13
「降りろ!」
バラ団長にそう命令されて、馬車から降りる俺。
しかし、そこは俺が何度も通った御屋敷ではなかった。
「こ、ここはいったい…。」
簡単に言うなら、廃屋…と言うのが適切だろうか?
俺の眼の前にあるのは、ボロボロに朽ちている家があるだけだった。
「見ての通りだ。」
いやいやいや、『見ての通りだ』じゃねーよ!見て分かるのは廃屋ってだけだ。
それ以前に、ホシガーリ男爵が俺を呼んでいたんじゃなかったのか!?
それとも、このバラ団長は、こんな襤褸屋に、ホシガーリ男爵がいるとでも言うつもりなのか?
しかし、今回ばかりは、こちらが間違っていた。
「こんな夜更けに、悪かったな…。」
そう、こんな襤褸屋に、ホシガーリ男爵がまさかの登場である。
「あ、いえ…ホシガーリ男爵様のお呼び出しとあらば、いつでも…。」
「ん?私が言ったのは、バラ団長にだが、何故、貴様は口を開いているのだ?」
「……え?」
ホシガーリ男爵の口調は冷めたもので、いつもとは違い、そこら辺に落ちている石でも見るかの如く、無機質な視線を向けてきた。
そのあまりのギャップに、俺は内心、冷や汗が止まらず混乱する。
だが、まだまだホシガーリ男爵のターンは終わらない。
「さて、ピンハネよ…何故、貴様がこんな場所に連れてこられたか分かるか?」
「い、いえ…突然連れてこられたので、私には何がなんだか…。」
正直、何がなんだか…である。
そもそも、商談が上手くいき、気持ちよく寝ようとしていた所、急に連れてこられたのだ。
分かれと言う方が酷な話だと思う。
しかし、理由はどうであれ、これ以上、ホシガーリ男爵を怒らせる様な事だけはしない方が良いのだけは分かる。
で、あるなら、今まで以上に腰を低くして対応しなければならないだろう。
「ふむ、まだ白を切るのか、それとも本当に分かっておらぬのか…。
貴様が、こんなヤツだと知っていたら、御用聞きなどにしなかったのにのう…。」
まったく見に覚えがないのだが、ホシガーリ男爵、激おこプンプン丸である。
「も、申し訳ありません!」
こうなると、俺に出来るのは謝る事だけである。
「ほほぅ…謝ると言う事は、罪を認めると言うのだな?」
「あ、いえ…そうではなくて…その…いったい、何のことでしょう?」
ダメだ、このままでは知らない罪を着せられてしまう。
そう危惧した俺は、更に怒りを買うのを分かっていながら、何を怒っているのか聞いてみた。
「……本当に、分からっておらぬのか?貴様が私に売りつけたトイレットペーパーの事だ!」
「さ、さようでございますか…ですが、アレ程の物はそうそう手に入らない物ですので…。」
「ほぅ…だから、大銀貨一枚で手に入れた物を、金貨一枚で売りつけた…と、貴様はそう言うのだな?」
「め、滅相もありません!誰がそんな嘘をッ!?」
ど、どう言う事だ?この事は、俺しか知らないはずなのに…。
いや、待てよ?あの取引の場には、俺の他に、あのモブと言うヤツと、召使いのオジーがいたはずだ。
まさか、そのどちらかが?だが、あの者達の与太話を、ホシガーリ男爵が信じるだろうか?
否、そんな者の戯言より、長年付き合ってきた俺の話を信じるに違いない!
