救いの手はだいたい予期せぬときにやって来る
突然だが、僕、ディノン・ポットは今人生最大の危機に直面している。
思えば、今日は朝から散々だった。
世界で最も発展した場所、世界中のあらゆる叡智が集まる都市等……様々な異名・噂が飛び交う街、科学技術研究都市”シントエイキス”。
ひょんなことからそんなすごい街で過ごすことになった僕は、引っ越し作業もほどほどにして、これから始まる新生活に思いをはせつつ近所を散策していたのだが……ガラの悪い人たちに因縁を吹っ掛けられたり、急いでその場から逃げ出したら今度は土地勘がないせいで入り組んだ路地に迷い込むなどで新生活一日目から散々な目にあった。
でも、なにより不運だったのは…
「おい兄ちゃん、いつからそこにいた?」
路地を道なりに進んだ先で見るからに怪しい人たちが何かを受け渡しているところに出くわしたことだ。
「う、うわあああああ!!」
「おい待て!ちっ、お前ら追え!逃がすんじゃねえぞ!」
それからはもうとにかくがむしゃらに走り続けた。捕まれば間違いなくろくな目に合わないだろう。だいたい僕が何をしたっていうんだ、ただ引っ越してきた街を散策してただけじゃないか。今日は間違いなく人生最悪の日だ…。
それからはとにかく必死だった。追いかけてくる人たちに見つからないよう祈りながら迷路のような路地をひたすら進み続けてなんとか人通りの多い場所に出られそうな道を見つけた。
「よかった…。あの人たちに見つかる前に早く逃げなきゃ…」
「やっと見つけたぜ。手間かけさせやがって」
表の通りに出ようと踏み出した瞬間後ろから肩をつかまれた。何かの間違いであってほしいと願いながらおそるおそる振り返るとそこにはさっき僕を捕まえるよう呼び掛けていた男の人がいた。
「だ、誰か助け「おっと叫ぶんじゃねえぞ。人を呼ばれたら面倒なんでな、少しでも怪しいまねしてみろ、その瞬間てめえの頭はバンッだ」
僕の口をおさえながら男は懐から取り出した銃を突き付けて脅してきた。こうされてはどうしようもない、僕は震えながら頷くので精いっぱいだった。
「た、助けてください…。僕たまたまあそこにたどり着いただけなんです。何も見てないですしあなたたちがいたことも誰にも言いません。だから…だから助けてください!」
「そういうわけにはいかねえんだよ兄ちゃん。あんたが誰にも言おうが言わなかろうが関係ないんだ。あそこに俺たち以外の誰かがいて、それを見られたってのが問題なんだ。まあ運が悪かったと思って諦めるんだな」
「そんな…」
恐怖でおかしくなりそうな頭で必死に命乞いをしたがそんな僕の望みはあっさりと打ち砕かれた。諦めろって言ったってそんなのあまりにも理不尽じゃないか。
「だ、誰か!死にたくない!誰でもいいから、僕を助けてください!!」
「てめえ、騒ぐなって言っただろ!」
男は僕が助けを求める声をあげたことに腹を立てたのか今度は口をおさえるだけにとどまらず地面に僕の身体を押さえつけてきた。その間も僕を助ける誰かはやってこなかった。どうやら僕の助けを求める叫びは残念ながら誰にも届かなかったらしい。僕を押さえつけている男は今にもその手にある凶器で僕を撃ち抜かんとする勢いだ。
人はどうやら恐怖が振り切れると逆に冷静になれるらしい。さっきまで恐ろしくてたまらなかったというのに今はやけに頭がすっきりしている。もうどうにもならないと僕の本能が悟ったのだろうか。
「てめえが悪いんだぜ?おとなしくあそこで捕まってればまだ死なずに済んだかもしれねえのによぉ!」
男が引き金に指をかけ、僕は迫りくる死に覚悟を決めた。
その時だった。
「ちょっと待った。その手、放してもらおうか」
唐突に、救いの手はやってきた。




