第39話 月曜日はきっと
音楽ショップでのまさかの出会いを経験したら、もう他のお店を見ようという気にもなれず。
空いていたベンチに座って頭を少し冷やしてから、僕はファミレスへと戻った。
「あっ、帰ってきた。意外と遅かったね?」
そんな姉さんの表情は僕とは反対に清々しいもので、きっと満足のいく話ができたのだろう。
スマホを確認すると、席を離れてから一時間近く経っていた。
姉さんからのお願いは三十分くらいのはずだったのに……。
「ちょっと色々とあって……」
「色々? まあ、時間を潰してくれたのはありがと。おかげで水無月ちゃんとの話も盛り上がったよ」
「それは……うん、良かった」
僕は姉さんの隣に腰を下ろすと、もういちど頭をスッキリさせようと深く息を吐く。
「手ぶらだけど何も買わなかったの?」
「本を買うつもりだったんだけど、その前の音楽ショップで足止めをくらって……」
「友達にでも会ったとか?」
友達だったらこんなに平常心を失うことなんてない。
買おうと思ってた本ですら今度でいいやと思うくらい、今はただただ動揺が消えないのだ。
正直に話すか迷ったけど、姉さんになら言ってもいいとのことだったし……。
「…………アカリさんとユイさんに会った」
「えっ!?」
「……はっ?」
僕のその言葉に反応したのは姉さんだけじゃなくて。水無月さんも驚いた声をあげていた。
「あんた、それホント!?」
「うん、リリアリのコーナーを見てたら話しかけられた」
「大丈夫? それ、話していいやつ!?」
「姉さんには言ってもいいって」
「ずいぶんピンポイントね。そこ家族じゃないの?」
「確かに……」
そう言われると、どうして僕に姉がいるって当てられたんだろう。兄や妹、一人っ子の可能性だってあるのに。
なんだか急に寒気がしてきた気がする……。
「あっ、そういうこと……」
それなのに姉さんときたら、また全てを分かっているかのような声を出して。
今日、何度目か分からない姉さんのその反応に、つい語気が強くなってしまう。
「だからどういうこと?」
「あんたの運が良かったんだよ。有名人なんてなかなか会えるもんじゃないよ」
「いや、だからってピンポイントで言い当てられた怖さは消えないんだけど……」
「う~ん、今は本当に気にしなくていいと思うよ。水無月ちゃんもそう思わない?」
「えっ。あっ、そう思います……!」
急に話を振られたからか、やたらと上擦った声の水無月さん。
なんだか落ち着かない様子だけれど、もしかして水無月さんも会いたかったのかな……。すぐ近くに好きなアイドルのメンバーがいたわけだし。
姉さんだってリリアリファンなわけで、そう考えると僕が会えたのは運が良かったってことになるのかな。
「さて、それじゃあ時間もいい頃合いだしそろそろ出よっか。水無月ちゃん、多分だけどこの後って予定あるよね?」
「はい、すみません……」
「そうなの? 時間、大丈夫だった? 僕が戻ってくるの遅かったから……」
「……ううん、大丈夫。ギリギリってわけじゃないし」
せっかく休日に水無月さんとご飯だったのに、あまり話せなかったな……。
心残りはあるものの、予定があるなら仕方がない。
お会計のとき、水無月さんもお財布を取り出したけどそこは姉さんが譲らなかった。
「あたしたちは買い物していかないとだし、ここでお別れかね」
「色々とお話できて楽しかったです。あと、ご飯もごちそうさまでした」
「いいのいいの。今日はあたしが独り占めしちゃったから、今度は晴輝とも話してあげて?」
「はい。……迫田くん、また月曜日」
「うん、また学校で。気を付けてね?」
水無月さんは僕の言葉に小さく微笑んでうなずいてから、行き交う人混みの中へと消えていった。




