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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第90話 理解への一歩



 夜。


 王都の訓練場には、まだ明かりが残っていた。


 カインに指摘を受けた後も、誰一人としてすぐに眠る気にはなれなかった。


 それぞれが、それぞれの力と向き合っていた。



 シアは一人、訓練場の隅に座っていた。


 手には紙とペン。


 目の前には描きかけの魔法陣。


「……」


 カインの言葉が頭から離れない。


 結果が先にある。


 魔法陣が後から現れる。


 そんな魔法の使い方はあり得ない。


 そう言われた。


「結果が先……」


 呟く。


 そして思い出す。


 初めて蝶に触れた日。


 何も分からないまま放った全属性魔法。


 あの時、自分は何をしていた?


 さらに思い出す。


 ゴルグとの戦い。


 ミギドとの戦い。


 あの時だけ現れた魔法陣。


 普通の魔法陣ではない。


 幾重にも重なった箱のような立体構造。


「……」


 無意識に紙へ描いていく。


 だが途中で止まった。


 思い出せない。


 形は覚えている。


 けれど意味が分からない。


「ゴルグさん……」


 ふと昔の修行を思い出した。


『作るものに意味を持たせろ』


『なんのために作る』


『誰のために作る』


『どう使われる』


『そこまで考えろ』


 当時は鍛冶の話だと思っていた。


 剣を作る。


 盾を作る。


 武器を作る。


 そういう話だと。


 だが今なら少しだけ分かる気がした。


「……意味」


 ゴルグとの戦い。


 勇者の剣。


 ミギドとの戦い。


 あの箱型の魔法陣。


 必要だったから現れた。


 そう考えると辻褄が合う。


「でも……」


 答えには辿り着かない。


 ただ一つだけ。


 あれは偶然じゃない。


 それだけは分かった。


 シアは紙へ描かれた不完全な立体魔法陣を見つめた。


「……あの魔法陣は、なんだったんだろう」


 誰にも聞こえない呟きが夜に消えた。



 訓練場の中央。


 カグヤは黙って的を見つめていた。


 消滅。


 自分の力。


 理解しろ。


 自らの手足として考えろ。


 カインの言葉が頭を巡る。


「理解、か……」


「難しい顔してんな」


 振り返る。


 そこにはデントがいた。


 肩に大盾を担いでいる。


「眠らないんですか?」


「年寄りは寝付きが悪いんだよ」


 デントが笑う。


 そして隣へ立った。


 少しだけ沈黙。


 やがてカグヤが口を開く。


「怖いんです」


 デントは驚かなかった。


「消滅が?」


「はい」


 視線は的のまま。


「どこまで消えるのか分からない」


「どれだけ出るのか分からない」


「だから怖い」


 デントは腕を組んだ。


「なら理解しないとな」


「……理解」


「理解しないから怯えるんだ」


 静かな声だった。


「怖いってのは悪いことじゃねぇ」


「でもな」


「分からねぇままじゃ一生怖いままだ」


 カグヤは黙って聞く。


「だから知れ」


「お前の力を」


「何ができて、何ができねぇのか」


 デントは肩を叩く。


「それが第一歩だ」


 そう言い残して去っていく。


 カグヤは一人残された。


「……知る」


 自分の力。


 消滅。


 それは魔法じゃない。


 だから今まで直接放っていた。


 だが。


「もし……」


 魔法陣を使ったら?


 ふとそんな考えが浮かぶ。


 普通なら意味がない。


 むしろ消滅で壊れるかもしれない。


 だが。


 ものは試しだ。


 カグヤは目を閉じる。


 思い出す。


 エリスが使っていた火球魔法。


 単純な構造。


 展開。


 空中に魔法陣が浮かぶ。


「……」


 そこへ消滅の力を流した。


 次の瞬間。


 轟音。


 巨大な火球が生まれた。


 豪炎が夜空を染める。


 一直線に飛翔。


 的へ着弾。


 爆発。


 燃え盛る炎。


 そして。


 炎が消えた後には何も残っていなかった。


 灰だけが舞っている。


「……え?」


 カグヤは目を見開いた。


 魔法陣は壊れていない。


 消滅も消えていない。


 むしろ。


 普通に放つより遥かに扱いやすかった。


「なんだ……これ」


 初めてだった。


 自分の力が少しだけ理解できた気がした。



 その様子を離れた場所から見ていた人物がいた。


 ユキだった。


「……」


 カグヤが何かを掴んだ。


 そんな気がした。


 カグヤは魔法陣へ力を流していた。


 だが。


 ユキの目には別のものが見えていた。


「……あれ?」


 違和感。


 確かに力は流れている。


 けれど。


 全部じゃない。


 魔法陣へ流れ込む力。


 その一部が弾かれているように見えた。


「六割くらい……?」


 完全に通っているわけではない。


 十流したうち。


 四しか使われていない。


 そんな感覚。


 それでもあれだけの威力。


 もし全部流れたら?


「……」


 そこでふと考える。


 自分はどうだろう。


 氷柱。


 氷魔法。


 空間凍結。


 全部当たり前のように使っていた。


 けれど。


 本当に全部通っているのだろうか。


「私も……」


 小さく呟く。


「同じなのかな……」


 夜風が吹く。


 答えはまだ出ない。


 だが確かに。


 ユキもまた、自分の力へ疑問を抱き始めていた。

ご一読いただきありがとうございました。

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します

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