「もしやッ!?私を恨んでいる者が、ホシガーリ男爵に嘘を吹き込んだのではッ!!」
決まった!コレで、ホシガーリ男爵が俺の事を信じてくれるはずだ。
だが、ホシガーリ男爵は返事の代わりに、俺の前に何かを投げてきた。
『ポン、ポン、ポン…。』
それが何か気になって手に取る。
何やら知っている物の様だが、それよりも更に質が良い様に思える。
と言うより、この良い匂いはいったい…。
「ピンハネよ、それが何か分かるか?」
「は、はぁ…トイレットペーパーの様に思われますが、これはいったい…。」
「これはいったい…とは、妙な事を言う。
貴様が今言ったではないか、トイレットペーパーと…な。」
「し、しかし、私はこんな物を見た事はは無いのですが…。」
「ほほぅ…では、貴様が私に売りつけたトイレットペーパーならどうだ?」
「え、えぇ…それなら、よく存じています。」
こんな上質なトイレットペーパーは知らないが、俺が売ったトイレットペーパーであれば分かる。
何だったら、俺の鞄にも一つ入っているくらいだ。
「よく存じている…か、つまり貴様は、『平民用』のトイレットペーパーと知っていながら、この私に高く売りつけたと認めるのだな?」
「………はぃ?」
俺が売ったトイレットペーパーが平民用とは、コレ如何に?だ。
「認めたな?貴様、いくら珍しい物に目が無いとは言え、よくもこの私を謀ってくれたな!」
「い、いえ、決してその様な事はッ!?」
しまったッ!?聞き返すつもりで『はぃ?』と言った台詞が、罪を認める返事として受け取られてしまった。
だ、だが、まだだ…まだ、挽回するチャンスがあるはずだ…たぶん…。
「それで?残りは何処へ隠した?いくら平民用とは言え、良い物である事に代わりはない…。
よって、今すぐ残りを返し、再度、適正価格で計算し直すのであれば、今回の事は不問にしてやろうではないか…さぁ、残りは何処へやった!正直に答えよ!!」
「の、残りですか?そ、それでしたら、鞄の中に一つと、馬車に六つありますが…。」
まさか、全部売らず七つほど自分用に確保していたのを気付かれていたとは…。
「…どう言う事だ?私の屋敷から九十五個も奪っておきながら、残りが七つしか無い…だと?」
「え?何ですか、その九十五個とは…?」
「貴様が私に売った百個の内、九十五個が消えたのだ!
それも知らぬと言うつもりか?第一、貴様の従者に聞いた所、『商品を運び入れたのは私達ですが、全てピンハネ様の指示ですので、わかりかねます。ですので、何かあれば、ピンハネ様にお尋ねください。』と言っておったぞ!」
…確かに、召使い達には、余計な知恵を与えぬ為に、指示は全てを俺が出していた。
だが、全てを管理していた訳では無い。
そもそも、既に取引が済んでいるのだから、無くなったのであれば、それはそちらの責任ではないのだろうか?
「し、しかし…トイレットペーパーが消えたのは、こちらの所為では無いのでは?
そもそも、無くなったと言うのであれば、泥棒が入ったと考えるのが無難なのでは無いでしょうか?」
言った、言ってやった!とっさに口から出たデマカセではあるが的を射たと思う。
「なるほど、つまり貴様は、こう言いたいのだな?
珍しい物好きの私の所に、偶然、トイレットペーパーを大量に売りに来た貴様は、それを私に高く売りつけた…と。
しかも、その事を知らずに購入した私の屋敷に、偶然にも泥棒が入り、偶然、トイレットペーパーを目にした泥棒が、偶然、九十五個ものトイレットペーパーを、誰にも見付かる事もなく盗み出した…と、そう言っているのだな?」
「い、いえ…決して、その様な事は…しかし、そう考えるのが自然かと…。」
自分で言っておいて何だが、まずあり得ない話だと思う。
第一、貴族の屋敷に盗みに入る事自体、リスクが高い。
しかも、初めて買ったばかりの物を、ピンポイントで盗んでいくだと?
もし、俺がその泥棒だったら、そんな物を盗むくらいなら宝石やらを盗んでいくと思う。
そもそも九十五個もの量を運ぶとなると、時間が掛り過ぎる。
当然、見張りもいるのだから、絶対に見付かるであろう。
「では、その後にか偶然、『貴族用』のトイレットペーパーをお近付きの印に…と、大銀貨一枚で売った者が現れ、平民用との違いを説明してくれた事も、貴様は、ただの偶然だと言うのだな?」
「……は、はい。」
おそらく、貴族用のトイレットペーパーを売った人は、モブの関係者であろう。
そう考えると、平民用と知らずに売ってしまった事に付いては、運がなかった…としか言えない。
しかし、だからと言って、商品が消えた事とは別の話…だ。
「そうか…貴様も、そこまで白を切るのであれば、仕方がない…。
バラ団長、ピンハネを不敬罪で処刑しろ!」
「ハッ!」
不敬罪…平民が貴族を侮辱した時などに、貴族が自信の判断で裁く事を許される法の一つである。
ホシガーリ男爵の命を受け、バラ団長が腰に差している剣を『シャラーン!』と抜き放ち、ゆっくりと俺に近付いてくる…所謂絶対絶命のピンチである。
そして、バラ団長は剣を高く掲げると、俺に向けて振り下ろしたのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
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