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「さて、とうとう森を抜ける訳だが…お前達はどうするんだ?」
森を移動する間、ずっと護衛よろしく付いてきてくれた狼達に、僕は訪ねた。
普通であれば、こんな問いに野生の狼達が答えるはずはないのだが、この数日間で分かった事の一つに、こちらの言う事を理解し、それに対する行動をする事が出来るだけの知能があると言う事だった。
もちろん、森から出ると言う事は、彼等の縄張りから出る事を意味する。
しかも、これから先は平原が続く…つまり、隠れる場所が殆ど無いと言う事。
格上の相手や魔物に見付かれば、それだけで命の危険を晒す事となる。
ウタカンへ行く時も、彼等は森から出る事を嫌い、森でお別れしているのだから、おそらくはそんな危険を冒さないとは思うのだが…。
「ガウガウッ!」
「ガウッ!?」
「ガウガウガウッ!」
「ガガウッ!」
彼等の言葉は、残念ながら僕には分からないが、壮大な話し合いが行われているのだろう…既に数十分が経っているにも関わらず、未だに話し合いが終わらない様で、ず~っと『ガウガウ』と彼等の話し合いが続いているのである。
それでも、僕は彼等の意思を尊重するかの様に、大人しく待つ事にしていた。
実を言うと、本当は、この森を一人で抜けるつもりだったのだ…が、どう言う訳か、彼等の内の一匹に、一人で行くなと呼び止められたのだ…多分。
個人的には、ウカタンへ向かう時の事もあり、森から出る時は一人だと覚悟を決めていた為、その行動には予想外で驚いた。
まぁ、単に僕が自分達から逃げない様に…と言う事なのかもしれないが、それでも噛んだり攻撃するなどの行為がないのだから、案外、それなりに大事に扱われているのだろう。
それから更に待つ事、数分…話し合いが決定した様で、静かになった。
「で、こうなった…と?」
「ガウッ!」
「えっと…本当に良いんだよね?」
「ガウッ!」
いや、お前…元気よく『ガウッ!』って返事してるけど、他の奴らは納得してないみたいだぞ?
しかも、よく見たら僕に付いてこようとしてるのって、彼等の中では、紅一点、メスの狼じゃないか…。
そりゃまぁ、姉だか妹だか知らないが…大事な家族が、僕なんかに付いてくるとか気が気ではないだろう。
にも関わらず、彼女(?)は、我関せずと言うかの如く、僕の横に座って知らんぷりをしている。
で、肝心の兄弟たちは、何故か、僕に説得しろと言わんばかりに、悲しそうな目を向けてきている訳で…。
「なぁ、やっぱり、もう少しちゃんと家族達と話し合いをだな…。」
「ガルルルル…。」
「………いえ、何でも無いです。」
ヘタレと言う事なかれ、正直、彼女を怒らせるのは得策ではないのだ。
なにせ、この数日の間、いろんな事の決定権は彼女にあると言って良かった。
彼女が白と言えば黒でも白くなるかの如く、何かある度に彼女が決めていた。
もちろん、他の狼が彼女に反発する事も稀にあったが、その際は、力ずくで従えた。
そんな場面を見ているからか、彼女を怒らせるのは得策では無いのだ。
「でもまぁ、そこが可愛い所もあるんだけどな…。」
「「「「ガウッ!?」」」」 「キャンッ!?」
「えっ!?」
急に彼等が驚いた様な声を上げたのに驚き、僕も声を上げてしまう。
特に、僕の隣にいた彼女なんて、悲鳴に近い声だった。
一瞬、尻尾でも踏んでしまったか?と思ったくらいだ。
まぁ、その場を動いていないのだから、それは無い…と、直ぐに分かったので問題はない。
そう、問題は無いのだが…。
「もしかして…声に出てた?」
コクコクと、無言で頷く狼達が四匹、それと僕の横で、顔を隠す様に伏せている狼が一匹。
どうやら、心の中で思っていた事を、つい、独り言の様に声に出してしまった様だ。
あちゃ~…と、思ったが、既に後の祭りである。
ただまぁ…隣で伏せている彼女の尻尾が嬉しそうに揺れているのが、せめてもの救いだと思ったのは内緒である。
†
あれから彼女が落ち着くのを待って、僕達二人(?)は森を抜けてウッペブへ向けて、歩みを進めた。
もちろん、他の兄弟達にはドックフードを、お土産として、特殊な袋にいっぱい入れて持たせている。
なお、特殊な袋と言ったが、詳しくは知らないけど、一時期、話題になった…土の上に置いておけば、そのまま土に帰る事が出来るとされているビニール袋(?)である。
僕がスキルで創り出した物の為、任意で消す事が出来るのだが、もし彼等が移動中に消した場合、その場にドックフードが落ちてしまい、運ぶ事が困難になる。
そうなれば、一部は食べる事が出来るだろうが、安全の為に、大半を諦める事になりガッカリするのが目に見ている。
そんな事を避ける為、任意で消さなくても、自然に帰る事の出来る材質を選んだのだった。
「それにしても、本当に遠いな…。」
「ガウ。」
王都の側を通る時は、万が一を考え、少し警戒しながら川沿いを歩いているのだが、トラブルは何もなかった。
それに関しては良かったのだが、一日が経ち、二日が経ち…それでもまだウッペブに辿り着かないのである。
まぁ、距離にして50km程らしいのだが、平地のと山道では勝手が違う。
山道を数km歩くだけでヘトヘトになるし、周囲の警戒も必要だ。
途中から、人目を避けるのを止めて、道沿いを歩いているにも関わらず、一向に辿り着けないウッペブにイラつきを覚え始めていた。
だが、だからと言って他の人や物に当たる訳にはいかない。
「あ~ぁ、都合よく馬車とか通らないかな…。」
「………。」
「じ、冗談だって…。」
「……ガゥ。」
そりゃ確かに馬車に乗せて貰えるなら有り難い事だが、その場合、彼女を乗せてくれるか…と聞かれたら、おそらく答えはノーである。
いや、それ以前に、直ぐに攻撃される可能性もある。
そんな危険を負う位なら、こっそりと二人で歩いた方がマシと言う物である。
そして、しばしの休憩をとり、再び歩きだして一時間が経過しようとした時の事。
少し前から、彼女の様子が可怪しく感じていたのだが、その理由が分かった…僕の鼻に、硫黄の匂いがしてきたのである。
聞いた話では、ウッペブはダンジョンのある街で有名ではあるが、もう一つ有名な物があった。
それは『温泉』があると言う事。
その街の住人は、いつでも温泉に入り放題だったのだ。
つまり、この硫黄の匂いがすると言う事は、もう少しでウッペブの街に着くであろう事を意味していたのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
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