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「おいおい、オッサン、他の客に迷惑だろ…。」
そう言って、止めに入ってくれたのはガタイの良い、少し強面のお兄さんだった…。
「あぁー、誰がオッサンだ、このボケがー!」
いや、アンタだアンタ!何処から見ても、それなりに歳を取ったオッサンである。
まぁ、止めに入った方も若いと言えば若い…強面のお兄さんの外見は二十歳は軽く超えて三十歳ほどに見える、僕からしたら十分オッサンに見えるのは内緒だ。
何はともあれ、酔っ払いのオッサンは止めに入った強面のお兄さんに、問答無用で殴り掛かる。
しかし、そんな攻撃も、お兄さんには大した攻撃では無かった様で…。
「〖受け流し〗」
もう少しで酔っ払いの拳が当たる…と、言うタイミングで、強面のお兄さんが左腕を上げたかと思ったら、その拳を、意図も容易く明後日の方向へと反らす。
「てめぇ、クソが!避けてんじゃねー!」
再度、酔っぱらいがお兄さんを殴ろうとする。
いやいや、お兄さんは避けたんじゃなくて、見事に受け流したんですけど?
この時点で、互いの実力に差があるのが素人の僕でも分かる。
にも、関わらず、酔っぱらいのオッサンは再度お兄さんへと殴りかかっている。
「オッサン、これは正当防衛だから、文句は言うなよ!」
強面のお兄さん、今度は攻撃を受け流す事はしなくて、この攻撃に合わせて、拳を突き出す。
あ、コレって、ボクシング漫画などで見るアレだ…。
確か、クロスカウンターって言うんだっけ?
酔っ払いの腕に誘導される様に、お兄さんの拳が走り、そのまま酔っ払いのオッサンの顔面へと進んでいく。
そして、お兄さんの拳は、そのままオッサンの顔面へと当たり、そして…。
『ドガシャーン!!』
お兄さんの攻撃が強かったのか、オッサンが盛大に吹き飛び、近くのテーブルをぶち撒ける。
巻き込まれた人達は、たまった物じゃない。
まぁ、それらを弁償するのは酔っ払いのオッサンだろうけど…。
「兄ちゃん、大丈夫だったか?
ちと、騒ぎになっちまったな…これ以上巻き込まれないうちに、兄ちゃんは部屋に戻った方が良いとおもうぞ?」
「え、でも…。」
流石に、この状況を放置して戻ると言うのは…。
「なーに、気にするな!冒険者には、こんなのは日常茶飯事だ。
まぁ、ここは俺に任せて、兄ちゃんは、あのオッサンが逆恨みしない様に逃げた方が良いぜ?」
と、こちらの考えを読んだかの様に逃げる事を勧めてくる。
まぁ、確かに、喧嘩も碌に出来ない素人の僕なんかがいても、どうする事も出来ない訳で…。
うん、ここは素直にお言葉に甘えさせてもらおう。
「分かりました、では、コレで…あ、自分、『モブ』と言います。
ご縁がありましたら、また何処かで…。」
「おぅ、俺は『シール』だ、その時は、酒の一杯でも奢ってくれや!」
「えぇ、よろこんで。」
強面だったから、最初は苦手だと思っていたが、外見とは裏腹に何とも優しい感じの人だ。
しかも、僕を庇うだけではなく、気付かってくれるとは…本当に有り難い事だ。
今度会った時は、一杯どころか、二、三杯は奢っても良いと思った。
まぁ、お金があればの話だが…。
やっと商業ギルドに登録しただけで、まだ何の実績のない商売人な為、大したお金は無いが、それでも僕はそう心に誓ったのだった…。
†
『コンコン』
「は~い、どちら様?」
「お兄ちゃん、メイだよ~。」
メイちゃんか…この宿屋へ案内してくれた女の子だな。
あと、この宿屋の女将さんの子供で看板娘?と言った所か?
「直ぐに開けるから、ちょっと待ってね!」
防犯の為に扉に鍵を掛けていたので、僕が鍵を開けないと入ってこれないはずだ。
なので、ベッドから降りると、急いで扉まで行くと鍵を開ける。
「メイちゃん、どうしたのかな?って…。」
「お兄ちゃん、待たせてごめんね~、食事を持ってきたよ~!」
「ありがとう、こんな大きいの重かったでしょ?」
「う~ん、ちょっと重かったかな?でも、大丈夫だよ!」
流石に、小学生低学年くらいの小さな女の子に持たせるには大きすぎじゃないのか?
そう思わせるほど、大きなお盆の上に、黒パンとサラダ、何の肉か分からないけどステーキ、そしてシチューらしき物が所狭しに乗っている。
その大きさから考えれば、メイちゃんには、かなり重かった筈だ。
にも関わらず、メイちゃんは何でも無い事の様に大丈夫だと言っている。
おそらく普段から手伝っている事で、僕が考えているよりも体力があるのかもしれない。
「そっか、メイちゃんは偉いね~。」
つい、親戚の子を褒める感じでメイちゃんの頭を撫でてしまう。
「お、お兄ちゃん、恥ずかしいよ~。」
すると、メイちゃんは恥ずかしいと言いながらも僕に笑顔を見せてくれた。
もしかしたら、異世界物の世界観でありがちな、小さい子でも働くのが当然であり、普段から褒められる事がないのかもしれない。
そう考えてしまった僕は、さらに甘えさせて見たくなった。
と言っても、犯罪臭はまったくしないので、ご安心を。
僕はメイちゃんからお盆を受け取ると待つように伝え、テーブルの上にお盆を乗せる。
そして、再び扉の方へ向かいつつ、財布代わりに使っている袋の中に数枚だけ残っている賤貨を取り出すと、メイちゃんへお駄賃として渡した。
「はい、コレはメイちゃんへのお駄賃だよ。」
「え?お駄賃って…良いの?」
「うん、メイちゃんが頑張っているから、僕からのお礼だよ。」
「わ~い、やった~!」
あぁ、親戚の子も、メイちゃんみたいに素直な子だったら良かったのにな…。
人を比べるのは良くない事と知りながらも、ついメイちゃんと親戚の子を比べてしまう。
当然ながら、勝敗はメイちゃんの圧勝である。
「そうだ…食べ終わったらどうしたら良いのかな?下に持っていけば良い?」
「それなら、後でメイが取りに来るよ?」
「良いの?」
大した手間ではないし、何かのついでに持って降りれば良いだけなので気にしなくて良いのだが…。
それに対し、メイちゃんは『うん!』笑顔で返事をしてくれる。
そんな笑顔に、僕の疲れていた心が、少しずつ癒やされていくのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
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