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隣の席の水無月さんが、ネットで話題のアイドルだった  作者: 結城ユウキ


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第46話 噂は噂 ─ Side・レナ


 朝、起きた瞬間は、今日は学校を休もうかと思っていた。

 こんなに心の底から行きたくないと思った日は初めてかもしれない。


 昨日の失態が情けないし。なにより教室では『リリアリのレナにそっくり』と話している声が聞こえてきたりもした。


 ただ、そんな中で今日休んでしまったら、認めたことになってしまうんじゃないか……。

 そう思った私は重い足を動かして、結局いつも通りに学校へと向かった。



 迫田くんは、メガネを外した私の姿を見てどう思ったのかな……。


 陽葵《ひまり》さんに相談しようにも連絡先を聞いてなかったし、ずっとモヤモヤしたまま。

 何もする気が起きず、一人きりの教室でただ座ってうつむいているだけで。


 十分ほど時間が経つと、教室に誰かが入ってくる音が聞こえた。



「おはよう、水無月さん」



 いつも通りに朝の挨拶をしてくれる迫田くん。

 私は────声を出す気にはなれず、頭だけ下げて挨拶を返した。


 教室に響いた言葉はそれだけで、それからは会話のない無言の時間が続く。

 どこかから聞こえる楽器の音は、吹奏楽部の人が朝練でもしているのだろう。



 また、距離が遠くなっちゃったかな……。

 遠いところから勇気を出して近づいて、また遠い関係に。それも、元には戻れない関係になってしまったら……。


 一度陥ってしまったネガティブ思考から抜け出せないでいると、迫田くんがまた口を開いた。



「水無月さん。十一月にリリアリのライブがあるって知ってた?」



 もちろん知っている。考えない日はないし、どんなライブにしようかと、メンバーで試行錯誤を繰り返しているんだから。

 ただ、そんなことは口に出せるわけもないから私はただ縦にうなずくだけ。


「そのライブのチケットが当たったって姉さんに言われてさ。連れてってもらえることになったんだ」


 ああ、そういえば抽選結果が出てたんだっけ。

 迫田くんがまたリリアリのライブに来てくれることは素直に嬉しかった。

 それに陽葵さんがライブに応募してくれてたなんて、感謝しないといけないね。


「……す、凄いね、倍率だって高かったはずなのに」


「リリイベのときも思ったけど、いつもそんなにチケット取れないものなの?」


「……SNSでバズってから、人が多くなった」


 あの写真が話題になったことでテレビで取り上げてもらえたりして。そこからリリアリを知ってくれた人も増えて。

 そうやって誰かのきっかけになれているのは嬉しいけれど、正直まだまだ頭や身体が追い付いていない部分もある。


「水無月さんはチケット当たらなかった……?」


 私は一生、客席でリリアリのライブを見ることは出来ない。

 チケットを応募することもなければ、抽選結果にドキドキすることだって。


 だから、私の答えもいつも決まっていた。



「私は……。その日は予定があったから、応募もしてない……」


「そっか。じゃあ、また感想伝えるね」


「……た、楽しみにしてる」


 リリイベのときは、あんなに感想が聞きたいと思っていたのに。今は少しだけ怖さを感じた。


 迫田くんがいつもと違うことを聞いてきたのは、きっとそんな感情が顔に出ていたからだろう。


「昨日、クラスの人たちからすごい反応されてたけど大丈夫だった?」


 あの写真の一件がなくても、リリアリのみんなの力だったら絶対に大きくなっていたはずだけど。

 今みたいに顔が知られてなきゃ、こんな複雑な想いをすることはなかったのかなと思ったりもする。


「…………うん。ちょっと油断した」


「確かに、水無月さんが授業中に寝そうになってるところは初めて見たかも」


「……最近、寝るのが遅かったから」


「あのときは運が悪かったよね。世界史の授業じゃなきゃ当てられなかったと思うのに……」


「……変に注目を集めた気がするから。少しだけ心配ではある。文化祭もあるのに……」


「文化祭は僕も一緒だし大丈夫だよ。それに、みんなはもう別のことに注目してるって場合もあるだろうし」


「……だといいけど」


 こうやってやり取りを重ねて、私がレナだと気づいているんだろうなって確信した。

 それでも迫田くんは、いつも通り振る舞おうとしてくれている。


 あくまでも────隣の席の水無月玲奈《みなづきれな》として。


 そうだとしたら、陽葵さんが言っていたことも当たっていたのか。

 まだまだ私は、迫田晴輝《さこたはるき》くんという人を分かってなかったみたい。


 クラスの人にも顔を見られた以上、安心なんて出来ないけれど。

 でも、迫田くんの言葉に笑って返せるくらいには、気づけば心は落ち着いていた。



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