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セフィラクロスタ  作者: 梨由利
第一章 最後のピース

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蛇を討つ閃雷

 ひとしきり笑うと、マルクオットはアルトのほうをむき問いかける。


「小僧、お前の名を聞かせてくれ」


「……急だな」


「これは俺なりの礼儀だ。強者には敬意を、弱者には唾を。それが俺の流儀、お前は俺が敬意を表するに値する。それだけのものを見せてくれた」


 大気が震える。マルクオット、否、”血狂い”は歓喜に満たされていた。その笑みは狂気に満ち、見るものの身体を恐怖で強張らせる。


「改めて名乗るとしよう。俺の名はマルクオット。お前の血肉を啜る者だ」


 脳が、本能が警鐘を鳴らす。ここから先は、まさに一手の間違いで命を落とすと。


「アルト=ルペリオス。それが俺の名前だ」


「いい名だ。アルト=ルペリオス、その名と血を俺の身体に刻むとしよう!」


 そう言い終わるやいなや凶刃が迫る。その身をアルトの血で染め上げんとし、今まで以上のスピードと正確さで首を落としにかかる。



 しかし


「……ほう?」


 その刃は届かなかった。

 否、正しくは届いてはいたのだ。狙いまであと数センチばかりのところまでは来ていた。ただ刃と首の間に差し込まれた”それ”によって阻まれたのだ。


「まさか腕一本で止められるとはな。初めての経験だよ」


「ならついでにこれも経験しとけ」


 直後、マルクオットの巨体が宙を舞う。

 受け止めたガンドラをそのままつかみ上へと投げ飛ばしたことでマルクオットもそれに引っ張られたのだ。


「いくら手数があっても掴まれてるなら関係ないだろ?」


 身動きのできない宙に浮かんだことでマルクオットは完全な無防備を晒すことになる。そしてアルトもそれを見逃すようなことはしない。


 剣を腰の鞘に納め姿勢を低くし抜刀の構えをとると、それに呼応するかのようにガンドラを掴むアルトの左手と腰の剣が強い光を放つ。


「駆電【弐式】・鳴蜂!」




 光に思わず目をつむったディノンは、再び目を開けたときに見た光景に目を疑った。


「い、一体何が……」


 そこには電気を帯びた剣を手にするアルトと、恍惚とした表情でたたずむ……


「…………素晴らしい」


 右の肘から先を失い、倒れ伏した血狂いの姿があった。



 ***



 これをくらってみたい。


 半ば無意識にそう思っていた。

 目の前の男……ルペリオスが自分と同じ式持ちだと分かったときはそれはそれは心が躍ったものだ。この広い都市で数えるほどしかないであろう特化装式。今日の獲物だと襲い掛かった相手が偶然その使い手などという偶然がこの先あるだろうか。ないだろうな。


 だから俺はこの出会いを運命だと思うことにした。この出会いに感謝し、骨の髄まで味わい尽くそうと心に決めた。俺のガンドラを掴んで止めるなんて芸当をするやつだ。きっとこの一撃も俺の想像を超えてくれるんだろう。ならば知らねば。これを喰らい、味わい、己の糧とするために。


 だがまともにもらえば意識が飛ぶだろう。そんなつまらない決着は望んでいない。俺が望むのは殺すか殺されるかの二択のみ。気絶して目が覚めたときにはもう終わっていたなどと、想像するだけで吐き気がする。



 だから腕を棄てた。

 重要なのは今この瞬間の命のやり取りを楽しむことだ。生きている限りはいくらでもやりようはあるのだから。


「くらった時点で俺の敗北が決まっていたとはな。起き上がるどころか首を動かすことさえままならん」


「喋れるだけでおかしいんだけどな。普通は麻痺で気絶してるはずなんだが」


「麻痺……やはり電気か、お前の装式は」


「……気づいてたのか」


「くらったときにな」


 最初に剣を抜いたときとさっきの技であきらかに抜刀の速度が変わっていた。おそらくは電磁力の応用なのだろうが、そんなものをまともに使えば腕が吹き飛ぶだろう。

 となると怪しいのはやはり……


「お前の左手のグローブ、それが装式だな?腰の剣はグローブから注意を逸らすためのブラフというわけだ」


「半分正解だな。正しくはどっちも俺の装式だ。二つで一つの特化装式ってわけだ」


 それを聞いた俺の表情は今まで生きてきた中で一番のマヌケ面を晒していただろう。

 二つで一つの装式?全く形の異なる二つが揃って初めて一つの装式になるなど、そんなものは今まで聞いたことがない。


「さて、お前は治安局に突き出すとして……その前に聞いておくことがある」


 剣を首にあてがい問いかけてくる。


「なんで俺を襲った?そもそもどうしてこんなところにいるんだ」


「お前を襲ったのはただの偶然だ……逃亡中の身だからな。最近は控えていたが今日は最初に見つけた奴を殺すと決めていた。……その結果がこのザマだが」


 自分で言っていて笑えてくる。ここまで綺麗な返り討ちも中々ないだろう。


「それとこんな場所にいたわけだが、お前も知っての通りここはかなり複雑に入り組んでいる。おかげで逃亡生活には丁度いい。だが一番の理由は……」


 息を落ち着かせる。あれを思い出すだけでも全身が強張り、汗が吹き出てくる。


「この場所に圧倒的な強者の気配を感じたからだ」








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