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セフィラクロスタ  作者: 梨由利
第一章 最後のピース

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2/15

非日常への入場口

 死を覚悟したその時、その人は現れた。


「いきなり出てきて、なんなんだてめえ?」


「普段なら誰もいなさそうな場所から声が聞こえたんで、気になって除いてみたらどうだ。見るからに襲われてるやつと、そいつを押さえつけて銃を突き付けてるやつ。そりゃ止めるだろ」


「お前がなんでここにいるかなんてどうでもいいんだよ!俺はてめえが誰か聞いてんだ!」


「あいにくだけど、チンピラに名乗る名前はないなあ。それよりさっきも言ったけどそいつのこと放してやれよ。苦しそうだろ?」


 いきなり現れたその人は銃を持った悪漢相手にまったく怯んでいない様子だった。あの人はいったい誰なんだろうか。顔はフードを被っているのでよく見えない。背丈格好は僕と同じか少し高いくらいだし、それほど年は離れていないだろうけど。


「さっきからヘラヘラと…!もういい、見られたからにはどうせ殺さなきゃならねえんだ。このひょろいのより先に、てめえから殺してやるよ!」


「やめとけよ、怪我するぜ?」


「怪我で済ますわけねえだろうが!とっとと死にやがれ!」


 男はそう叫ぶとフードさんに向けて銃を向け引き金を引く。

 弾丸が放たれるその瞬間、僕にはフードの人の左手が光ったように見えた。


「がぁっ!痛てぇ…痛てぇよぉ…」


「だから言っただろ?怪我するって」


「…え?え?」


 何が起こったのか分からなかった。フードさんが撃たれる瞬間左手が光ったと思ったら知らぬ間に男が手を押さえてうずくまりフードさんが僕の目の前に立っていた。


「大丈夫か?見た感じ怪我はなさそうだけど」


「え?あ、はい。大丈夫です…。あの、ありがとうございました」


「こっちから音がしたぞ!逃げられる前に見つけるんだ!」


 フードさんに助けられるのと同時に、さっきの騒ぎを聞きつけたのか男の仲間らしき人がこっちに向かってくる声が聞こえた。


「さっきの奴の仲間か?さすがに多いな…。よし、ちょっと静かにしててくれよ。舌嚙むから」


 フードさんはそう言うと僕を抱えて横のビルに向かって走り出す。ちょっと待ってくれ、この人は何をするつもりなんだ?まさか、まさか僕が考えていることじゃないだろうな!?


「ちょ、ちょっと待ってくださ」


 ビルにぶつかる直前でさっき悪漢が吹っ飛んだときのようにフードさんの左手が光りだす。次の瞬間、僕らは物理法則を完全に無視していた。

 より端的に言うなら、”壁”を走っていた。ついでにフードさんの忠告通り舌も噛んだ。








 壁を駆け上がるという現実離れした体験のおかげで追手から逃げられた安心と、こんなことができるフードさんはいったい何者なのかという疑問で頭がいっぱいだった。


「い、生きた気がしない…」


「悪かったって。時間が無かったんだ。あのままあそこにいたら二人ともさっきの連中に袋叩きだったぜ?ほら、下見てみろよ」


 フードさんに言われて先ほどまで自分がいた裏路地を覗いてみると僕を追いかけていた人たちがどんどん集まってくるのが見えた。あのままあそこにいたらフードさんの言う通り捕まっていたかもしれない。それどころかさっきのように殺されていてもおかしくない。もしフードさんが助けてくれていなければ今ごろは死んでいたと思うとゾッとする。


「あの、さっきは助けてくれて本当にありがとうございました」


「いいよ気にしなくて。俺も無関係ってわけじゃないし」


 無関係じゃない?いったいどういうことだろう。もしかしてフードさんは下の連中の仲間で僕を助けて味方だと思わせてから殺すつもりだったのか?もしそうだとしたら今この瞬間にも殺されたっておかしくない。なによりここはビルの屋上だ。なんてことだ、助けられたと思ったら逆に逃げ場のない場所に連れてこられていたなんて。


「今度こそおしまいだ…。僕の人生は今日までだったのか…」


「なんか勘違いしてるみたいだけど…。俺は別に下のやつらの仲間じゃないよ。むしろその逆だ」


「こんなことならもっと自分に正直に生きてくるんだった…って逆?」


「ああ、俺はあいつらを尾行してたんだ。あいつらの取引現場をおさえるためにな」


 そういえば僕があいつらに追い回されることになった理由も何かを受け渡しているのを見てしまったからだった。見られて困るようなものを持っていたということだけどそんなものを扱うような連中を尾行するなんてフードさんはいったい何者なんだろう。


「奴らがどこを根城にしているのかを知るために隠れて様子を見ていたんだけど、そこにいきなり君が出てきたときは驚いたよ。しかも裏路地を滅茶苦茶に逃げ回るから見つけるのに苦労したよ。この街の裏路地は迷宮って呼ばれるくらい入り組んでるから」


「あ、あの。さっきの壁走りと言い、尾行のことといい、助けてくれた人にこんなこと言うのは失礼なんですけど…あなたいったい何者なんですか?」


 ずっと気になっていた。助けてもらったときに一瞬で目の前に移動したときやときどき光る左手のことも、どう考えても普通の人じゃない。もしかしたら下の連中よりもっと恐ろしい人なんじゃないだろうか…。


 そんな僕の不安なぞお見通しとでも言うかのようにフードさんは笑みを浮かべた、ような気がした。フードで表情はよく見えないからそう思っただけだけど。


「ああ、悪い。まだ名乗ってなかったな」


 そう言うとフードさんは今までずっとその表情を隠していたフードを外し、改めて僕に向き合った。


「俺はアルト、アルト=ルペリオスだ。職業はそうだな…便利屋、ってところかな」

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