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隣の席の水無月さんが、ネットで話題のアイドルだった  作者: 結城ユウキ


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第37話 トークイベント


 休日のショッピングセンターに、目的もなく一人きり。

 その言葉だけだと、なんだか怪しい人物に思えてくる。


 実際はガールズトークをしたいという姉さんのわがままで、ほぼ強制的に追い出されて行き場に困ってる男子高校生だ。

 まあ、姉さんが少しだけお金をくれたから時間の潰しようはいくらでもあるのだけど。


「姉さんたち、何の話なんだろう……」


 水無月さんの今日の一番の目的は、おそらく姉さんと話すことだったんだろう。

 あの反応からして、姉さんも何か分かっているような気がするし……。



 そうやって答えの出ない疑問について考えながら、目的もなく歩いていると、あるお店の前でふと足が止まる。


 この間、姉さんと来た音楽ショップだ。

 自然と僕の足はお店の中へと進んでいった。


 この間よりは発売から時間が経っているせいか、リリアリのコーナーは少し小さくなっている。

 だけど、まだポップで飾られていたり、小さなモニターでライブ映像が流れたりしていて。

 そんな中でも手書きのポップに書かれた、メンバーのプロフィールが目に入った。


 この間は姉さんと話してたり、水無月さんと会ったりでじっくり見ることが出来てなかったな。



 レナさんの誕生日は七月……。メンバーカラーは紫で、好きな食べ物は温かいうどん……。



 曲を聴いたりイベントに行ったりしたけど、そういえばこういう基本的な情報って知らなかったなと思う。



「あの、誰推しですかっ?」



 ポップをジッと見つめていると、ふと横からそんな声が聞こえてくる。


 反射的にその声がしたほうを見てしまったものの、僕なわけないよね。

 そうは思いながらも、周りに僕以外は誰もいなくて……。目の前の女の人も明らかに僕のことを見ていた。


「へっ……? ぼ、僕ですか?」


「はい、リリアリ好きなんですよねっ?」


「ええっと、最近知ったばかりなんですけど。一応、レナさんを……」


 この金髪の人、いったい何なんだろう。

 僕が知らないだけで、アイドルのファンだったら、音楽ショップで知らない人に推しを聞くのは当たり前なのかな。


「アタシと一緒じゃないっ! レナのどんなところが好きなの?」


「う、歌声を……」


「カッコいいものねっ。アタシもあんな風に歌えたらなって思うわ」


 この人もレナさん推しなんだ。にしても、なんか急に距離感が近くなったような……。

 それにこの声、なんだか聞き覚えがある気がするんだけど……。


 すごい勢いに押されて考える間もなく、どんどんこの人のペースで会話に巻き込まれていく。


「ちなみに、他のメンバーは?」


「他のメンバーですか……?」


「そう、どんな印象持ってるのかとか。周りに別の子を推してる人とかいないっ?」


「それだったら、友達がユイさん推しなんですけど……」


「それでそれでっ!?」


 ユイさんの話になると、さらに食い気味に物理的な距離まで縮められる。

 一歩下がって元の距離を保とうとするけど、戸惑いは消えないまま。

 というか、よくよく見るとこの人の外見もなんか普通じゃない。


 お店の中で帽子を目深にかぶって、サングラスまでしてるって。それこそ怪しい人じゃん……。


 何かしら理由をつけて、走って逃げたほうがいいかな。

 そんなことまで考えるようになったとき、さらにもう一人この会話の中に入ってきた。


「ちょっと突っ込みすぎよ。ごめんなさい、この子が……」


「なんで来たのよ。アンタは見てるって言ってたじゃない」


「あまりにもグイグイいくからでしょ……」


 小声で話してるみたいだけど、女の人の友達だろうか。

 新しく来た茶髪の人はメガネをかけてるだけで怪しさはないけど……。


 あれ、この並びどこかで……。


「あっ……」


「違うわっ! 人違いよっ!」


「まだ何も言ってないじゃないですか……!」


 どこかで見たことあると思ったけど、そんなの当たり前だ。



 だって────今、僕たちの目の前にある小さなモニターに映ってるんだから。



「はぁ……ごめんなさい。私たちから絡んでおいて申し訳ないんだけど、内緒にしてくれると助かるかも」


「ネットに書くのだけは……! お姉さんには言ってもいいから!」


「えっと、本当にご本人で……?」


「うん、そのポップの赤色と黄色って言えば伝わるよね?」


 変装こそしてるけれど、声はどうしても隠せないもので。

 最初に話しかけてきたのがユイさんで。あとから来た茶髪の人がアカリさん。

 正体を知ればもう変装すらも貫通して、そうとしか見えなかった。


 怪しい人じゃなかったことにホッとするものの、予想外のご本人登場に僕の心臓は少しだけ早くなっている。


「ファンの人を見つけたから、話しかけてみようってこの子が言い出して……」


「生の声を聞いてみたかったのよっ」


「結果的に困らせてどうするのさ。ほら、私たちはもう行こ?」


「あっ、えっと……これからも応援してます……!」


「うん、ありがとねっ!」


「悪かったわね、ドキッとさせて。ゆっくり見てってちょうだい!」


 嵐のようにやってきて嵐のように去っていったけど、有名人って本当に街中で会えるものなんだなぁ……。

 二人の姿が見えなくなっても、僕は今の出来事が現実だと実感するまでに時間がかかった。



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