9
「すまない、有り難く頂こう。」
ランスさんはそう言うと、僕が差し出した食べかけの『おにぎり』に齧り付く。
どうやら、この世界の人は、人の食べかけって事は気にしないのかもしれない。
「あぁ、この味…何とも懐かしい味だ…。」
「え?不味くないですか?」
何と、ランスさんは『おにぎり』を普通に…それも懐かしそうに食べているではないか。
あ、あれ?不味いと思っているのは僕だけなのか?
そう言えば、あの仲良くなった狼達も、ドッグフードに夢中になっていた様な…。
「ん?いや、この白いのは食べ慣れない味だが、十分に美味しいと思うぞ?
まぁ、量は少し物足りない気はするが…。」
「そ、そうですか…。」
最初に『おにぎり』を〖レプリカ〗で創った時は、あまりの不味さに落としてしまった。
それなのに、まさか美味しいと言う反応が返ってくると驚きである。
つい予想外の反応に、どう反応して良いか分からなくなったしまった。
しかし、次の瞬間…ある事に気が付いた。
正直な話、今食べた『おにぎり』は、お世辞にも美味しいと言える物ではなかった。
にも関わらず、ランスさんは美味しいと言った。
まぁ、社交辞令かもしれないが、彼の顔を見る限りでは嘘には思えない。
つまり、何が言いたいのか…と言うと…。
「あのッ!この『おにぎり』って売れると思いますか?」
そう…今は残り二個しかない『おにぎり』だが、元々はスキルで作り出した物。
つまり、追加で作る事が可能だと言う事である。
「う~ん…売れるか売れないか…で言えば、もちろん売れると思うよ。
でも、身分証もないし、入場料すらないのに売るのは無理なんじゃないかな?」
「ですよね…。」
「まぁ、入場料に関しては、事情が事情だけに、我々が貸す事は可能だけど…。」
「え?借りれるんですか?」
まさか、お金が借りられると言うのは予想していなかった。
「あぁ、可能だよ?ただ…。」
「ただ?」
ん?何か言い辛い事でもあるのだろう?
「こちらとしては脅すつもりはないのだが、借りた場合、一週間以内に返金しないと、奴隷落ちになるんだよ…。
それに…だ、物を売るなら商業ギルドに登録して、商売人になる必要がある。
もちろん、登録するのにもお金は必要なんだが、そこまでして初めて物を売る許可を得る事が出来るんだ。」
何をするにしても、お金が必要になると言う事か…どこの世界も、嫌な世の中だ。
「そうなんですね…ちなみになんですが、無許可で販売した場合、どうなりますか?」
もちろん、違反をするつもりはないが、ちょっとした好奇心で聞いてみる。
「う~ん…内容にもよるが、よくて罰金、または数日間は牢屋行きかな?
あと、悪ければ…犯罪奴隷として鉱山送りって所か?
まぁ、鉱山での作業は過酷な環境で死ぬ事も多い為、事実上の死刑と言った所だろうか?
とは言え、鉱山送りにされる事は滅多にないけどな。」
ランスさんはそう言って笑った。
「ランスさん、それ笑えませんよ…。」
「だな、だから絶対に無許可は止めとけよ?
それに、もし罰金とかで許されたとしても、その犯罪記録自体は残るから、街を移動したりする時なんかでも色々と面倒な事になるぞ。」
先程、ランスさんに身の上話をする際、ある種の記憶喪失と言う感じで話している。
その為、基本的な知識を失っている為、常識が無い事を話していた。
それ故、ランスさんは物を売る為に必要な事を教えてくれた様だ。
まぁ、仮に商業ギルドに登録する事が出来、なおかつ『おにぎり』が売れるのであれば、最低限の生活は出来そうだ。
問題は返金出来なかった場合、奴隷落ち…か。
「ランスさん!奴隷落ちは怖いですが、入場料を貸してください。」
「分かった…だが、貸せるのは入場料だけだ。
商業ギルドの登録料までは貸せない…それについては、商業ギルドで聞いてくれ。」
「わ、わかりました…。」
僕は、それだけ言うと、不安を胸の奥にしまい込むと、ランスさんからお金を借り、街へと入って行くのだった…。
†
「ここが商業ギルドか…思った以上にデカいな…。」
街の中に入った僕は、ランスさんに教えてもらった道順で歩いていた。
途中で道が分からなくなったりもしたが、他の人に聞いたりして、やっとの思いで辿り着いた商業ギルドの大きさに驚きを隠せないでいた。
それまで歩いてきた建物の大きさからは考えれないほど大きいのだ。
例えるなら、市役所とか…それほど大きな建物が商業ギルドの支部だった。
『ギィィィィィ…。』
商業ギルドの中に入ると、わいわいがやがやと色んな声や音が聞こえる。
流石に騒音とは言わないが、賑やかと言うには、些か喧しい。
何はともあれ、その喧騒に驚いていると、それに気が付いた人が声を掛けてきた。
「お客様、本日はどの様なご要件でしょうか?」
どうやら商業ギルドの人みたいだ。
しかし、声を掛けてくれた人を見た次の瞬間、更なる追い打ちを喰らう事となる。
「じ、獣人だとッ!?」
そこには猫を思わせる獣人の女性が立っていた。
「は、はい…それが何か?」
アニメやゲームなどではよく見る獣人ではあるが、実際に見るのとでは大違いである。
特に、あのモフモフ感は何とも言い難い…。
数日前までは、モフモフな狼達といた所為か、はたまた自分の性癖なのか、抱き付いてモフモフしたくてたまらない…。
「あ、あの、お客様…?」
こちらの視線に気が付いたのか、声を掛けてきた女性は、自分の身体を抱きしめる様にして少し離れてしまった。
「あ、すいません…獣人の方を見るのは初めてでして…つい凝視してしまいました。」
「そ、そうなんですね…。」
「本当に、すいませんでした。」
と、謝りはしたが、実際には初めて見ると言うのは語弊がある。
正確には、門からココまで来る間に、遠目ではあるが何度か獣人の姿を見ていたのだ。
だが、こんな近距離で見たのは初めてだった為、つい興奮してしまったのが真実である。
「いえいえ、そう言う事でしたら、驚かれるのは仕方がないと思います。」
もしかしたら、今の僕と同じ様に、失礼な眼差しを何度も向けられた事があるのかもしれない。
これには、本当に反省が必要だと思った。
「話を戻しますが、本日は、どの様なご要件でいらしたのですか?」
「あ、そうでした…実は、相談したい事がありまして…。」
「そうですか、では、あちらの受付で手続きをお願いします。」
「ありがとうございます、えっと…。」
名前を呼ぼうとしたが、名前を聞いていないのを思い出す。
その事に気が付いたのか、獣人女性は胸に手を当てて、こう言った。
「申し遅れました、私はミィ…この商業ギルドで案内をしております。」
その仕草があまりにも綺麗で、僕は格好良いと思ったのだった…。
拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。
また、感想や誤字報告等ありましたら、励みになります。




