第35話 不思議な休日の約束
暑さはだいぶ和らいできたものの、まだコートを羽織るような時期ではなくて。
今日から十月に入ったというのに、服装はたいして変わっていない。
そして今日は────あの冗談だったはずのご飯会の日でもあった。
「にしてもあんた、よく水無月ちゃんと約束を取り付けられたね」
「僕もビックリだよ。姉さんが会いたがってたって冗談で言ったつもりだったのに……」
いつも土曜日は姉さんとショッピングセンターに買い物に来てるから、その流れで水無月さんとも会うことになっている。
休日に水無月さんと会うって考えると、ちょっとだけ緊張してくるなぁ……。
「まさか、水無月ちゃんって晴輝に気があったり……」
「いや、今日に関しては反応的に姉さんが目的っぽいよ」
「へっ? あぁ……そういうこと……」
「どういうこと?」
「あんたは気にしなくていいの」
どうして水無月さんが来る気になったか、姉さんは分かったのだろうか……。
そんなやり取りをしていると、見覚えのある姿が駆け足気味に近づいてくる。
「すみません、お待たせして」
僕と姉さんの前で立ち止まったのは、やっぱり水無月さんだった。
メガネの奥の瞳と目が合ってから、すぐにその瞳は隣へと移る。
「おっ、水無月ちゃんやっほ~」
「お時間を作っていただいてありがとうございます」
この間、音楽ショップで会ったときは突然すぎて意識が向かなかったけど……。
私服姿の水無月さんって、なんだかすごくオシャレオーラが出ているなぁ。
ショート丈の黒いジャケットに、中は無地の白シャツ。下はジャケットと同じ色の細身のパンツで、脚がすごい長く見える。
普段の学校の雰囲気からして、落ち着いた服を着てそうだとは勝手に思っていたけど、なんだかモデルさんみたいだった。
「今日は姉さんに付き合ってくれてありがとね」
「……ううん。お姉さんと話してみたかったし」
「あたしも水無月ちゃんと話したかったの。だから、そんな固くならないでいっぱい話そ?」
「は、はい」
「それと、お姉さんもいいけど……。あたしの名前は陽葵ね? 教えてなかったなって思ったから、好きなほうで呼んでよ」
「では、陽葵さんで」
「よし、これで新しい妹ができた」
なんか姉さんって、水無月さんと距離縮めるの早くない……?
僕ですら、リリアリ以外でここまで会話が続くことってないのに。
「姉さん、水無月さんが困るようなこと言わないで」
「今から数時間くらいは妹だと思ってもいいじゃない。水無月ちゃんは嫌?」
「一人っ子なので。姉妹とかは憧れますかね……」
「ほら~」
姉さんの自由っぷりにはため息が漏れるけど、今日ばかりは仕方がなさそうだ。
そうして思いのほか話は盛り上がりながら、僕たちはショッピングセンターの中に入ってるファミレスへと向かった。
休日のお昼時ということで、店内はかなり賑わっていて。席につくまでにも数十分待ったので、お腹はかなりペコペコの状態。
注文した料理が運ばれてくれば、自然と手はお皿と口を往復するように動き出す。
「水無月ちゃん、メガネ曇ってるけど大丈夫?」
「はい。慣れてるので」
そんな言葉を聞いて向かいの席に目をやると、うどんを慎重にすする水無月さんの顔が湯気に包まれていた。
メガネをかけながらだと、温かいものを食べるときでも大変なんだ……。
「水無月さんって視力はかなり悪いほうなの?」
「……そ、そういうわけじゃないけど」
「あんた、女子高生になんてこと聞いてるの」
「ご、ごめん。いつでもメガネかけてるから、コンタクトにしないのかなって思って……」
「……コンタクトは怖そう」
「分かるなぁ。目に指を突っ込むとか考えるだけで無理だわ」
体育の授業のときでもメガネをかけていた気がするし、かなり見えづらいのかな。
レンズが曇っていて見えているのかはちょっと疑問だけど。
水無月さんは手を止めることなく食べ進めているから、きっと大丈夫なのだろう。
「そういえば、姉さんもたまにメガネかけてるよね」
「紫外線とかブルーライトカットの効果があるやつだけどね。レンズは入ってないよ」
「姉さんってそういうの気にしてたんだ……」
「あたしだって一応、女子大生なんだけど? って言っても、あんたと同じハンバーグセット頼んでる時点で説得力ないわな……」
だって、家では結構がさつな一面を見ることが多いし。
ハンバーグセットを頼んだことを気にするなら、家での緩さを少しだけ見直してほしいとは思った。
「水無月ちゃんは、そんなヘルシーなもので良かったの?」
「好きなので。こういうところに来るといつも頼むんです」
「選ぶものが可愛い。ガッツリ肉を食らってるあたしには出せない可愛さだわ……」
食べるものに可愛いとかってあるのだろうか……。
別に水無月さんがハンバーグセットを頼んでいても、特に何も思わなかっただろうけど。
「でも奢るって言った手前、ファミレスなのは申し訳ないねぇ……」
「その件ですけど、さすがに奢っていただくわけには。私もお金は持ってきてますから」
「いいのいいの。ここは大人に良い顔させてよっ!」
今日、何回も交わされてきた姉さんと水無月さんの会話のなかで、ふと感じたことがある。
水無月さんって、姉さんが相手だと普通に話せているような……。
その後も観察し続けてみると、僕の予感はやっぱり当たってる気がした。
ちょっと複雑な気持ちではあるけど、身内ながら姉さんは話しやすい人だと思うし仕方ないか。
そうして昼ご飯を食べ終え、一息つこうかというところで、姉さんから飛んできたのはまさかの提案だった。
「ねぇ、晴輝。ちょっと水無月ちゃんと二人でガールズトークさせてくれない?」




