第44話 少しの油断 ─ Side・レナ
再テストとかで無駄な居残りをさせられるのが嫌だから、授業はいつもしっかり受けることを心がけていた。
リリアリの活動が忙しいときには、より気をつけていたつもり。
だけど────忙しいということは疲れも溜まっているということで。
体育終わったばかりの今は、睡魔がひどく襲いかかってきていた。
普段から歌ったり踊ったりしてるから、運動には困ってないのに……。
普段はなんとも思わない教科でも、余裕がなくなってくると全てが憎く思えてくる。
でも、世界史の先生は厳しい人だから、寝たら絶対にあとが面倒くさい。
なんとか最後まで起きて話を聞かないと。
そんな私の思いとは裏腹に、先生の話はどんどん遠くなっていって────
「水無月さん……!」
「ん、んん……」
頬杖をついて支えていた頭がカクンと落ちた瞬間に、私の意識を戻してくれる声が隣から聞こえてくる。
その声に導かれるようにしてゆっくり目を開けるけど、まぶたはなかなかハッキリと開いてくれない。
「だいじょう……ぶ……?」
再び聞こえてきた隣からの声────迫田くんの言葉に返事をするために、私は目を擦って必死に脳みそを起こす。
それにしても、なんだか目がシバシバするなぁ……。
「……ええ。ありがとう」
「水無月、ここの空欄には何が入る?」
危ない。迫田くんが起こしてくれなかったら怒られるところだった。
それに、前後の文脈を確認すれば答えられそうな問題だったのも運が良い。
もしかしたら寝てたのがバレてるのかもしれないけど、しっかり答えられたことでなんとかやり過ごせた。
「水無月、体調悪かったりするか……?」
「……いえ、大丈夫ですけど」
「そうか……なら良いんだが……」
いくら寝起きだからって、そんなに私の顔は険しかったのかな……。
先生の言葉で振り返った何人かも、落ち着きなく見える。
学校で視線を浴びるのは慣れてないから、私は逃げるように下を向くと────机の上に転がっているメガネが。
「み、水無月さん……。メガネ……」
そして隣の席の迫田くんからの指摘に、血の気が引いていくのを感じた。
「えっ? ……っ!」
目元を触るとやっぱり遮ってくるものはなく。それはつまり、普段はかけているメガネが外れていたことを表していて。
先生やクラスの人たち、それに────迫田くんに素顔を見られた……。
それ以降は先生の話なんて全く頭に入ってこなくて。
チャイムが鳴り響いて授業が終わると、私は駆け足気味に教室から飛び出していた。
どうして目を擦ったときに気づかなかったかなぁ……。
トイレの鏡に映る自分のひどい顔を見つめながら深くため息をつく。
せっかく迫田くんと話せるようになってきてたのに、まんまレナのときと同じ姿を見られてしまった。
もしも、これがきっかけで私の正体に気づかれてしまったら……。
油断と疲れから注意力が落ちていた自分をひっぱたきたくなる。
この後、私はどんな顔をして接すればいいんだろう……。




