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「それで?珍しい物を持って来たと聞いたが、どんな物を持ってきたのだ?」
ホシガーリ男爵に、座る様に促され、ソファーに座ったか座っていないか微妙なタイミングで、待ちきれないのかホシガーリ男爵に、持ってきた物を見せる様に催促された。
流石に、食い気味で聞いてくるのは予想外ではあるが、彼が珍しい物を直ぐに求めてくるのは予定通りである。
そして、この言葉を合図に、僕はピンハネに売った『トイレットペーパー』を、使い掛けの数個残し、残りの全てを消し去った…。
コレについては、復讐の意味合いが強いものの、僕自身、完全に犯罪行為だと認識がある為、かなり罪悪感がある。
本来であれば、他の人に売った物に関しては、任意で消したりする事は絶対にしないのだが、今回は復讐だから…と諦めている。
あくまでも復讐の意味合いがあるとは言え、これは流石にやり過ぎだとは思うのだが、ピンハネは、わざとお金を床に落とし拾わせ、その無様な姿を見て、悦に入る様なヤツなのだから…と、自分に言い聞かせた。
そもそもな話、貴族へ売った物が突然消えた場合、最初に疑われるのは売った人である。
仮に、偶然、泥棒が入り、偶々、それを盗んだとしても泥棒が疑われるよりも先に、売った人が疑われるのである。
そして、僕が創り出した物を、任意で消す事が出来るのを…誰も知らないのである。
コレが、今回の復讐において、一番重要な秘密だった。
「え~っと…まずは、お礼を…この様な、何処の馬の骨かも分からない私の為に、貴重なお時間を頂き、多大な感謝を…。」
「あぁ、そんな口上や前置きは必要ないぞ、そんな事よりも、何を持ってきたのだ?」
挨拶よりも、珍しい物…と、こちらの貴族のイメージを壊すかの如く、催促された。
その為、このまま挨拶を続ける訳にはいかなくなり、商品の説明を始める事になった。
「実は、こちらなんですが…。」
と、僕は『トイレットペーパー』を鞄から取り出した。
「何だ、珍しい物とは、それであったか…。」
ホシガーリ男爵にしてみれば、既に知っている物である。
しかも、ピンハネから全部に買った為、正直、珍しくもなければ、急いで手に入れる必要がない物だった。
「アレ?もしかして…知っていましたか?」
僕は、何も知りませんよ~とばかりに、わざとらしく言う。
「うむ…実は、先刻、大量に買ったばかりでな…。」
「え?それって…もしかして、ピンハネさんからですか?」
「あぁ、そうだが…『モブ』は知っているのか?」
「はい…実は、先日、ピンハネさんと取引させていただいたのですが…。」
面会する為に自分の名前を伝えていたとは言え、ホシガーリ男爵が僕の名前を覚えていたのには驚きだ。
だが、そんな事よりも…と、まずは落ち込んでいる雰囲気を醸し出す。
はたして、その効果は如何に…。
「うん?何やら、気分が良くない様だが…どうかしたのか?」
「あ、いえ…この様な事を、ホシガーリ男爵様のお耳に入れる訳には…。」
「何だ?私に言えない様な事でもあったのか?」
「い、いえ…ですが、それはその…。」
「よい、私が許す、申してみよ!」
ここまで上手くいくと思わず、ニヤけそうになる。
流石に、ここでニヤける訳にはいかないので、うつむく事で、口元が見えない様にして、理由を話し出す事にした。
「わ、分かりました…それでは…。
実は、先日、ピンハネさんに『トイレットペーパー』なる物を、無理やり買い取られたのですが…その『トイレットペーパー』は、まだ、それほど市場に出回っていない物と言う事もあり、高価な物なのです。」
「うむ、確かに私が買い取った物も、それなりの値がしたな。」
「やはり、そうでしたか…そうと知っていれば、私もピンハネさんにお売りするのを死守したのに…。」
と、僕は嘘泣きをしながらホシガーリ男爵に告げた。
「ピンハネが無理やりだと?それは、どう言う事だ?」
「じ、実は…ピンハネさんが私の売っていた『トイレットペーパー』に目を付け、百個以上も売れと言ってきたのです。
幸い、数はギリギリではありますが、平民用の質が低い物を用意出来たのですが、こちらの提示した金額の十分の一の値段…あまり大きな声では言えませんが、一つにつき大銀貨一枚で売れと脅されたのです。」
「な、なんだとッ…。」
流石に、自分が購入した物の値段が、元値が大銀貨一枚と知った事で、怒り込み上げてきた様だ。
しかも、僕は『平民用』と告げている。
ホシガーリさんの心中は如何に…だ。
「その取引の所為で大赤字になりまして、このままでは商売を続ける事が出来なくなる…と、困っていた所、風の噂で、ホシガーリ男爵が珍しい物を集めていると聞き、藁をも掴む思いで、こちらに来た次第です。
それなのに、ピンハネさんがホシガーリ男爵に、平民用の『トイレットペーパー』を売り付けていたとは…。」
『平民用』を強調したのが功を奏したのか、ホシガーリ男爵の顔が怒りのあまり赤くなっている。
だが、ここでホシガーリ男爵の表情が、少しだけ変化した。
「ん?モブよ、お主はピンハネが売りに来たのが平民用と申したな?」
「は、はい…それが何か…?」
「それなのに、お主は、私の所に『トイレットペーパー』を売りに来たと?」
「は、はい…もちろん、私が用意する事が出来る、貴族様用の高品質の品になりますが…。」
と、僕は自信のなさそうな態度で答えた。
「なるほど…少し見せてもらって良いかな?」
「え、えぇ…そちらの一つは、お近付きの印に、献上するつもりだった物ですので、確認いただければ…と思います。」
そちらの一つとは、ホシガーリ男爵に商品の確認をして貰う為に出した、一つである。
もちろん、ピンハネの物とは比べ物にならない品質である。
「なん…だと…ッ!?貴族用とは、こんなにも違う物なのか?」
「えぇ、そうなのです…いえ、真にその差を知るには、互いに比べるのが一番分かるのですが…。」
さて、布石は打った…後は、天に任せるのみ…だ。
「そ、それもそうだな…誰か、誰かおらぬか!!」
『コンコン…。』
「入れ!」
「お呼びでしょうか、旦那様。」
そこには、ホシガーリ男爵の呼び掛けに応え、一人のメイドが立っていたのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
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