35 名案
カラットとドラギエルは、森の奥へと進む。
ヘイスに言われた通り、道を作らないよう、木の根の上を歩き、背の高い植物はできるだけ踏まないようにする。
「あの……本当は、俺たちを助けにきたってことはないかな……」
ドラギエルが言ったので、カラットは怒った。
「ヘイスの話を聞いてなかったのか?」
しかし、すぐに思い直す。
ドラギエルが悪いわけじゃない、と。
「……そうだったらいいよな」
しかし、そわそわする気分はおさまらない。我慢できなくなり、カラットは足を止める。
「やっぱり、心配だ。ヘイスは自分が勝てると思ってなかった」
ドラギエルからの返事はない。気づかないうちに、カラットよりずっと前から立ち止まっていたようだ。背後を振り返ったまま、ぼんやりと突っ立っている。
「……呼んでる」
「誰が? ヘイス?」
「わからない」
「……見に行ってみよう。助けにきたってことも、あるかもな。ファルトーソーが捕まっててさ、オーネット船長がすっかり治って。それで、もうヘイスが、出てきていいぞって、俺たちを呼んでるのかもしれないな。そうだよ、ファムレ様が、帰らせてくれるって言ってたし」
カラットは、そうであって欲しいことを全部言った。ドラギエルも嬉しそうな顔で頷く。
「一応、見つからないように隠れて行こう。お前はでかいんだから、気をつけろよ」
二人はそろそろと来た道を戻り、浜辺が続いているところまで出ると、毛羽立つ幹を持つ木や大きな葉を持つ草の間に身を隠した。
どちらかが何かを踏んだ。ぷしゅっという音がして、二人で「しっ」と囁き合う。
「ドラギエール!!」
喉を枯らして叫ぶ声が聞こえた。ヘイスじゃない。低い、女の声。
カラットは、少しだけ顔を覗かせる。
「ナバルだ」
「ほら!」
ドラギエルが嬉しそうに言う。
ナバルの後ろから、
「助けにきたぞ、カラット!」
という声がする。
ナバルやカラットと変わらない背丈。色褪せた茶色い髪、落ち窪んだ目の奥の青い瞳。
(まさか、アキリなのか……?)
あの、ふざけてへらへらした感じはどこへやったのか。身なりはそれなりに気を使っていたのに、無精髭を生やしている。ところどころに濃い染みのある服は、汚れた布を纏っているように見えた。
「しっ。ヘイスと決めた合図を忘れたのか? ヘイスがあれを言うまで、出ちゃだめなんだ」
「ナバルが、敵だと思う?」
「わからない。でもアキリは、あいつの意思では俺を探しにこないと思う」
「……」
ドラギエルが、不満そうな顔をした。「行きたければ一人で行けばいい」。そう言いたくなるのをこらえ、ドラギエルの大きな体を潜めさせた。
「何も悪いことが起きてないって、俺だって信じたいよ。全部ヘイスの考え過ぎってこともあるかもしれない。そうしたら笑ってやればいいだけだよ。焦っちゃだめだ」
「うん……」
カラットは、いよいよ頭にきて、言った。
「お前、この前から様子が変だ。何を考えているのか、わからないよ。お前の頭の中では色々な考えがあるのかもしれないけど、ちゃんと口にも出さないんなら、俺たちの知ったことじゃない。
でも、お前がぼーっとしてると、ヘイスの邪魔になるんだよ!」
静かに、しかし真剣に、カラットは怒った。ようやく、ドラギエルがカラットを見て、目が合った。
「……誰が敵なのか、知りたい。」
と、言いながらすぐに目を逸らす。
「なんだって?」
「誰がファルトーソーなのか、見たい」
「お前、さっきもそんなことを気にしてたよな。本当は何か、知ってるんじゃないか?」
「……」
それからドラギエルは、黙ったきりだった。静かに動かずにいてくれるのならと、放っておく。
アキリとナバルの声が、しなくなった。
「何か聞こえるか?」
と聞くが、ドラギエルも首を振った。それを信用していいかどうかも、もはや疑わしい。
(ヘイスの声が、一度も聞こえないのはおかしい。何かが起きているはずだ。やっぱりファルトーソーがいて、捕まったとか……)
そのとき、カラットは閃いた。それは、とても素晴らしい思いつきだった。すべてが解決し、何もかもがうまくいく名案だ。
「ドラギエル、洞窟に行こう」
カラットは、もう苛々していなかった。明るい表情で、ドラギエルに向かって言う。
「あの箱だよ! ファルトーソーは“狼王の剣”ってやつを欲しがってるんだ。あれを持ってないと北へ帰れないんだって、ヘイスが言っていただろ? 箱を渡して、船も渡して、帰ってもらえばいいんだよ!」
「……そうだ。それなら……」
銀色の重たい箱は、カラットがナイフを拾った、川の洞窟にある。隠しておこうとヘイスに言われて、拾いのついでにドラギエルが運んでおいたのだ。
「最初からそうすれば良かったんだ。急ごう、ドラギエル」
二人は意気揚々と、洞窟に向かう。
(ヘイスは何もかも守ろうとしすぎなんだ)
カラットは、そう思った。
挿絵はAI生成で出来るだけイメージに近づけたものです。




