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Karmafloria(カルマフロリア)  作者: 十六夜 優
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第88話 それぞれの未熟

 夜の訓練場に、冷たい風が吹き抜ける。


 王都外れの簡易訓練場。


 並ぶのは、シア、ユキ、カグヤ、エリス。

 そして、それを見渡すカイン、デント、ダイの三人だった。


 静寂。


 やがて、カインが深いため息を吐く。


「……はぁ」


 その声音には、呆れが滲んでいた。


「なんだよ急に」


 デントが苦笑する。


 カインは額を押さえたまま、四人を見る。


「修行の段階で、初歩の初歩から見直すべきだったわね」


「え?」


 シアが目を瞬かせる。


「アンタたち、力の使い方が雑すぎるのよ」


 空気が変わる。


 カインはそのままユキへ視線を向けた。


「まずユキ。やってみなさい」


「……はい」


 ユキが前へ出る。


 静かに魔力を流した。


 四本の氷柱が地面へ突き刺さる。


 次の瞬間。


 柱同士を魔力が繋ぎ、白い冷気が広がっていく。


 空気が張り詰めた。


 だが。


「止めなさい」


 カインが鋭く言った。


 ユキが驚いて術式を解除する。


「え……?」


「接続が雑すぎる」


 カインは氷柱を見つめたまま言う。


「ちゃんと繋がってます」


「見た目はね……」


 額に手を当て、呆れたように言う。


「アンタ、自分の魔力を無理やり押し込んでるの」


 ユキの眉が寄る。


「魔法っていうのはね、流れを整えるものなの」


 カインは氷柱へ触れた。


「でもアンタの魔法、流れを捻じ曲げて成立させてる。まさにステインの娘よね……先祖はゴリラかなんかの家系なのかしら?」


「なんですかそれ……」


 ユキが呆れたように返す。


 デントが吹き出した。


「言われてみりゃ否定できねぇな」


「デントさんまで!?」


「普通なら術式崩壊してるわ」


 カインは真顔に戻る。


 ユキは小さく唇を噛む。


 だが、何が悪いのかまでは分からなかった。


「次」


 カインの視線が移る。


「カグヤ」


「はい」


 カグヤが静かに前へ出る。


 黒い魔力。


 空気が軋む。


 次の瞬間。


 振るわれた斬撃が、訓練場端の巨大な岩を呑み込んだ。


 爆発音はない。


 砕け散ってもいない。


 ただ、その部分だけが消えていた。


 沈黙。


 カインは小さく目を細める。


「……言わなくても、分かってるわね?」


「……はい」


 カグヤは目を伏せる。


「消滅はもっと繊細な力。アンタ、全部壊す前提で使ってるでしょ?」


「……」


 カインは優しく微笑みかける。


「せっかく自分の力になったのだから、自らの手足として自由に考えなさい」


 カグヤは小さく頷いた。


 その時、ダイが腕を組みながら口を開いた。


「お前は止める訓練をしろ」


 カグヤが顔を上げる。


「止める……」


「止めることを覚えれば戦術の幅も広がる」


 ダイの声は重い。


 カグヤは静かに拳を握った。


 それが、どれほど難しいことなのかを理解していた。


「次。シア」


「は、はい」


 シアが前へ出る。


 魔力を流す。


 瞬間、複数の魔法陣が空中へ浮かび上がった。


 炎。

 風。

 強化。


 だが。


 カインの表情が変わる。


「……ちょっと待ちなさい」


「え?」


「アンタ、どうやって術式組んでるの?」


「どうって……普通に……」


「普通じゃないのよ」


 カインは近づき、浮かぶ魔法陣を見る。


「本来、魔法陣は計算して構築するものなの」


 指先で術式をなぞる。


「でもアンタの魔法、順番が違う」


「順番……?」


「普通は術式を組んで、魔力を流して、結果が出る」


 カインはシアを見る。


「でもアンタ、“結果”を先に出してるの」


 シアの呼吸が止まった。


「必要な結果が先にあって、それに合わせて魔法陣が後から現れてる」


「……っ」


 脳裏に蘇る。


 蝶。


 力を得た初日。


 制御も分からないまま放った全属性魔法。


 あの時、自分は——。


「……あれ、もしかして……」


 シアの顔が青ざめる。


 カインは静かに言った。


「普通、その組み方で発動なんてしないわよ」


 その声は、研究者のものだった。


「理論上、有り得ない」


 シアは自分の手を見る。


 魔法陣。


 いや。


 本当に、自分は“作っている”のか——?


「最後」


 カインの視線がエリスへ向いた。


「私は?」


 エリスが問い返す。


 カインは数秒黙る。


 そして。


「来なさい」


「……は?」


「アンタだけ別」


「え?」


「いいから来なさい」


「ちょ、ちょっと!?」


 そのまま腕を掴まれる。


「え、待ってください!? みんな!?」


「おー、連れてかれた」


 デントが笑う。


「助けてくださいよ!?」


 シアが苦笑し、ユキが小さく吹き出した。


 カグヤだけが静かに見送っていた。


 カインの部屋。


 本棚。

 積み上がった資料。

 机の上に散らばる魔法陣の書き込み。


 エリスは呆れたように周囲を見回した。


「……なんなんですか急に」


 カインは背を向けたまま、本棚から一冊の古い本を抜き取る。


 少しだけ沈黙。


 そして。


「あんたに、昔話を聞かせてあげるわ」


 静かな声が、部屋に落ちた。

ご一読いただきありがとうございました。

お久しぶりです。

予定では金曜日に毎週投稿で再開予定だったのですが早速遅れてしまいました、、、

ぜひ今後もよろしくお願いします!

誤字などございましたらコメント等含めて教えていただけると幸いです。

よろしくお願い致します

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