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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第89話 魔導士の過去

「昔、天才と呼ばれた魔法使いがいたの」


 カインはそう切り出した。


 エリスは椅子に腰掛けたまま眉をひそめる。


「昔話って……」


「最後まで聞きなさい」


 軽く睨まれ、エリスは口を閉じた。


 カインは古い本を机へ置く。


 そして静かに語り始めた。


 少年は魔法の天才と呼ばれていた。


 幼い頃に両親を失った。


 悲しくなかったわけではない。


 寂しくなかったわけでもない。


 だが、立ち止まるほど弱くもなかった。


 だから旅に出た。


 自分の力を試すために。


 世界を見るために。


 そして。


 誰にも負けない自信があったから。


 少年は強かった。


 魔法使いとしては異例なほどに。


 仲間を組む必要もなかった。


 同年代の冒険者ではついて来られない。


 即席のパーティーに入っても、気付けば自分だけ前へ進んでいた。


 やがて少年は一人で旅をするようになった。


 それで十分だった。


 自分一人で何でもできると思っていた。


 だが。


 世界は広かった。


 人間と魔族の戦争が始まった頃。


 少年は旅の途中で魔族の軍勢と遭遇した。


 十数体。


 いや、それ以上。


 統率された魔族たち。


 その中心には、一際大きな魔力を放つ魔族が立っていた。


 少年は迷わなかった。


 魔法を放つ。


 炎。


 雷。


 風。


 得意とする魔法を次々と叩き込む。


 だが。


「なっ……!?」


 弾かれた。


 あり得なかった。


 今まで通じなかったことなど無かった。


 少年はさらに魔法を重ねる。


 それでも。


 届かない。


 砕けない。


 止まらない。


 魔族たちの視線が少年へ向く。


 空気が変わった。


 獲物を見つけた獣のように。


 魔族たちが動こうとする。


 だが。


 一人の魔族が手を上げた。


 軍勢が止まる。


 指揮官。


 そう呼ぶべき存在だった。


 魔族は少年を見る。


 そして。


 不敵に笑った。


「なるほど」


 低い声。


「魔法使いか」


 少年は睨み返す。


 魔族は笑みを深くした。


「ならば魔法で相手をしてやろう」


 挑発。


 侮辱。


 少年は怒りに任せて魔力を練る。


 そして放った。


 自分が誇る最高の魔法を。


 結果。


 敗北だった。


 少年の魔法は打ち破られた。


 真正面から。


 最も得意とする魔法で。


 最も誇っていた力で。


 負けた。


 初めてだった。


 どうしようもない敗北を知ったのは。


 身体が動かない。


 魔族が近付いてくる。


 終わる。


 そう思った。


 その時だった。


 一つの影が少年の前へ降り立った。


 轟音。


 魔族の魔法が弾き飛ばされる。


 少年は目を見開いた。


 自分が破れなかった魔法。


 自分が届かなかった力。


 それを真正面から押し返していた。


 その人物は振り返らない。


 ただ前を見る。


 そして。


 剣を構えた。


 強かった。


 圧倒的だった。


 魔族へ向かって駆け出す。


 剣が振るわれる。


 魔族が倒れる。


 また一体。


 さらに一体。


 少年が苦戦した相手を押し返していく。


 その背中はあまりにも大きかった。


 やがて。


 別の人影が現れた。


「無事か!?」


 盾を持った男。


「遅いわよ!」


 魔法使い。


「敵の数が多い!」


 さらに仲間。


 彼らは少年へ声を掛けると、そのまま戦場へ飛び込んでいった。


 少年は呆然とする。


「あの人たちは……」


 盾の男が振り返る。


「勇者パーティーだ」


 当たり前のように言った。


「先頭にいるのが勇者だよ」


 少年は勇者を見る。


 強かった。


 だが。


 無敵ではない。


 余裕があるわけでもない。


 傷も増えている。


 それでも前へ進んでいる。


 魔族を倒している。


 戦場を押し返している。


 一方。


 勇者の仲間たちは苦戦していた。


 連携は取れている。


 だが決して楽ではない。


 少年には分かった。


 敵の動き。


 魔力の流れ。


 戦況。


 全てが見えていた。


 気付けば立ち上がっていた。


 魔法を放つ。


 敵を牽制する。


 味方を援護する。


 魔族の注意を逸らす。


 勇者の仲間たちが動きやすくなる。


 戦況が変わる。


 少しずつ。


 確実に。


 そして。


 戦闘は終わった。


 勇者が振り返る。


「大丈夫か?」


 少年は言葉が出なかった。


 勇者の仲間が笑う。


「助かったよ」


 盾の男だった。


「お前の援護がなかったらもっと苦戦してた」


「今回は勇者より俺たちの方が活躍できたかもしれねぇな」


 冗談混じりに笑う。


 周囲も笑った。


 その瞬間。


 少年の胸に、今まで感じたことのない熱が宿った。


 一人で勝つこと。


 強くなること。


 誰かを超えること。


 そればかり考えていた。


 でも違った。


 初めて思った。


 自分にもできることがあるのだと。


 自分だからできることがあるのだと。


 カインはそこで話を止めた。


 部屋に静寂が落ちる。


 エリスは黙ったままだった。


 カインは静かに問いかける。


「私はね」


「その時初めて考えたの」


 一拍。


「自分にできることは何か」


「自分の得意とすることは何か」


「自分の役割は何か」


 そして。


 エリスを真っ直ぐ見た。


「自分は何を目指すのか」


 静かな声だった。


「ねぇ、エリス」


 エリスの肩が小さく震える。


 カインは微笑んだ。


「アンタは何を目指すの?」

ご一読いただきありがとうございました。

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します

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