでいるうちに、私も愛を表現する言葉を覚え始めました。

 

『レラが理解したことは私も理解できるわ。あなたは理解の過程をすべて頭の中で説明しているから』


 

「“交易船がファムリア港に到着した。すらりと背の高い青年が船を降りてくる。黒い長髪を太陽の光が青く煌めかせると、いつものように港町の女性たちの悲鳴が上がった。しかし、今日はもう一度別の色の悲鳴が上がることになった。麗しき青年が手を差し出し、現れたのは、浅黒い肌をした女性。青年に似合う背の高さ、浅黒い肌の体つきはファムリアの誰よりも女性的で、豊かな黒髪に意志の強い大きな目を持っていた。

「世界で一番の美人を連れてきた」。青年は朗らかに笑った。その日涙した女性の数はどれほどあったろう。

 その女性、ハーナプリカは青年の家に連れて行かれるはずだった。彼女の両親も共に来ており、旧知の友人に会ってから彼の両親に挨拶をするという段取りになっていた。しかしどうにも、両親と青年の行く方向はずっと同じなのである。そして四人は、王都エッカーニアのファムリア王城に辿り着いた。

 ヘイス王とエッカーナ王妃は、エスカール王子の連れてきた相手に大変驚いた。王妃は目を丸くしたまま、ハーナプリカの全身をくまなく見つめていた。

 ハーナプリカはシロニア港での彼女を巡る競争を制した青年がファムリア王子とは知らされていなかったので、謁見の間で腰を抜かした。ハーナプリカの母親は「大変なのに引っかかったなあ」と言い、父親は「良かった、今度は挨拶するのが知ってる人で」と笑顔になった。“」


 第二王子エスカールの物語は、奪い取った愛。


「”エルレア・ロットは「あのヘイス王を泣かせた女」という異名を持っているのだが、どのようにしてということは誰も知らない。グリニファ王子はファムリアの建国船で彼女と出会い、精霊の言葉で命を表すその名に導かれるかのように、王家管轄の農場を彼女と共に拓く道を選んだ。

 彼女の博識さには、私もよく世話になる。どうしてそんなに勉強したのか聞くと、「グリニファ王子が何でも聞いてくるから」と答えた。王子相手に適当なことを教えるわけにはいかないと思い、オルミスの実家やヘイス王、ルワレーリオ島に棲む海の大精霊ファムレに学んだらしい……。“」


 第一王子グリニファの物語は、育む愛。


「”すると、「私はもう婚約しています」と五人の兄弟姉妹で最もおとなしい王女が言ったので、城中が騒然となった。宮務長ロリーが連れてきたのは、アルスター・サキタリの次男アステラだった。二人が同じ場にいる機会は何度もあったはずだが、そういった気配を感じたことは一度もなかった。聞けば五歳の時にお互いが最善であるとして、結婚の約束をしたのだと言う……。“」


 第二王女イスカリア、ファムリアの二代目女王の物語は、約束された愛。


「“ヘイス王の悩みの種は、末っ子のヘイリッド王子であった。私は彼とは大変気が合うのだが、この物語集に彼の結婚を書くのは分類が違うと言わざるを得ない。彼の愛するものは英雄譚であり、父を尊敬してやまず、話すことといえばヘイス王と精霊タタディアの戦い、ドラギエル・ドーデミリオンや叔父であるオルミス王配ルアンの功績。空いた時間には自己鍛錬、女性は意志を鈍らせるというヘイス王の挿話に倣い、禁欲を己の是としている始末。

 しかし、導きの力と偉大なものである。彼とそっくりそのままの性格のルーシェという女性がいたのである。オルミス時代から護衛術を教えるヴァルス家の跡取りであった。争いの無い時代に英雄になりたい心を持て余すこの夫妻は、揃って英雄狂、訓練仲間であり、仲良く禁欲をする――私には理解しがたい価値観の持ち主だ。

 ファムリアの平和を願うものの、ヘイリッドとルーシェを英雄譚が登場人物になれることを願ってしまうのである。”」


 ヘイリッド王子の章だけは、恋愛物語ではありませんでした。ローレンスが義兄、友人として彼のことを語っているものです。


「……これはどういった愛なのでしょうか?」


「同一性の愛と言ったところかな」


「同一性?」


「自分と同じものを愛するということだよ。それを嫌う人もいるけどね」


「それは、自分を愛しているということですか?」


「そうだね。これは機能の話になるけど、自分が二人いたらいいと思うことはないかい? 掃除をする自分と、休憩する自分とかね。自分だったら自分の思い通りに事が成るだろう? 僕はね、僕がもう一人いたらしたいことがあるよ。それは、ある結論を選択した僕とは違う結論に辿り着く意志を持って僕と対話することだ。そうすれば、僕の僕に対する理解を深めることができる」


「……それは、……自分の頭の中で、いつも行っていることではないのでしょうか?」


「もちろん、その通りだ! でも限界はある……僕らの頭は行動するために思考しているのだからね。つまり、体は一つ、というわけだ」


 私には、つまり――の意味がわかりませんでした。その代わり、レイドン様に教わっている子どもたちはこうやって困る瞬間があるのでしょうね、と考えていました。


『こういうときのレイドンは、私にも分かりづらいの』


 と、フィルマが言いました。


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