第45話 噂は噂
噂なんてきっとすぐに別の話題で塗り替えられていく。
そうであってほしいと思いながら、今日は少しだけ早く学校に来た。
水無月さんと二人で話せるのは、朝のこの時間しかないし────それに今日は、少しでも長く話したいとも思ったから。
「おはよう、水無月さん」
いつもの挨拶をすると、いつも通りに軽く頭を下げて反応を返してくれる。
ここまでは、普段と何も変わらないまま過ごせているはずだ。
胸の奥から上がってこようとする疑問を、僕はとにかく抑え込む。
────水無月さんってリリアリのレナさんだったりする?
決して口にはしないけれど、僕は答えをほぼ確信していた。
よくよく考えたら、水無月さんの名前って玲奈さんだったし……。
もし当たっているなら、色々なことの説明だってつく気がする。
いきなりレナさんのソロ曲を勧めてきたこと。好みだってレナさんと同じ。姉さんのおかしな反応に。音楽ショップでリリイベのメンバーに話しかけられたことも。
水無月さんがリリアリのレナさんだったら、全ての辻褄が合うのだ。
ただ、それを追求してしまったら、きっとこの関係は終わってしまう。
「水無月さん。十一月にリリアリのライブがあるって知ってた?」
僕はレナさんだから仲良くなりたいわけじゃなくて、水無月さんと仲良くなりたい。
ここで変にリリアリの話題を避けるよりも、いつも通りに振る舞うほうが自然だろう。
縦にこくりとうなずいた水無月さんに、僕は話を続ける。
「そのライブのチケットが当たったって姉さんに言われてさ。連れてってもらえることになったんだ」
「……す、凄いね、倍率だって高かったはずなのに」
「リリイベのときも思ったけど、いつもそんなにチケット取れないものなの?」
「……SNSでバズってから、人が多くなった」
良かった、普通に話してくれて。
もしかしたらこの口数が少ないのも、何か理由があるのかもしれないけど。それでも、好きなものを話し合えるのは嬉しいことだ。
「水無月さんはチケット当たらなかった……?」
チケットに関しての質問は少しだけ迷った。
だって、返ってくる言葉はなんとなく想像できるから。
「私は……。その日は予定があったから、応募もしてない……」
「そっか。じゃあ、また感想伝えるね」
「……た、楽しみにしてる」
質問に対しての返答はやっぱり予想通りだった。
思い返せばいつも僕が感想を伝えてばかりで、水無月さんの踏み込んだ感想って聞いたことがない。
僕と水無月さんが朝の時間にこうして話し始めたのは、リリアリの話題がきっかけなんだし、いつか話し合えたら嬉しいな。
冷静に考えたら難しいのかもしれないけれど。でも、いつかそんな日がくることを願おう。
そして今日はそこから脱線することになるけど、どうしても心配だったことも聞いてみる。
「昨日、クラスの人たちからすごい反応されてたけど大丈夫だった?」
「…………うん。ちょっと油断した」
「確かに、水無月さんが授業中に寝そうになってるところは初めて見たかも」
「……最近、寝るのが遅かったから」
水無月さんだって、昨日のことを考えたら落ち着かないはずだ。
多分、心のどこかで僕のことも警戒しているんだろうし。
今はそう思われてもいいから、とにかく水無月さんらしい学校生活が送れたらいいなと思う。
「あのときは運が悪かったよね。世界史の授業じゃなきゃ当てられなかったと思うのに……」
「……変に注目を集めた気がするから。少しだけ心配ではある。文化祭もあるのに……」
「文化祭は僕も一緒だし大丈夫だよ。それに、みんなはもう別のことに注目してるって場合もあるだろうし」
「……だといいけど」
最初の頃はうなずいたり首を振ったりするだけだった水無月さんが、ここまで話してくれるようになったんだ。
周りのことなんて気にしないで────僕は、隣の席の水無月玲奈さんと仲良くやっていこう。




