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『コンコン』
と、そろそろ寝ようとしていた俺の部屋のドアがノックされる。
「ったく、せっかく人が良い気持ちで寝ようとしていたと言うのに、いったい誰が邪魔したんだ!」
宿に帰った俺は、先程の取引に気を良くした事もあり、その代金である金貨を肴に、強めの酒を飲んでいた。
その所為もあるのだろうか?既に夜も更けて来た事もあり、ベッドに入ったが早いか、寝始めるが早いか…と言うタイミングで部屋の扉を叩く音にイラつきを覚え、つい愚痴をこぼしてしまった。
とは言え、よくよく考えてみれば、こんな夜更けに部屋を訪れると言う事は、よほどの用事があるのだろう。
まぁ、火事とかのトラブルでなければ、だが…。
「こんな夜更けに、いったい誰だ!」
扉越しの為、声が聞こえ辛い事もあり、少し大きめ…怒鳴り気味で、相手に問う。
一瞬、不審者か?と考えたが、この手の宿屋であれば、よほどの事が無い限りは、宿泊している者の部屋を、絶対に教えない様に徹底的に教育している。
その為、不審者だとは考えられず、別の可能性を考え、扉の相手に確認をしたのである。
「夜分遅くにすいません、番頭でございます。
実は、ピンハネ様に、急ぎお会いしたいと、『バラ団長』がお見えになっておりまして…。」
と、こんな夜更けに訪ねてきた理由を、番頭が歯切れの悪い口調で告げた。
しっかし、俺を訪ねてきたのがバラ団長だと?
俺の記憶が確かなら、バラ団長と言うのは彼はホシガーリ男爵の所の騎士団長だったはずだ。
と言う事は、ホシガーリ男爵からの使者…で間違いないはずだ。
だが、仮にそうだとしても、当然の様に疑問は残る。
とは言え、相手はホシガーリ男爵の使者として、この場に来ているのであれば、貴族の使いと言う事。
そんな相手に不遜な態度を取る訳にはいかない事は、否が応でも理解しているつもりだ。
「こんな夜更けに、バラ団長が、俺に用があると言うのか?
明日、こちらが伺うのではダメなのか?」
「わ、私どもには何とも…もしよろしければ、私が聞いて来ましょうか?」
貴族からの使者を待たせておくと言うのは、普通であれば、あまりよろしくない事ではあるのだが、夜遅くであると共に、ここが高級宿屋と言う事もあり、ある程度は融通が利く。
その為、番頭が動いているのだろう…と推測する。
しかし、そんな番頭の配慮も、無駄になる瞬間が訪れた。
「それには及ばぬ!話が主、ホシガーリ男爵からの命令は『直ちにピンハネを捕らえて来い』であるからして、ピンハネの意見など、関係ないのであーる!」
と、部屋の外から理不尽な台詞が、大きな事で聞こえてきた。
と、言うか『捕らえて』…だと?そして、その疑問を口にする前に…。
『ドガシャーン!』
その音が示す様に、俺の泊まっていた部屋の扉は、外から内へと吹き飛ぶ様に破壊された。
「と、扉を壊さないでください、バラ団長ッ!!」
扉を壊して入ってきたのは、ホシガーリ男爵の所の騎士団長、バラ団長だった。
なお、番頭が涙目になりながらバラ団長に苦情を陳述する。
「ハッハッハッ、これはすまぬ事をした…私としては軽く押したつもりだったのだが…な。
よもや宿屋の扉が、ここまでやわだとは思わなかったのだ。」
「さ、さようでございますか…ですが、ここの扉は引いて開ける扉なのですが…。」
「何?そうだったのか…しかし、知らぬとは言え壊れた物は仕方ないであろう?
だが、もちろん壊した物は、ちゃんと修理代は払う故、お主は何も心配するな!」
「は、はぁ…。」
番頭も言ったが、ここの扉は、部屋に入る時には手前に引く事で開く入る扉である。
故に、正しく扉を開けたなら、間違っても部屋の中に扉が飛んでくる事はない。
つまり、何が言いたいかと言うと、このバラ団長は自分の筋肉を見せ付けるかの如く、引いて入る扉を、力任せで押して入った…と言う事なのだ。
「おぉ、いここに居たか、ピンハネよ!探したぞッ!!」
そんな失敗など無かったかの様に俺に声を掛けてきたバラ団長…少しは空気を読めと言いたい。
「そ、そうですか?して、こんな夜更けに私めに何の用でしょうか?」
騎士団長の癖に、なんとも失礼極まりない男だ。
しかし、それでも相手の身分は、俺よりも上である為、大人しく従うのが一番被害が少ないと思われる。
「何の用か…だと?私が知るはずないだろうが!
私は、ホシガーリ男爵の命で、貴様をホシガーリ男爵の元へ連れて行くだけだ!」
「そ、それならば、明日の朝、そちらに伺うと言う事でよろしいのでは?」
「ふむ、確かに貴様の言いたい事は分かった。
しかし…だ、私が受けた命は『直ちにピンハネを捕らえて来い』なのだ。
つまり、直ちにである為、私が朝まで待つ事は無いのであーる!」
あまりにも一方的な話である。
つまり、こちらが準備して行く暇すらも与えないと言っているのだ。
とは言え、ホシガーリ男爵が呼んでいる…と言う事は、先程のトイレットペーパーの件だと推測出来る。
捕らえて来いと言った、バラ団長の台詞には不安が残るが、アレは自分で使っても良い物だと思う。
もしや、他の貴族の方達に、売らない様に釘を指すつもりなのかもしれない。
もし、そうであるなら専売契約を結び、さらなる利益を手に入れるのではないだろうか?
そんな自分の都合の良い夢に、胸を踊らせながら、俺はバラ団長に連れられ馬車へと乗り込む。
この時、俺の召使い共が、誰もいない事に気が付いていたら、この後の展開も変わっていたのかもしれない。
しかし、この時の俺は、この後に降りかかる不幸を知るよしもなかったのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
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