第36話 不思議な休日の約束 ─ Side・レナ
迫田くんがリリアリのことを知ってくれたのは嬉しいし、私を推してくれているのだってもちろん嬉しい。
ただ、その影響で距離感を掴めなくなって困っているのも事実で。
もしかしたら今日は、そんな悩みの解決の糸口を見つけられるかもしれない日でもあった。
人混みがあまり得意じゃない私は、休日にショッピングセンターなんて来ないせいで、進む先が合っているのか不安になってくる。
もう少しで約束していた場所のはずだけど……。
そのとき、見覚えのある姿を私の目は捉えて。駆け足でその二人に近づいていく。
「すみません、お待たせして」
「おっ、水無月ちゃんやっほ~」
「お時間を作っていただいてありがとうございます」
迫田くんと、そして私の秘密を知っているであろうお姉さんと約束していたご飯。
二人にだけ聞こえるような声量で挨拶をしてから、私は待たせたことに小さく頭を下げる。
ただ、どうしても周りに人が多い分、正体がバレないように警戒心は高くなってしまっていた。
「今日は姉さんに付き合ってくれてありがとね」
「……ううん。お姉さんとは話してみたかったし」
「あたしも水無月ちゃんと話したかったの。だから、そんな固くならないでいっぱい話そ?」
「は、はい」
「それと、お姉さんもいいけど……。あたしの名前は陽葵ね? 教えてなかったなって思ったから、好きなほうで呼んでよ」
「では、陽葵さんで」
「よし、これで新しい妹ができた」
これは、どうやって反応すればいいんだろう……。
確かにほしいと思ったことはあるけれど、いきなり妹にされたこの状況。私はただ笑って誤魔化すことしかできなかった。
「姉さん、水無月さんが困るようなこと言わないで」
「今から数時間くらいは妹だと思ってもいいじゃない。水無月ちゃんは嫌?」
「一人っ子なので。姉妹とかは憧れますかね……」
「ほら~」
でも、冷静になってみれば悪いことをしてしまったなと反省した。
あれはきっと、陽葵さんなりに私の緊張をほぐそうとしてくれたのかもしれない。
そんな陽葵さんに連れられてファミレスに入ると、メニューをさっと見て温かいうどんをお願いする。
こういうときに頼むものは、大体が温かいうどんだ。
お腹に優しいし、喉が刺激されることもないから。アイドルが一番食べるべきものといっても過言じゃないと思う。
ただ、私にとってはすごく不向きなこともあって────
「水無月ちゃん、メガネ曇ってるけど大丈夫?」
「はい。慣れてるので」
曇ったメガネのままじゃ、何も見えやしない。
かといってメガネを外したら、間違いなくリリアリのレナだとバレる状況で外せるわけもなく。
私は触った感覚だけでお皿の位置を把握しながら、ゆっくりうどんを食べ進める。
「水無月さんって視力はかなり悪いほうなの?」
「……そ、そういうわけじゃないけど」
「あんた、女子高生になんてこと聞いてるの」
「ご、ごめん。いつでもメガネかけてるから、コンタクトにしないのかなって思って……」
「……コンタクトは怖そう」
「分かるなぁ。目に指を突っ込むとか考えるだけで無理だわ」
コンタクトに関してはあくまでイメージなんだけどね。
今かけているメガネは、あくまで変装用の伊達メガネで。
学校の視力検査だって、いつも一番小さいやつが見えるくらい目は良いほうだ。
「そういえば、姉さんもたまにメガネかけてるよね」
「紫外線とかブルーライトカットの効果があるやつだけどね。レンズは入ってないよ」
「姉さんってそういうの気にしてたんだ……」
「あたしだって一応、女子大生なんだけど? って言っても、あんたと同じハンバーグセット頼んでる時点で説得力ないわな……」
迫田くんと陽葵さんは迷いに迷ったあげく、同じものを頼んでいて。
先ほど目の前で繰り広げられたその場面では、同じ血が流れているんだなと微笑ましくなった。
「水無月ちゃんは、そんなヘルシーなもので良かったの?」
「好きなので。こういうところに来るといつも頼むんです」
「選ぶものが可愛い。ガッツリ肉を食らってるあたしには出せない可愛さだわ……。でも、奢るって言った手前、ファミレスなのは申し訳ないねぇ……」
「その件ですけど、さすがに奢っていただくわけには。私もお金は持ってきてますから」
「いいのいいの。ここは大人に良い顔させてよっ!」
アイドル活動のおかげで普通の高校生よりは使えるお金も多いし、ファミレスくらいは全然払えるんだけど……。ここは甘えさせてもらったほうがいいんだろうか。
ひとまず今は置いておいて、私は曇った視界の中でうどんを食べきることに集中した。
その後も迫田くんや陽葵さんの話を聞きながら、気づけばみんな食事を終えていて。
私がドリンクバーから飲み物を持って戻ってくると、陽葵さんがあることを切り出してくる。
「ねぇ、ちょっと水無月ちゃんと二人でガールズトークさせてくれない?」
ガールズトーク、つまりは迫田くんがいたら出来ない話をするってことだよね……。
和やかな雰囲気のなかで放たれたその言葉に、私は警戒心を高めるのだった。




