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「お呼びでしょうか、旦那様。」


 ノックの後、そう言って入ってきたのは、赤毛のショートヘアーの女性だった。

 なお、彼女は使用人らしくメイドみたいな物との事…ただし、メイド服は着ていない。

 個人的にはメイド服を着ていたら嬉しかったのが…まぁ、着ている服は彼女に似合っているのだが、思ったよりも地味な服装だった。

 もしかしたら、お世話をする人達がメイド服を着て仕事をしているってのは、勝手なイメージなのかもしれない。


「うむ、忙しいところ悪いのだが、先程、ピンハネから買った物を一つ持ってきてくれ。」

「先程…と、言いますと、あのトイレットペーパーとか言う物の事で、よろしいでしょうか?」

「あぁ、それで間違いない。」

「畏(かしこ)まりました、直ぐにご用意致します。」


 女性は、そう言うと、軽くお辞儀をして部屋から出ていった。


「君もすまないね、見ての通り取りに行って貰ったから、直ぐに持ってくると思う。

 まぁ、それまで、お茶でも飲んで寛(くつろ)いでくれ。」


 と、ホシガーリ男爵から、お声を頂いた。

 でもね~、そうは言っても、貴族の前で下手な事をして機嫌を損ねたらどうなるかは、色々なラノベやアニメ等では、よくある話。

 そう思うと、まともに動けないですよね~と、心の中で、ツッコミを入れる。

 それともう一つ、紅茶の事を、やはりお茶と呼ぶんだ…日本人の僕にとってお茶と言うと緑茶の事なんだけどな…などと、どうでも良い事を考えていると、扉の方が、何やら騒がしくなってくる。

 どうやら、待ちに待った瞬間がやってきたのかもしれない。


『ガチャッ!!』


 先程は丁寧な感じでノックをし優雅に入って来た先程の女性。

 しかし、今は、そんな事を気にしていられないとばかりに、ノックも忘れ大慌てで、その扉を開いた。


「だ、旦那様、た、大変でございます!

 先程、ピンハネ様から購入いたしましたトイレットペーパーの殆ど(・・)が無くなっています!!」

「な、なんだとッ!?」


 その彼女の報告に、ホシガーリ男爵も驚きの声を上げる。

 だが、僕は見逃さなかった…彼女の右手にある物を…。


「あ、それと旦那様、こちら頼まれていたトイレットペーパーでございます。」

「え?あ、あぁ…ありが…とう?」


 うんうん、その気持、僕もよく分かる。

 高いお金を出して買った『トイレットペーパー』の殆どが消える一大事だってのに、そんな慌てた様子から、一気に落ち着きを取り戻し、平常運転でホシガーリ男爵に渡しているのだ。

 その様子に、『えっ!?なに、コイツ…。』となっても、なんら不思議ではないはずだ。


 なお、ホシガーリ男爵の家から消滅(き)えたトイレットペーパーの数は百個中、九十五個だったりする。

 しっかし、ピンハネのヤツ…全部売るのではなく、少し自分用に確保していたのかもしれないな…と、僕は思ったのだった…。


†


「いやー、やはり俺様は天才だな!

 あの若造が扱っている商品を一目で売れると判断した才能が、怖くなってくるぞ。」


 宿屋で、腰巾着の一人であるギョフのヤツから、トイレットペーパーなる物を見せられた時は『何だ?こんな物』と思ったのだが、ギョフの推しもあり実際に使ったのが良かった。

 そして、更にはギョフから、あの『モブ』とか言う若造を紹介されたのも良かったと思う。

 まぁ、この俺様に直ぐに挨拶に来ない無礼な者ではあったが…まぁ、今後も俺様の言う事をよく聞いて尽くすのであれば、大目に見るのもやぶさかでない。

 流石に、代金を寄越せと言ってきた時はキレそうになったが、あの必死な間抜け面(づら)で足りない金貨を拾う姿は思い出してだけでも笑えてくるし…な。


「しかし、アレだな…貴族は本当にバカな生き物だな。

 俺様が大銀貨一枚で手に入れた物を十倍の金貨一枚で買うとはな!」


 誰かに聞かれたら、色々と問題があるが、今日泊まっている宿は防音がしっかりしている部屋なので、どれだけ騒いでも分からない。

 その為、こんな危ない発言もし放題である。

 なんだったら、王族を批判する言葉を言ったとしても誰にも気付かれる事はない。

 ただし、同じ部屋に誰かいれば声が聞こえるので問題だが、召使い達は、階下の格安の別の部屋である。

 もっとも、召使い共は、贅沢にも何か食べに行くと出掛けているのだから関係のない話である。


 何はともあれ、話を戻すが…今回の取引は、はっきり言ってボロ儲けである。

 確かに、トイレットペーパーは良い物だとは思うが、正直、金貨一枚の価値はない。

 むしろ、大銀貨一枚でも高いとさえ思える。


「だが、アレは今の所、モブからしか手に入らない…か。

 なんとしても、ヤツから取引先を聞き出さねばな…。」


 ホシガーリ男爵に高値で売れた事に味をしめた俺は、他の貴族にも売れば、更にお金を稼ぐ事が出来る。

 もしかすれば、この俺様も大商人の仲間入りも夢ではないのでは?と、この時はまだ疑っていなかったのだった…。

拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。

また、感想や誤字報告等ありましたら、励みになります。

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