第40話 月曜日はきっと ─ Side・レナ
陽葵さんとの大事な話を終えて、そろそろ迫田くんも戻ってくる時間……。のはずだったんだけど、なかなか帰ってこない。
ドリンクバーの飲み物でもうお腹はパンパン。
陽葵さんとの世間話だって、さっきの大事な話より長くなっているくらいだ。
それから更に数分。ようやく帰ってきた迫田くんの姿を見て、私はまた少し気を引き締める。
けれど、それ以上に迫田くんのほうが、どことなく強張った表情をしている気がした。
「手ぶらだけど何も買わなかったの?」
「本を買うつもりだったんだけど、その前の音楽ショップで足止めをくらって……」
「友達にでも会ったとか?」
「…………アカリさんとユイさんに会った」
「えっ!?」
「……はっ?」
出てきた予想外の名前に、思わず私も声が漏れてしまう。
どうしてアカリとユイが……。
聞いた瞬間はそう困惑したものの、すぐにその二人の狙いを察する。
「あんた、それホント!?」
「うん、リリアリのコーナーを見てたら話しかけられた」
「大丈夫? それ、話していいやつ!?」
「姉さんには言ってもいいって」
「ずいぶんピンポイントね。そこ家族じゃないの?」
「確かに……」
はぁ、接触するならもう少し完璧に誤魔化してほしいんだけど……。
二人の行動にため息が漏れそうになるところを、私はなんとか飲み込んだ。
「あっ、そういうこと……」
少し遅れて陽葵さんも気づいたみたいで。
向けられた視線に、私は迫田くんにバレないように小さくうなずく。
「さて、それじゃあ時間もいい頃合いだしそろそろ出よっか。水無月ちゃん、多分だけどこの後って予定あるよね?」
「はい、すみません……」
「そうなの? 時間、大丈夫だった? 僕が戻ってくるの遅かったから……」
「……ううん、大丈夫。ギリギリってわけじゃないし」
事情を察してくれた陽葵さんが、とてもありがたい助け船を出してくれる。
迫田くんにはああ言ったけど、別に時間はギリギリってわけじゃない。
だって、たった今できた予定だし。なんなら夜遅くに呼び出したって許されるはずだから。
迫田くんや陽葵さんと別れた後は、とある人たちを連れてカラオケボックスに来ていた。
「…………何か言うことはある?」
私の向かいに座る二人は酷く肩を落としているけれど、絶対に追求の手を緩めるわけにはいかない。
今回ばかりは、私が納得するまで許してあげないんだから。
「えっと、好奇心がくすぐられてつい……」
「ご、ごめん。レナの話を聞いてたら気になっちゃって……」
「ホントありえない! しかもアカリとユイだってバレるとか!」
「それは、ユイが突っ込んでいったからで……」
「アカリが止めにこなきゃバレなかったわよ」
頭を下げながら言い訳を始めるアカリとユイに、私はただただ呆れることしかできない。
「私が普段、どれだけ正体がバレないように気をつけているか知ってる? あと、ピンポイントでお姉さんにも言及してたらしいね。どうして知ってるのか怪しがってたんだけど」
「うっ……。それはアタシたちの詰めが甘かったからで……」
「返す言葉がありません……」
「無理やりくっつけようとか、変なこと考えてたりしてないよね?」
「本当に迫田くんがどんな子なのか気になっただけなのよ……!」
「で、満足しましたか?」
「ええ、いい子じゃない! アタシはお似合いだと思うわっ!」
「うんうん。真面目そうな子だったし私もいいと思う」
二人が露骨に私の機嫌を取りにきてて、もうなんか怒る気も失せてくる。
元はといえば、私がメンバーに相談に乗ってもらったのが原因でもあるし……。
とりあえず今日の陽葵さんとの話で、心に決めたことだけ伝えて終わりにしよう。
「私はただ仲良くなりたいの。隣の席の水無月玲奈として」
「えっ、付き合いたいとかは……」
「好きだけど、今はリリアリが大事!」
「……な、なによ。急にそんな恥ずかしいことを」
「ふふっ。レナはどこまでも真面目だね。でも、嬉しい」
「私の気持ちを分かってくれたなら、もうリスクを犯して近づかないこと。いい?」
「うん、ごめんね……」
「アタシも反省してるわ……」
呼び出したときは、一週間くらいは許さないつもりでいたんだけど。
こうして話していると、やっぱり喧嘩とかは出来そうにない。
「私のプライベートよりも、十一月のライブに向けて集中していかないとだよ」
「そういえば、その迫田くんはライブって応募してくれたのかな?」
「さあ? CDは買ってくれてたみたいだけど……。って、言ってる側から……」
「もうすぐ抽選結果も出る頃だし、来てくれるといいわね?」
「……まあ、どっちにしても全力で頑張るだけだから」
迫田くんがいてもいなくても、私はリリアリのレナとして全力を出すだけ。
ただ、来てくれたら嬉しいなという想いが、心の奥で顔を覗かせているのを自分でも感じた。




