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セフィラクロスタ  作者: 梨由利
第一章 最後のピース

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7/15

逃げたんじゃない、戦略的撤退だ

「思い返すだけでも体が疼く。初めてだったよ。正面から立ち会ったわけでも、ましてや姿すら見ていないというのにあそこまで明確に死を感じたのは」


 マルクオットは喜ぶような、あるいは戦慄しているかのような笑みを浮かべる。


「あれはまさにこの迷宮路地の主と言えるだろうな」


 言い終わると今度はこちらを舐めまわすような目で見つめてくる。それこそ、蛇がカエルを捕食するときのような。


「お前、何かを探してるんだろ?ここに来てからずっとそういう動きをしていた」


『何か知ってるんですか!?』


 居ても立っても居られないとでもいうかのようにディノンが声を上げる。ここまで手がかり一つなかったこともあって藁にも縋る思いなのだろう。


 とは言っても偶然俺たちを見かけて襲ってきたやつが運よく俺たちの求める情報を持っているなんて、そんな都合のいい話があるわけがないだろう。


「知っているとも。なんなら教えてやろうか?」


 あったわ、都合のいい話。


 いやいやいや、美味い話にもほどがあるだろう。それにもしこいつの話が本当だとして、どうしてそれを俺たちに正直に話す?その情報を餌に交渉でも仕掛けたほうがよっぽど利口だろうに。


「やけにあっさり話すんだな。話がうますぎるだろ」


「敗者だからな。勝者の言うことには従うさ」


 その様子は嘘をついているような素振りは無かった。信じられないことだが、こいつが情報を持っていることもそれを話すつもりであることも全て真実らしい。


「先に言っておくが俺はお前たちが何を探してここに来たのかは知らない。俺が教えるのはここで失われたものが運び込まれる場所についてだ」


 マルクオットは一拍置くとその場所について話し始める。


「その場所はこの入り組んだ迷宮の地下だ。ここで落としたり捨てたものの大半はそこに運び込まれるらしい」


 マルクオットが言うにはここの地下は何かしらの施設があり、そこにディノンの落とした携帯もあるのではないかとのことだ。


「携帯?ならそこにある可能性は高いだろうな。そういった機械類はこの辺にもよく落ちているがどれも少し目を離せばいつの間にか消えてるんだ。それこそ今言ったように誰かに運ばれるかのように」


 地下施設……よく消える機械類……このままあてもなく探し回るよりはその地下とやらを探したほうがいいだろう。ただ今日のところは一度引き返すべきだろうか。ああそうだ、ディノンをこのまま帰すわけにもいかないし……悪いけど俺の部屋に泊まってもらうか?


 そうして俺が今後の方針を考え、意識をマルクオットから外した瞬間だった。


「甘いな、お前は」


 ついさっきまで倒れていたはずのマルクオットが消えていた。

 どこに行ったのかと周囲を見回すがすでにその姿は無く、しかし声と気配だけははっきりとある。


「お前と話している間に体の麻痺も消えたようだ。今日はこのままさよならといこうじゃないか。次に会ったときこそお前の血を啜れることを期待するよ」


「っ、どこだ!」


「最後に忠告してやろう。俺が死を感じたのもその地下への入口近くだ。精々気を付けるんだな」


 そう言って高笑いすると今度こそ声も気配も感じなくなった。ドローンの探知にも引っかからないようで、今度こそいなくなったようだ。


 なんとなくあいつとはまた会う予感がする。できればこの予感は外れてほしいものだが。









「ただいま」


「アルトさん!大丈夫でしたか!?」


 事務所に戻るやいなやディノンが駆け寄ってきた。


「すみません……。僕が携帯を落としたせいでアルトさんを危険な目に合わせてしまって……」


「気にすんな。これぐらいなら慣れてるよ」


 仕事柄というのもあるだろうが、今日ほどじゃないにしろああいった揉め事はシントエイキスじゃそこまで珍しいものじゃない。まあディノンは今日この街に来たばかりだと言っていたしこの反応も無理ないだろう。


「そうそう。この街、場所次第だけど治安そこまでいいってわけじゃないから。ディノンさんが気にすることじゃないわ」


 そう言いながらレスカも奥から顔を出したかと思うと、通信デバイスをこちらに向け画面を見るように促してくる。そこにはあの迷路のような路地を3Dモデル化したものが映っていた。


「はいこれ。血狂いの言ってた地下施設の入口までの道、マッピングしといたから。全部頭に叩き込んどいて」


「それはいいけど、このマップ一部分空洞みたいになってるぞ。あの辺りにこんな場所あったか?」


 見せられたマップには大きな空白があった。そういう地形というよりはそこだけ不自然に切り取られたような……。


「それなんだけどね、きっとその空白の場所に入口があるんだろうけどそこだけスキャン出来なかったのよ」


「音響装置壊れたんじゃねーの?」


「だったらこんな一部分だけ抜けたりしないわよ。多分だけど入口の場所が見つからないように妨害電波でも飛ばしてるんじゃないかしら」


 まじか。ってことは地下から先は完全手探りで探索しろってことかよ。あの迷宮路地の地下なんて確実に入り組んでるぞ……。しかも地下にあるってことは階層があるだろうから下手すれば地上の倍以上は入り組んでるじゃないか。


「ダメだ……想像するだけで吐き気がする」


「本当にすいません、僕のせいでこんなことになって……。あっ、ご飯まだですよね?よかったら僕作りますよ!こう見えて料理は得意なんです。ここまでしてもらったお礼ってことで」


 その後はディノンの作った料理を食べてから明日に備えてさっさと寝ることにした。

 ちなみにディノンの料理は冗談抜きで今まで食べてきたなかで一番美味かった。



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