鋼に宿るは鉄の心⑤
通路から大量の実験体が飛び出す。地上でアルトが遭遇した犬の他にも多くの動物がおり、全て体の一部が機械にされていたり中には動物同士を混ぜ合わせたキメラとも言える存在もいた。
息つく暇もなく現れた次の敵に対処すべくアルトは立ち上がろうとするが出来なかった。
(動けねえ……!)
駆電による身体強化、その中でも思考加速は体にかかる負荷が極めて大きいいわば諸刃の剣。そんな力をこの短時間で多用した代償が今やってきたのだ。
今アルトの体は立つことはおろか剣を握ることもできない状態になっていた。
「おーおー牙剝き出しで睨んじゃって……そんな体にされても腹は減るんだな」
唸り声をあげながら、身動きのできないアルトの周りを実験体達が取り囲む。その目は餓死寸前のときに目の前にご馳走を差し出された猛獣のそれだった。
『さようなら、愚かな侵入者君』
「死んだら化けて出てやるよ」
そのやり取りが合図かのように実験体は一斉にアルトへ襲い掛かる。もはやこれまでと、アルトが死を受け入れたときだった。
一陣の風が吹き、鮮血が舞う。
『バカな!?』
「……まじか」
そこに立っていたのは、剣を握り確かな意思を宿した目のリアシェティルだった。
これまでの戦いで無視できないダメージを負ったはずの竜は、しかしまるで衰えを見せない剣筋で目の前の敵を蹴散らしていく。
アルトを取り囲んでいた改造獣たちは、それから数分もしないうちにその全てがリアシェティルによって撃破された。
敵を全て倒すとリアシェティルはアルトに向かい立つ。
「なんで……」
アルトはなぜリアシェティルが自分を助けるようなまねをしたのか分からなかった。先ほどまではリアシェティルとしての意識が無い状態だったとしても、自分を殺しにかかった相手をなぜ助けたのか。その理由が気になった。
アルトの問いかけに対し、リアシェティルは言葉を紡がなかった。ただアルトを見つめていた。
アルトはその目を見て理解した。
リアシェティルは自分との決着を望んでいると。ズークの介入によって剣と剣の対話は一度中断された。このまま侵入者とそれを抹殺する兵器としてではなく、剣士として戦いたいのだとその目は語っていた。
『リアシェティル!このポンコツが!もういい、お前は今すぐに廃棄処分してや』
言い切る前にスピーカーが切断され邪魔者がいなくなる。今この場にいるのは二人の剣士だけだった。
「こいよ、リアシェティル。もう邪魔はいない……俺とお前、今度こそ決着を着けよう」
片や身体強化で体を無理やり動かしている死に体。片や片腕を無くし、装甲も剝がされ核が露出した竜。
相対する二人の剣士。互いに剣を構え、目の前の相手を見据える。
「……」
『――』
数秒の睨み合いを経て先に動いたのはリアシェティルだった。その動きはこの戦いで幾度となく繰り出された神速の居合。
それを見たアルトはショート寸前まで酷使した脳を更にしばいて現状の最適解を叩き出す。
"最速のカウンター"
それがアルトの出した答えだった。
再度思考加速を発動。さらに並行して身体強化を、どちらも出力最大での同時使用。
今までこの二つをこれほど長時間、しかも最大出力で稼働したことはなかった。
次の瞬間には脳が焼き切れ、全身の筋繊維がズタズタに引き裂かれてもおかしくはない。
しかし
今のアルトにはそんなことはどうでもよかった。
あるのは一つ。今目の前に立つこの剣士に勝ちたいという思いのみ。
『――』
そしてそれはリアシェティルもまた同じだった。
互いに思考を研ぎ澄まし、構える。
この一刀に己の全てを乗せ、相手に示すために。
「駆電【弐式】……」
『【龍……』
一瞬。しかし互いにとっては何十手にも及ぶ剣の読み合い。それももはや意味を成さなくなった。
「鳴蜂・三速!!」
『星】!』
電撃と神速。損傷が激しかったのか、あるいは極限状態での覚醒か、二つの剣は同じ速度、同じ弧を描きながら交差する。
一瞬の攻防。その刹那が二人の戦いの決着を告げる。
「神速の一太刀、見切ったり……ってな」
剣が砕け、雷光が閃く。それは神速の域にまで至った居合が、竜が人に敗れ去ったことの証明だった。
『――見事』
竜はその一言のみを発すると動きを止めた。それは訪れるはずのない賛辞の言葉だった。今までのようなシステムから発せられたものではなく。正真正銘、リアシェティルという一つの意志から贈られたものだった。
「リアシェティル……」
アルトの呼びかけに竜が応じることはなかった。それはリアシェティルという存在が終わりを告げた事実を示していた。
「……っ」
戦いが終わったことで緊張の糸が途切れたのか、これまでの戦いによる疲労感がアルトに襲い掛かる。今にも倒れそうになる体を何とか奮い立たせ、もう一度リアシェティルのほうを向く。
その瞬間だった。
「……あ?」
乾いた音が空間に響き渡る。直後胸に、心臓のある位置に違和感を覚える。反射的に胸を押さえると液体に触れた感覚が手のひらに広がる。
それは血だった。
先ほどの乾いた音の正体は銃声だったのだろう。自分が胸を撃たれ血を垂れ流していることを自覚したとたん、痛みがやってくる。
押さえる胸からとめどなく赤に染まった命が零れ落ちる。次第に指先の感覚が薄れその場に力なく倒れてしまう。
さらに不運は続く。地に伏したアルトの耳に遠くからかすかな音が伝わってきた。その音は次第にこの広場へと近づいている。
「この……音は……?」
アルトが音の正体を考えるのと同時に、答えが現れる。
(爆発……!?)
その音はこの地下空間で起こった爆発によるものだった。爆発はさらに激しさを増し、アルトのいる開けた空間は爆発で生じた炎に包まれる。
(くそっ、このままじゃ焼け死ぬか失血死の二択だ! )
薄れゆく意識のなかで生き残る道を模索するアルトだが、運命はアルトに微笑むことはなかった。
それは、倒れたことで地面に耳をあてる体勢になっていたから辛うじて聞き取れた異音だった。
(今の音……まさか!)
それは爆発とは別の、床から聞こえたもの。爆発の影響か、先ほどまでの戦いによるものなのか、それは現象としてアルトの目に映る。
次の瞬間、アルトの体は宙に晒される。今まで体を預けていた床が音を立てて崩れていく。
「ちくしょう……!」
そうして悪態をつきながら眼下に広がる暗闇に向かって落ちるうちにアルトの意識は途切れていった。
1週間以上も投稿が空いてしまい申し訳ございませんでした……!
申し訳ついでにご報告しますが当分の間も投稿が空くかもしれません。なぜなら書き溜めておいた分が切れたから。
これからについてですが、第一章はエピローグも含めて1、2話で終わりそうです。第一章の終わりまではなるべく間隔を空けずに投稿できるといいなあ……。そのあとはまた1週間ほど書き溜め期間とさせていただきます。
改めましてここまで読んでいただきありがとうございます!




